ある人物

2人が行ったのは、恐らくギルドマスターの部屋だろう。周りに人がおらず、仕事用の机と資料をまとめる本棚が置いてあった。


「さ、入って入って。」


キルトはいかにも自分が一番偉い人かのように机の上に腕を組んで座っている。いや実際一番偉い。しかし大分失礼だが、さっきの態度を見るとどうも偉いようには見えない。


「失礼します。」


そう思いながら2人は部屋に入った。


「何故私達をこんな所に呼び出したんですか?もしかして、ギルドで暴れたのが悪かったんですか?」


カシアは理由が分からなかったので、単刀直入に言ってみた。


「暴れたと言うよりは、絡まれたんですけどね。」


ユイカは呆れ口調で言った。


「はは。それは災難だったね。」


キルトは同情するように笑った。


「まぁギルドではあんまり暴れて欲しくは無いかなぁ。直すの大変だしね。」


キルトはベロを出しながら『てへっ☆』

という感じで言ってきた。暴れてやろうかと思うくらいにはイラついた。


「冗談冗談!君達を呼び出したのは、僕が興味を持ったからだよ。その歳で大人に引けを取らない強さだし。」


確かに、実力は見せた。だが、それだけでここに呼ばれる事があるだろうか。カシアは思考を巡らせた。


「キルトさん。他に何か要件があるんじゃないですか?」


不意にユイカが問いかけた。


「おぉ。君は察しがいいね、その通り。」


どうやら当たったようだ。ユイカ凄い。


「確か君達はバルバからここまで歩いてきたんだよね。」

「その途中、賊に襲われなかったかい?」


その言葉を聞き、思い出した。確かに襲われた事がある。


「確かにありますが、ここに呼ばれる事に関係があるんですか?」


ユイカは最もな質問をした。賊を倒したくらいで呼ばれはしないだろう。


「うーん、実はね、君達が持って来てくれた色々な物の中に、1つ興味深いものがあってね。」


するとキルトは、1つの短剣を机に置いた。

あの短剣は、賊から貰ったものだ。奪ってない。倒してたら落ちてたから拾っただけだ。


「その短剣がどうかしたんですか?」


見た所、普通の短剣に見える。だが、キルトには全く違うように見えているようで。


「これは、この辺りを統括している賊のボス直属の部下に与えられる短剣なんだ。」


確かに言われてみれば、持ち手の彫刻が少し凝っている感じもする。


「その部下が結構な強さでねぇ。3人しか居ないのにその1人に冒険者10人で一斉にかかっても傷1つ付けられないレベルなんだ。」


カシアとユイカはお互い見合った。

(そんな強い奴、いたか…?)と。


「誰か、思い当たる節はない?もしかしたらこれを持ってるだけの下っ端かもしれないし。」


「うーーーん……」


「そんな強い人、いましたっけ…」


2人で必死に思い出す。


「…あっ」


ユイカが何かを思い出したかのように目を見開いた。


「どうしたの?何か思い出した?」


カシアが聞く。


「1人、とっても女性に固執している人、いませんでしたか?」


「うーん、確かに、言われてみればその人、この短剣を持ってたかもしれない…かも?」


ぼんやりと思い出せた。それは、拠点を出てから4日後くらいの事だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「段々、外壁が見えてきましたね。」


ユイカは少し楽しそうにこちらを見てきた。


「そうだねぇ。意外と早くつけるもんだねぇ。」


実際、歩いて4日目だ。もう3分の2くらいは歩き終わっている。街が近いからなのか、近づくに連れ魔獣も少なくなっていった。


「さ、今日はそろそろ戻ろうか。」


「はい。そうしましょう。」


2人で戻ろうとした。その時だった。


「…ユイカ。」


「はい。魔獣ではありません。…が、普通の人でも無いようです。」


2人は異変に気が付き、小声でコミュニケーションを取り、構えた。敵意は無いが、殺気に似た、何か異質な物を感じ取った。


「おぉおォ、よく気が付いたな。」


そう言うと、1人の男が出てきた。身長は170cm位だろうか。少し痩せ型だ。


「気付かなければ、痛い事無かったのによォ。」


こちらを完全に舐めている。子供の体型だからか。カシアは警戒しながら、質問してみる。


「貴方、いい人ではないようだけど。誰?」


男は不埒な目で私達の体を見つめながら、


「それは関係ないだろぅ。どうせすぐ使えなくなるんだからなァ。」


と、言ってきた。

こいつ、イカれてる。暗くて細部までは見えなかったが、顔が月明かりで少しだけ見えた。あの目は完全に逝っている。異常者だ。口角も異常な程釣り上がっている。


「少なくとも私達の敵、と言う事でよろしいでしょうか?」


ユイカが言う。


「おィおぃ、寂しい事言うなよなァ。これから仲良しこよしするんだからよォ。」


恐らく、こいつは女性の子供を狙っているのだろう。こいつに捕まったら、色んな意味で壊される。


「ふん。特殊性癖のド屑と仲良しなんてごめんだね。私達を倒してからそういう事を言いなさい。」


そう言い、場は静まる。カシアは

『グラディオス』を展開し、手に1本、体の周りに3本の剣を展開した。

ユイカは、速度重視の『ライトニング』を展開、他基本3属性の基礎魔法を展開した。


カシアが前に出ようとする。そこで、ユイカがカシアを止める。


「カシアさん。私に実戦経験をさせて下さい。」


その一言にカシアは驚いたが、ユイカの意見はなるべく尊重したいのもまた事実だ。


「…わかった。相手も相当手馴れだし、危なかったら助けに入るからね。」


カシアはそう言って『グラディオス』を解除し、後ろに下がった。


「…あァ?1人でいいのかぁ?しかも…魔法使い1人でかァ?」


男は笑い、先程の対剣の構えではなく、スピード重視の構えに変えた。


そして今、戦いが始まる。

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