ひと段落

「…泣きやみましたね」


ユイカはカシアを離して立ち上がる。


「…敬語、戻しちゃうんだ。」


カシアが目を擦りながら言う。

ユイカは気恥しそうに口をすぼめ、


「だって、恥ずかしいんですよ!いつも敬語で話していたので!」


と言いながら振り返り、森の奥へ進んで行く。


「さぁ!本来の目的の!『裏世界』への道を探しましょう!さぁ!いきまsぅわぁ!?」


『行きましょう!』と言いかけたところで、ユイカは何も無い所で思いっきり転んだ。


「いったたた………もう!なんなんですかこの段差!」


と、恥ずかしさから段差に向かって特大『ファイアボール』をぶっぱなしそうになった。

が、カシアが何かに気付き、


「待ったユイカ。そこよく見て。」


と止めた。ユイカは段差が自然物では無いことに気が付き、少し落ち葉を退かしてみる。


するとそこには、半径3m程だろうか?もしかしたらもう少し大きいかもしれない、魔法陣が描いてあった。


「カシアさん!これって…!」


2人で目を合わせる。


「うん。恐らくだけど、『裏世界』へ行く為の魔法陣だね。」


カシアは試しにその辺で捕まえた野生の小動物を、魔法陣に投げ入れた。

しかし、何も反応しなかった。

ユイカが転んでいても反応しないし、

もしかしたら何か条件があるのかもしれない。


「うーん…生物に反応して転送させられる訳じゃないのかな?」


と言いながらカシアは木の枝を魔法陣の上に投げた。

カシアの予想通り、魔法陣は光らなかった。


「多分条件とかあるんだと思います…けど。」

「これ、絶対見失いますよ…」


ユイカはカシアを見る。


「そうだねぇ…何か印でも付けておこうか。」


そう言うとカシアは周りの木を切り倒し始めた。


「カシアさん!環境はなるべく大事にしなきゃだめですよ!」


ユイカが謎の観点から怒る。が、カシアは切り続けた。なんかもう、今更感がすごい。


10分くらいして、魔法陣から2m四方には木々が無くなった。


「よーっし。じゃ、ここらに結界を張るよー」


そうしてカシアは、魔法陣の辺りに

『グラディオス』で生成した剣を一定間隔に突き刺した。


「『我が剣よ、我が呼びに答えよ』」

「『其の刃、何人たりとも通さず』」

「『故に名は『結刃』なり』」

「『その役目、今に示せ』」


と唱えると、剣のポンメル(持ち手の先端)

から線光を放ち、魔法陣を中心に広がった。


「カシアさん、これは…?」


ユイカが触れようとした瞬間、その場所には何も無くなって、落ち葉だけが見えた。

入ろうとしても体が勝手に避けて通る。


「これはまぁ、『結界』みたいなもので。」

「使用者以外は見えないし、通れない。」


と、カシアが『結刃』に入ると、姿が見えなくなった。


「おぉー。すごいですねこれ。」


ぱちぱち、と拍手しながら辺りを1週した。

カシアが出てきた所で不意に、指輪が光を放った。


「な、なななんだなんだ」


焦って目をぐるぐるさせるカシア。

ついには自分もぐるぐる回り始め、ユイカに宥められた。


「落ち着いてくださいカシアさん!この指輪どうやって使うんですか!?」


とカシアを取り押さえながら言うと、カシアは


「たたたた確か、まりょ、魔力を使って…魔力ないじゃんか。どうすんのこれぇ」


なんか焦りが1周まわって変な事になっているカシア。仕方なくユイカが指輪に強引に魔力をぶち込んだ。すると、指輪から声が聞こえてきた。


「…い!おい!大丈夫かい!?」


キルトは相当焦っているようで、前の落ち着きがないように感じられる。


「キルトさん!こちらユイカです!どうかしまし…『なんだこ…いでっ』ちょっと、カシアさん!そろそろ落ち着いてください!…あ、すみませんキルトさん!少し状況が悪くて!その、ご要件は!?」


ぜぇはぁしてカシアを再び取り押さえながら言う。これこそ、本物の阿鼻叫喚と言うものである。


「その感じ、一応無事なんだね。良かった。」


と、こちらからも分かるように胸を撫で下ろすキルト。


「あ、あのー、何かあったの?」


ようやく落ち着いたカシアが起き上がりながらキルトに問う。


「あぁ。実はさっき、君達が行った森からとてつもない魔力反応と火柱が見えたんだ!」


あぁ…と状況を察す2人。


「だから君達が無事かどうか心配になったんだ…いくら強いとはいえ、12歳だからね。」


キルトが本気で心配してくれているのだとわかり何とも言えない気持ちになったが、


「まぁ、こっちは大丈夫ですよ。最初は地震かと思いましたけどね。」


こっちが主犯、とは口が裂けても言えないのであくまで傍観者だったということにしておく。


「そうか…本当によかった。…出来れば、調査に同行してもらいたいのだけど…」


キルトが恥ずかしそうに言う。が、ユイカは


「それはそっちで頑張ってください。私達はちょっと強い12歳なんで。」


と無邪気な演技で返してみた。

はははっと笑い声が聞こえた後、


「わかった。君たちの冒険を邪魔は出来ないからね。ごめんねっ急にこんな事して!」

「あ、その指輪はもう捨てて大丈夫だよ!それじゃ!」


と言って切られてしまった。

2人立ち尽くすが、


「………帰りましょうか。」


「そうだね…ユアも待ってるしね。」


と言い、ワープで家に戻った。

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