Hello and good bye

カシアは詠唱する。


『彼の地を開きし地獄の炎』」

(宙に浮かぶは数多の星)

「『炎は昇り神をも穿つ』」

(それを落とすは星の伊吹)

「『世の理も穿ちし我が炎』」

(さぁ、星の造り手よ)

「『今に全てを灼き尽くさん 』」

(その力、今解き放たん)


Xもそれに合わせて、詠唱する。


『光を呑みこむ暗黒の使徒』

(天地開闢の雷鳴よ)

『今こそ我を染め上げよ』

(我に注ぐは慈愛の雷)

『我の全てを呑み込む時』

(我が敵、慈愛の雷にて)

『汝は全てを滅ぼそう』

(天地開闢の踏台となる)




「『ヘルバーンスピア』」

(アース・インパクト)


「『漆黒の破滅者』」

(万物始業の光)



4つの魔法が、完成した。


地獄の炎の槍。

大地の怒りによる隕石。

この世の終わりを告げる破壊の闇。

この世に始まりの光と罰を与える雷。


これらの厄災が、城壁の上から国に降り注ぐ。



「……少し、昔話をしようか。」


国の人々が逃げ惑う中、カシアは魔法を眺めながら、絶句して立ち尽くすユイカとユアに話しかける。


「…私が、この容姿になった経緯は、大体わかるかな?」


2人は頷く。カシアは話を続ける。


「ご想像通り、この髪はストレスで白くなった。そしてこの左目は、魔法で吹っ飛ばされて、こうなった。」


カシアはユイカとユアに視線を送る。

それは殺意では無く、答えを求める目だった。


「……人間は、魔法が使えれば、他人を見下し、殺す生き物なの?」


ユイカは黙り込む。

魔法は皆が使える。使えない人は居ない。


そう、思っていた。でも、居た。

しかもその人は、ただ魔法が使えないだけで、

人生を狂わせる程に、ぐちゃぐちゃに壊されてしまった。


普通の人だって、魔法が上手く使えれば、上手く使えない人を見下し、自分が上であると証明したがる。


人間とは結局、自己満足の中で生きる自己中心的な生き物なのかもしれない。


でも。


「……そうかもしれません。ですが。」


ユイカは自分の気持ちに正直になり、答える。


「九割位の人がそうかもしれませんが、残りの少数の人は、貴方を否定しません。」


現に、ユイカ、ユアは魔法が使えなくても、

カシアを信頼し、尊敬している。


キルトだって、きっと態度を変えなかっただろう。なんだか、そんな気がする。


「「……………」」


お互いに、静寂の時が流れる。

そろそろ、魔法が国を破壊する。

ユイカとユアは、ただただカシアと国を見守っていた。


ふと、魔法を見ていたカシアが言う。


「…この世界には、貴方みたいな馬鹿も、いるのかな?」


ユイカは頷けなかった。

私だって、助けられてなかったら、もしかしたら、貴方という物を殺してしまった奴らと同じになっていたかもしれないから。


でも。


「…いると、思います。私は、そう信じたい。」


そう、信じたい。ただ、そう思った。

その言葉に、カシアは少し笑う。


「この世界の人には平等に絶望を振り撒く。」

「けど、貴方みたいな人は、嫌いじゃない。」


そう言うと、空に浮かび始める。


「止めに来るなら、いつでもおいで。」


そう言い残し、姿を消した。


ユイカは城壁の壁を背もたれにへたり込む。

怖かった。もう前のカシアさんじゃなかった。

何時でも私たちを殺せる、と思わされ続けた。


静かに泣いた。

気付けなかった自分を責めた。自分はまだあの人の事を何も分かって無かった。

勝手に、なんでも知ってる面をしてた。

勝手に、家族だと思った。大切な人だと、思った。でも、違った。



「ッぐぁっ」


そんな声が後ろの方から聞こえる。


振り向けば、キルトが起き上がっていた。


「……キルトさん。」


ユイカは今にも死にそうな声で言う。

多分、カシアが起こして行ったのだろう。


「一体、なに、が…?」


キルトは痛みが酷いようで、起き上がれずにいた。彼が横を見れば、魔法が国に落ちそうである。もう、高い建物は溶け始めている。


「とりあえず、離れるよ!ごめんね!」


ユアは2人を乱暴に抱えて城壁から飛び降り、

国から全力で離れる。


飛び降りてから数秒後、アルム王国から

光の柱が立つ。


そしてこの日、アルム王国は蒸発した。

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