依頼
先に動いたのは、ユイカだった。
展開していた『ライトニング』を男に向かって射出した。音速を超えているとは言え、男はそれを軽く避けた。
「んなもん、当たるわけねェよな!?」
男が叫びながら高速で近付いてくる。
「そんな事、分かってますよ。」
ユイカはあらかじめ展開していた『ファイアボール』と『ロックシュート』を時分の前方へ射出させた。
逃げ場が無い程の密度でそれぞれが飛んでいく。が、男も慣れているようで、弾きながら体に当たらないようギリギリを攻めて近付いてくる。
「ひャァ!」
男が手に持った短剣をユイカに向かって振りかざす。あと少しで当たりそうだ、という所で、ユイカは
「『ロックスピア』」
と詠唱し、地面から先が鋭くなった土を男に向けて伸ばす。
「ちィっ」
男は避けるしかなく、体を捻り距離をとった。
「なかナかやるじャないか。壊すのが勿体ない位にハな。」
「お褒めに授かり光栄です。」
そう言うと間髪入れずに『ライトニング』を男に向かって射出しまくる。
「そんなばかスか打っちまって、魔力は大丈夫ナのかァ?」
男が煽ってきた。そこでユイカは
「…ッつ」
と、一瞬苦しそうにする。
男はその隙を見逃さず、さっきよりも速く突っ込んできた。
「貰ったァ!」
基本魔力切れになった人間は動けない。
魔力を切らしてしまえば、それこそ命取りになる。
男はユイカの首に向って短剣を振った。
すぐに首に当たる。もう次の女の事を考えていた。しかしその時には、自分の腕が無かった。
「…ァ?」
何が起きたか分からず、切られた腕を見て硬直していた。
「『ロックスピア』」
そう聞こえた時には、男の腹には大きな穴が空いていた。
「ふぅ。」
ユイカは魔力切れの演技をし、『ウォーターカッター』を隠して展開していた。少し狡いかもしれないが、命のやり取りなのでこれくらいは許されるだろう。
ユイカは一息つく。そしてカシアの方を向き、カシアの元へ向かおうとした。
その瞬間だった。後ろでカキィィィン…と
音が鳴った。後ろを見ると、カシアがいた。
カシアはこの状況を察し、『クロノシリア』を使っていた。
「ユイカ。戦いは最後まで油断禁物。」
そう言われカシアの足元を見ると、先程まで戦っていた男の短剣が転がっていた。
恐らく、目を離した時に投げられたのだろう。
カシアがいなかったら、死んでいた。
「くソっ…悪あガきもだめか…」
血を吐き倒れながら、男はこちらを見ている。
「残念。私がいなかったら殺せてたかもね。」
そしてカシアはユイカに近付き、
「ユイカ。あの魔力切れの所の演技は上手かった。魔法も上手く展開できてたし、駆け引きも出来てた。最後の所を引いても90点。」
頭を撫でながらそう言い、頭から手を離して男に近寄る。
「カシアさん?どうしたのですか?」
正直なところもう少し撫でて欲しかったが、謎な行動に、ユイカは困惑していた。
「いやぁ、こいつ、多分色んな女性を捕まえて遊んでは壊してたんだよね。気分最悪だから、少し仕返しをしようと思いまして。」
とてもニコニコしている。あの時のカシアさんは怖い。
「な、な二をする気だ…?」
男は恐る恐る聞いた。
「なにって…お前のき○玉ぶっ潰してやるよ」
ユイカの悪い予感が当たった。あの目は完全に逝っている。あれじゃあの男と一緒だ。男はもう諦めたかのように、言った。
「はっ…最後にシちゃ、悪くねぇカもな。なんせ、ロリに、俺のき…」
「ふんっっ!」
何かを言い切る前に、思いっきり蹴った。身体強化マシマシで。男のいい嗚咽が響く。
「もし生まれ変わったら、悪い事すんなよ。」
死にかけの男にカシアは言った。
「ハっ…そリゃ…保証でキねぇな…」
そう言い、静かになった。
場に残ったのは、男の死体、短剣。
ユイカの激闘の跡は、証拠隠滅をしておいた。
男が身につけていた金になりそうなものを追い剥ぎし、死体は骨まで燃やした。責めてもの弔いだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
とまぁ、こんなことがあった事を思い出した。
事の顛末を全て言った。
「多分、その3人の中の1人で間違い無いね。」
キルトが確信したように言った。
「あの男にはウチの人達もやられていてね。このギルドを代表して礼を言う。ありがとう。本当に。」
深々と頭を下げてくるキルトに対し、
「頭を上げてください!そんな事しなくても言葉だけで気持ちは伝わっています!」
焦って頭を上げさせるユイカ。
その言葉に安堵したのか、
「ふっ…君は優しいんだね。」
とキルトはユイカに嘘泣きしながら言った。
なんかこの人少しむかつく。
「ゴホン……で、その本題と言うのは?」
カシアが2人の空気に割って入った。
「あぁ、そうだったね。…まだ12歳の2人に言うのも少し酷と言うか、自分達が不甲斐ないと言うか…」
キルトが言葉を詰まらせる。
これでだいたい分かった。カシアが口を開く。
「少なくともこのギルドの人達よりも強い私達に、その賊団の討伐を依頼する、ということですか?」
キルトの顔が曇る。
「あぁ…そういう事だ。本当に不甲斐ないが…
この状況では、これが最善だと判断した。」
確かに正しい判断だ。賊の集団のトップ層の男を傷1つ負うことなく倒した2人だ。私でもこの状況なら頼むかもしれない。
「もちろん、成功すれば報酬は君達の望む物を出来る限り揃えよう。それに、断ってくれても構わない。」
ユイカを見ると、ユイカはもう決断できているようだった。なのでカシアは思っている事を言う。
「その話、受けますよ。ここまで来たら、最後まで助けようと思います。」
キルトは嬉しそうな反面、心配なようで、とても複雑な気持ちを表した顔になっていた。
「大丈夫ですよ。これでも私達、冒険者を目指すだけの実力はあるので。」
そうキルトを励まし、部屋を出て準備に取り掛かるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます