禁忌魔法使いの世渡り

己は小さく敵は大きく

森に剣が交わる音が響く。

木々は斬られ、土煙が立ち上る。

その中心には、2人の少女がいた。

「はぁぁぁぁ！」

カシアは全力で剣を相手に振りかざす。

しかしユリに簡単に弾かれ、距離を取られる。

「…貴方には、驚かされるばかりね。」

ユリがカシアに言う。

「私に『紅蓮』を抜かせて、ここまで長く戦っているのは人間じゃ初めて。」

「そりゃどーも。」

カシアも気を抜かず答える。

「私は貴方を敵として認める。だから少し本気を出してあげる。」

そう言うと、ユリはさっきまでとは違う形で大剣を構えた。カシアも反応できるように剣を構え、『グラディオス』をさらに展開する。

「…紅蓮2式」

そう聞こえた頃にはユリは視界から消え、カシアの背後にいた。

「『クロノ…』」

「『炎絶斬』」

カシアが『クロノシリア』を展開するよりも早く、ユリの大剣がカシア目掛けて斬りかかってきた。

ギリギリ反応できたカシアは手で持っていた剣と展開していた剣全てで受けるが、あまりの力に剣は砕かれ、カシアは吹き飛ばされた。

「…ッがっ」

上手く受身を取れず、岩壁に叩きつけられた。

「ちッ…見えなかった…」

あとほんの少しでも遅れていたら、今頃は真っ二つになっている事だろう。

カシアは愚痴を言いつつ地面に足をつけた。

「…………なにか、聞こえる？」

遠くから何か聞こえた気がする。

耳を澄ます。

「『…在りし焔の神よ』」

「『我を知り、我を見よ』」

「『そなたの焔、今一度お借り致す』」

飛んできた方向から、離れていても分かる程に圧を感じる。今にも押し潰されそうだ。

「…やっばいかもな」

カシアは呟き、『クロノシリア』を展開してその場から直ぐに離れた。

離れて『クロノシリア』を解除した時。

「『最古たる焔の舞』」

「『オルダーフレイム』」

そう聞こえた。そして絶句した。

さっきいた場所には、

オレンジ色に輝く美しい炎柱があった。

まるで、空で炎が舞っているかのような美しさだった。

「………きれい。」

そう、呟いた。胸に刺さった紅蓮に気がつかない程に、感動していた。

「……これは、私の完敗、かな…。」

近付かれた事にも気がつけなかったカシアは

紅蓮を抜かれ、血を吐きながら倒れる。

ユリはそれを見下ろし、

「久々に楽しめた。…私、貴方に興味が湧いてきた。」

と言うと、カシアの元に寄ってくる。

「……な、にを…」

「黙ってて。」

そう言うとユリはカシアに『回復魔法』を使用した。

「…なんで治したの？」

カシアは痛みを堪えて起き上がり、当たり前なことを言う。

「それは…ただ、貴方という存在に興味がでてきただけ。ここで倒しても、面白くない。ただ、それだけ。」

ユリは初めて純粋な笑顔を見せた。

脳裏にはユアがチラつく。

「…もしかしたら貴方より強くなるかもよ？」

カシアはねっころがり、ユリを見て言った。ユリはいたって余裕そうな表情で、

「…そんな日が、来るといいね。」

と言い、森に消えていった。

「…………はははっ」

森に1人残ったカシアは、ねっころがりながら腕で目元を隠して、静かに笑った。

腕をどかせば、目元にはいつの間にか空に浮かんでいる星が写っていた。

「カシアさんっ！」

数十分たった後、ユイカがカシアの元に駆け寄ってきた。

「カシアさん！大丈夫ですか！？」

と心配そうに顔を覗き込んできた。

カシアは目元を拭って、

「うん。………本当に何も、出来なかった。完敗だった。」

と言いながら起き上がった。

「完敗…？それって、どういう…？」

ユイカが疑問の眼差しを向ける。

それはそうだ。負けたのなら、死んでいるという事だから。

カシアはそんな疑問は気にしておらず、満天の星空を見上げ、

「…私は、あいつの中で、まだ取るに足らない存在だった。」

「普通に考えれば、そうだよね。ちょっと前まで無能だったんだから。」

「……でも………流石に、悔しい、なぁ…。」

そう、呟いた。作り笑いをしているが、今にも泣きそうであるのは見て取れる。

その目には、空の星を写していた。星を見ているかのようだ…が、他のものを見ている。星よりさらに上にいるあいつを。

それはどこまでも儚げで、今にも感情を抑えるダムが決壊しそうであった。

ユイカはなにが起こったのかわからないが、

それだけは確かに分かった。

「……きっと、大丈夫なはすです。カシアさんは……いや。」

ユイカは心を決め、

「…カシアなら、きっと、大丈夫。」

と言い、優しい笑顔でカシアの頭を撫でた。

予想外だったのか、カシアは相当驚いていたが、遂に感情が溢れだし、ユイカの胸に泣きついた。

その泣き声は、とても悔しそうだった。