怒りと本気

丁度、ユイカはカシアの所に着く頃だった。

そんな時聞こえてきた。


「もぅ!うるさいなぁ!そんなに見たいなら見せてあげるよ!よーく見てなさいよ!私の今の本気!」


ユイカは今までカシアの本気を見たことがなかったので滅多にないチャンスと思い、見る事にした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「どうなっても知らないんだから!」


大声で男に向かって言い放つ。


「はっ!剣振り回すしか脳がねぇガキに何が出来んだよ!お前あれだろ!魔法が使えねぇんだろ!?この世界に生まれてきて恥ずかしくねぇのかよ!なァおい!?」





「………………は?」




カシアはその言葉に無理やり思考を停止させられた。こいつは、何を言っているんだ?


それは、私の、事か?




「……そんなに死にたいなら殺してあげる」


「『クロノシリア』」


時が止まる。男も。ユイカも。世界さえも。


「『フォレストル』」


突如地面から生えてきた植物が男を拘束する。


「『グラディオス』」


瞬間、カシアの結界内に無数の剣が展開される。展開し続け、遂には結界の上部は剣でいっぱいになった。


「『フレイムバレット』」


カシアがそう唱えると、カシアの前には10個程の『ファイアバレット』の様なものが展開された。


カシアがそう呼ぶ『それ』は、通常の物とは少し違う。『ファイアバレット』は炎。つまり赤だ。だが『フレイムバレット』は青い。

火力は倍以上に上がるが、速度が落ちる。

相手を拘束していれば問題無いが。


準備が終わった。


「『クロノシリア』解除」


時が動き出す。余裕の表情を浮かべていた男の顔は一瞬にして曇る。


「…はぁ!?なんだこれ!?……くっそ!動けねぇ!」


「だからさっき言ったでしょ。どうなっても知らないって」


そう言うとカシアは手を前に出す。


「お、おい!情報ならなんでも吐く!お前の言う通りにもする!頼む!殺さないでくれ!」


男は懇願した。

が、カシアは生かすつもりは無い。早く殺したそうであった。目には光が灯っていない。


「いくらなんでも虫が良すぎだろ。とっとと死ね。」


『グラディオス』が3本、男に向かって射出された。


頭、胸、腹。深々と刺さり、男は死んだ。

凄惨な光景にユイカは吐きそうになった。

内蔵は飛び出ているし、体もぐちゃぐちゃだ。


しかし、なんであんなに展開したのに、少ししか射出しなかったのか?とユイカは疑問に思った。


次の言葉を聞き、ユイカは耳を疑った。


「…『死者蘇生』」


男に向かって言った。

すると男はぐったりしていたのに、何かを思い出したかのように、ガバッと起き上がった。いつの間にか拘束は解けているし、傷も無くなっている。


「…は?…え?……な、何が起きて…」


「……『グラディオス』」


また、男は、5本の剣によって串刺しにされ、死んだ。


「『死者蘇生』」


また、起き上がる。そして、『グラディオス』で死ぬ。そして起き上がり、『フレイムバレット』で焼かれる。そして起き上がり、『グラディオス』で死ぬ。そしてまた……



ユイカは絶句していた。何故こんな事をするのか。見えたのは、何度も男を殺す1人の悪魔と、泣いて懇願する兎だった。地面は、男の血で池が出来そうだった。


「な、なんでこんな事するんだよ!この悪魔野郎が!」


男が苦痛でぐしゃぐしゃの顔面でそう言う。

カシアは気にせず殺す。


そして、もう1度起こして言い放つ。


「…悪魔だ?お前のがよっぽど悪魔だろ。どんだけ人殺した?その人達に罪はあったか?無かっただろうなぁ!お前らが好きで殺してんだからなァ!」


怒りに任せた『グラディオス』は、男の原型も残さず、男は肉片になった。そしてまた起こし、話を続ける。


「なァ!お前らにもある程度育つまでは親がいて!しっかり魔力もあって!真っ当に育てられたのにこんなんになっちまって!恥ずかしいと思わねぇのか!?あァ!?」


