ダ レ ?

目をつぶる。何も見えない。聞こえるのは魔法の轟音。それが私にぶつかるのを待ち望む。




が、来ない。あれ?音が聞こえない。何故?

魔法が消された?時間が止まってる?

疑問が次々と浮かぶ。


でももうカシアは目を開けたくなかった。

もうあの顔を見るのは、嫌だから。


「……。……ーい。おーーーーい。」


声が聞こえる。目を開きたい。でも、すごく怖い。開いたら、また望んでもいないものが映る。こんな声、聞こえてないはずなのに。



……誰の、こえ?



反射で目を開いてしまった。

聞いたことのない声。


「やぁっと目ぇ開けたか、愚図」


知らない、人。

でも、目の前には誰もいない。

時間が止まってる。何も動いてない。

私と、この声だけ動いてる。


「何、心配すんな。これ聞いてんのはお前だけだよ。」


話しかけてくる。私に…話かけてくる。

私に………


「…話……かけて…………くるな…!」


硬直していた体が動く。

頭に『ファイアバレット』をぶち込もうとした。だが、ぶち込む直前で止まった。


「邪魔すんなよ…!」


『ファイアバレット』を解除し、耳を手で塞ぎしゃがみこむ。声が聞こえないように。

もういいんだって。大人しく死なせてくれ。


「もう…………!」


「もうこんな世界が嫌になった……か?」


(……………!)


謎の声に当てられた。

心でも読んでいるかのように。


「こんな世界…か…確かに私も嫌だったな。」


まるで経験したことのあるかのように話す。

その声には悲観が含まれている。


カシアはそんな事を考える余裕もない。


「黙れ…黙れよ!同情とか!そういうのは!」


息を思いっきり吸い込み、言葉を吐き出す。


「自分と!同じ立場に!なったやつだけが!」

「そういうクソみてぇな感情を!」

「向けられるんだよ!!」


時間が止まっているはずなのに、木々が揺れたような感じがする。静寂の世界に、ひとつの嘆きが響き渡る。


「…そうか。」


謎の声が何かを納得したように話す。


「では少し、私の話をしよう。」


「興味ねぇよ!そんな話は…」


カシアの怒りを遮って声が続ける。


「…私も、魔法なんてものは使えなかった。」

「いや、使えたな。『禁忌魔法』が。」


その一言に、カシアは怒りより混乱が湧く。


「……はぁ?お前が…『禁忌魔法』を使ってるだって?」

「そんな訳…」


「現に、時間を止めているだろう?」


ハッとして、カシアは周りを見回した。

確かに、カシアの魔法も、止まっている。


「どうだ?これで私への疑問は晴れたか?」


声が少し嘲笑っているような感じがして怒りがまた湧いてきたが、それを堪え、疑問を投げかける。


「晴れてない。素直に聞くが、お前は誰だ?」


カシアが真剣になっているのを見て、謎の声の主も答える。


「…私は」


「…いや、今は何者でもない。Xとでも呼べ。」


曖昧に返され、カシアはついに怒りが溢れ出した。


「はぁ!?ふざけんな!他人に手ぇ出しといて自分はなんもしねぇのか!?」


ブチギレるカシアにXが言う。


「うるせぇぞひよっこ。」

「もし私に勝てたらそん時教えてやる。」


カシアは怒りのままに言葉を綴る。


「そんなら今勝負しろ!姿を現せ!」


が、Xの姿は現れない。声も聞こえなくなった。


「はっ!大口叩いておきながら怖気付いて逃げたか!」


カシアはこれまでに無い程邪悪な笑顔を浮かべ、辺りを見回しながら魔法を展開しまくっている。すると、Xの声が聞こえる。


「…はぁ。お前まだ気づいてないのな。」


「何にだよ!!」


「………?」


カシアはその言葉の意味が分からなかった。

だが、体を動かそうにも、動かない。


なンデ?ウゴけよ!


そんな言葉が浮かんでは消えてを繰り返していると、Xから呆れた口調で言われる。


「お前、もう死んでるぞ」


下を向けば、胸に大きな穴が空いていた。

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