そノ後

「ただいまぁ〜」


カシアが家に入ってそう言うと、


「お姉ちゃん!」


ユアがどたばたしながら玄関まで走ってきた。


「大丈夫だったの!?怪我は!?」


と言いながらその機械の目でじっくりカシアを見た。そして、とりあえず安堵の息を零す。


「とりあえず怪我はないけど…『成功作』と、何があったの?」


と疑問を投げかけてくる。


(しまった…顔に出てたか……?)


カシアはそう思いつつもさっき起きた出来事を全て話した。



「…そっか、見逃されたんだね。」


ユアはとても悔しそうな顔で唇を噛む。怒りとかの感情を必死に押えているようだ。


「まぁまぁ。結果的にみんな無事なんだし良かったんじゃない?」


カシアが慰めると、ユアは少し上機嫌になって


「ま、まぁ、お姉ちゃんがそう言うなら…」


ともじもじして目をそらす。

しかし心配なようで何度もこちらを見ている。


「…良かったですね。機嫌直って。」


「全くだね。これで機嫌悪くなったらどうしようかひやひやしてたよ」


やれやれ…といった感じで、みんなで話しながら家に入って行った。




「てな訳で…」


カシアが椅子から立ち上がり、2人を見る。


「まぁ、とりあえず、当初の目的はみな無傷で達成できました。」


ぱちぱちと手を叩くが、叩いたのはカシアだけだった。2人はテーブルを見つめる。


「まぁ色々あったし素直に喜べないけどさー」


その言葉にユイカとユアはカシアを心配そうに見る。まぁあんな事があった後なのだから、2人も心配するのはしょうがないとも思う。


「まぁまぁ、少なくとも今2人は元気なんだから気にすること無いけどねぇ。」


不意に、カシアは玄関まで歩き出した。

2人はついて行き、問いかける。


「……どこに行くんですか?」


そこには単純な疑問が7割と、心配が3割混ざっていた。ユアもユイカの後ろからこっそり覗いている。

カシアは振り返り頑張って取り繕った笑顔で、


「ちょっと、外の空気を吸ってくるだけ。」

「すぐ戻るから!」


と言い、外に飛び出して行った。


「お姉ちゃん!まっ…」


ユアが追おうとしたが、ユイカがそれを止めて2人で家の中に留まった。






「はぁ…はぁ……ふぅ。」


何も考えずに走り、気がつけば森に来ていた。

そこは、初めてユイカと会った場所。


「…ユイカも、成長したなぁ。」


初めて会った頃は身長は小さかったし、髪も伸びてなかった。何が音が鳴る度ビクビクして、私の後ろに隠れて、服を摘んでいた。



改めて思い出すと、とても可愛らしかった。

まるで妹のようだった。

だが今は違う。もう頼れる姉みたいなものだ。

今後私が干渉しなくても、この世界でも強く生きて行けるだろう。


ユアだって、しっかり自分の目的を持っている。それに真っ直ぐな姿勢で進んでいる。

多分これからも目的を曲げるといった事はしないだろう。




それに比べ、私はどうだ?

『禁忌魔法』を使えるようになってから、人生は大きく変わった。とても楽しくなった気がした。自分はこのままで生きてていいんだって、思えるようになった。


私と同じ境遇の子を見つけた。救えた。

可哀想な子も助けた。周りの人とも話せるし、信頼してる。成長してる。強くなった。賢くなった。ちゃんと、成長してる。



……どこが?何が成長したの?

その成長で一体何をするの?



頭に響くマイナス思考。自分が分からない。

何がしたい?何をしたい?何が出来る?

私は……




…何も、出来ないくせに。



「…………私だって、がんばった。」


頑張った。でも、壁は大きかった。

私が頑張ってきた時間をぶつけても、届かなかった。多分、これから同じ時間を過ごしても、何も変わらない。

また昔のように、傷を増やすだけ。



それじゃあ今後、何をする?何が出来る?

昔から、何をしてきた?



「私は……何を……成せる…?」


目の前には展開した1本の剣。


手に取り、刃を見る。顔が映るが、自分でも見るに堪えない絶望した顔。目には光が宿らず、口角だけが少し上がっている。


「……」


首に刃を付ける。ひんやりしていて、気持ちがいい。皮膚が少し切れて、ちょっと痛い。

痛い。…痛い。


「…やっぱ、無理だね。」


剣を投げ捨て、手を上に掲げる。


片方の手は魔法を。

もう片方の手ではもうひとつの魔法を。


「『彼の地を開きし地獄の炎』」

(宙に浮かぶは数多の星)

「『炎は昇り神をも穿つ』」

(それを落とすは星の伊吹)

「『世の理も穿ちし我が炎』」

(さぁ、星の造り手よ)

「『今に全てを灼き尽くさん 』」

(その力、今解き放とう)


「『ヘルバーンスピア』」

(アース・インパクト)


詠唱が終わると、

脳が焼き切れる感覚があった。

自分に向けてその魔法が放たれる。

あぁ、なんて美しい。


これでやっと、私は、忌々しい私から解き放たれるんだ!

そう思い、カシアは目を閉じた。

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