カシアは死んだ目をしていても顔に怒りを隠しきれていない。


「ひっ…」


男は畏怖した。目の前の少女は、本当に人間かを疑う程に。

カシアは止まらない。


「…お前、さっき私に魔力無しって言ったよな?あぁそうだ。私は魔力無しだ。無能だ。だから捨てられんだ。勉強と運動くらいしか取り柄の無ぇクソガキだったんだ。が。私も少しぁ頑張ってんだ。それをなぁ。お前みてぇなろくに苦労もしてねぇのに自分が他人より上だと思い込んでやがるクズに貶されんのがいっっちばんムカつくんだよ!」


また、怒りに任せて何度も殺した。

自分の手でも殴り殺した。

もう展開していた魔法も使い切った。


「た、たの、む、もう、ころし、て、くれ…」


男はもう生きる気力を感じない程に精神が衰弱していた。


「殺すわけねぇだろ。私はお前らをできる限り苦しめてやる。これは私だけじゃねぇ。お前らに殺された皆の怒りだ。」


そう言うとカシアは結界を解き、距離をとる。


「ユイカ!私んとこ来い!」


荒々しく呼ばれ、びっくりしたがカシアの後ろにくっついた。今のカシアは、悪魔そのもののようだ。


「『深淵より来たりし地底の使者よ』」

「『我が命に従いその門を開け』!」


もの凄い地響きが起きて、激しく揺れた。


「な、にを、して、んだ…!」


男は死にそうな声で言った。


「何って…お前たち全員を仲良く苦しめてくれる奴らのご登場だ。」


そう言い終わると、地面には禍々しい門が現れた。本当に、地獄の入口の様だ。

門が開く。何故か男は浮いている。すると、1人の男…いや、悪魔が出てきた。


「これはこれは…随分と小さくなられたご主人様なことで。」


礼儀正しく挨拶をする悪魔。


「ロストアビスより参りました…」

「使者代表代理のゼストと申します。どう言ったご要件でございましょう。ご主人様。」


ロストアビス…聞いた事もないものが出てきて、ユイカは困惑するが、カシアは表情ひとつ変えなかった。


「ゼスト。あの男とここの賊ども全員を殺さず、できる限り、苦しめてくれ。期限は無期限。供物はこの洞窟に居る私とユイカ以外のやつらに殺された人の魂全て。責めて向こうで仕返しくらいさせてやってくれ。」


「承知致しました…ではこれにて。」


と言うと、ゼストは男の頭を掴みあげ、


「いつか、こちらにお顔をお出しになられて下さい。我等の主はいつでもお待ちになっております。」


「わかってる。今年中には行く。」


会話をし、門は沈んで行った。


………

気まずい空気が流れる。


「ふぅー。」


カシアが肩の力を抜く。心做しかさっきより空気が柔らかくなっている。


「あ、あの…カシアさん…?」


さっきまでが恐ろしすぎて、普通に話せない。

いつもどうやって会話していたのか、忘れてしまったかのようだ。


「…ごめんね。ユイカ。怖かった?」


カシアはユイカの頭を優しく撫でる。

あぁ。いつものカシアさんだ。

嬉しかった。このまま戻らないのかと思った。


「あの…あの門は一体なんなのですか?」


カシアがブチ切れていた理由については、怖いので聞かない事にする。


「あぁ〜…あの門はねぇ…うーん。どう説明しよう。」


少し困った表情で考えていた。そして思い付いた感じで指を弾いた。


「あれは、地底の底。まぁ人間で言ったら地獄?みたいな場所、忘れられた土地、『ロストアビス』への入口、かな?」


ユイカは分からなかったが、怖い場所なんだと納得した。


「さて。疲れたし、帰ろうか。」


カシアが言う。が、まだ賊のボスを倒していない。


「カシアさん。ボスはどうするんですか?」

「…あ」


気が付いた。さっき、この洞窟内の賊は全部居なくなったのだった。


「そだよ。もう居ないから、短剣だけ持って帰ろう。」


「わかりました。」


なんか締まらない感じだが、取り敢えずいい事にした。

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