人の温かさ
「あの…ところで、一ついいですか?」
申し訳無さそうに疑問を投げかけるユイカ。
「どうしたんだい?…まぁ、だいたいわかるけども…」
さっきの事が嬉しかったのか、ニヤニヤしているカシアが
「さ、家はこっちだよ」
察して答えてくれた。
(この人…いまいち読めない…)
と思ったユイカはその思考を置いておいてカシアについて行く。
そして、二人は一つのドアの前に立った。
「な、なんでこんな所にドアが…」
驚くユイカを横目に、
「ここに二人で入るのは初めてだなぁ…」
と呟きながら入っていくカシア。
ユイカはついて行こうと、後ろにくっついた。
明るい光が目を刺す。慣れてきたところで、
ユイカはゆっくり目を開いた。
そして、驚愕した。
「なにここ…すっごくいい景色…」
ユイカの前には、途轍もなく広い自然の光景が目に入った。そして、辺りを見渡して、一つの家が見えた。
「さ、早く行こう。」
催促してくるカシアに、
「はい!」
と、元気に返事を返した。
そして、二人で家に入った。
「お、お邪魔しまーす…わぁ、思ったより広いんですね。」
目を輝かせて感心するユイカに、
「そうでしょー!まぁ私が言えたことじゃないけど…」
と照れるカシア。
だが、やるべき事を思い出した。
「そうだ。君の事について調べないとね。」
「まぁ調べると言うより、『試す』の方がいいかもな。」
そう言い、カシアは家の一室に呼び出す。
「ささ、こっちにおいで」
とお婆さんの様なことを言い出すカシアに少し困惑しつつ、ついて行く。
そして、小部屋についた。
「さぁ、今から解呪を試すよ!」
と言い出すカシアに、
「え?カシアさんって、魔法使えるんですか?」
ユイカは驚愕の表情をうかべる。
「魔力無しなのに、一体どうやって使うんです?」
と、ご最もな疑問を持つユイカに、
「それはね、この本が関係しているのだ。」
自慢げに言うカシア。
さっき開かなかった本だ、と思ったが、中には何が書いてあるのかわからない。
「それを話すのは、色々試してからねー」
曖昧にされてしまったので、後でしっかり聞こう。
そう思った。
「じゃー、まずは解呪魔法使うよー」
と言い、カシアはなにやら唱え始める。
「『付き物に縛られし者よ』」
「『物無くなりし時汝は自由なり』」
「『ディスペリア』」
唱え終わると、ユイカの体からなにやら凄まじい物が吹き出てきた。
「うわわぁっ」
あまりの強さに、カシアが部屋の端まで吹っ飛んだ。
「だ、大丈夫ですか!?」
と、ユイカは心配そうに駆け寄って言ってきた。
「だ、大丈夫…だよ…」
壁に叩きつけられて少し体は痛むが、問題ない。
「しかしまさか、本当に成功するとは…」
ごにょごにょとユイカに聞こえないくらいの声で言った。
驚きと同時、安堵の気持ちが出てきた。
だが、なぜ自分か吹き飛ばされたのか、分からなかった。けどもしかしたら。と思い、
「ユイカ、ちょっと外に行こっか」
と言って、ユイカを外に連れ出した。
そして、家から少しだけ離れたところに、『土壁』を出した。
「ユイカ、あの壁に何か知ってる初級魔法を打ってみて」
と言うカシア。だが、
「あ、あの…私、魔法使えないんですけど…」
と困惑気味に言うユイカ。
それはそうだ。魔力が無くて捨てられたんだから。だが、カシアはあれはもしかしたら魔力なのでは、と思っている。魔法を見たことがあるし、受けたこともあった。そしてその力に憧れ、その力を日常的に感じていたから。
困惑しているユイカに、アドバイスをする。
「なにか、体の中に巡ってる感じはない?」
「うーん……多分、あります。」
何かを感じたのか、手を見つめている。
「よーし、それを手に集めて集めて、溜まってきたら…」
と言うと、ユイカの手に魔法陣が構築され始めた。…あれ、魔法ってそんな簡単に使えるのかなぁ…そんな事を思いつつも、ユイカに更なるアドバイスをする。
「それを、一気に突き出すイメージで!」
すると魔法陣から、2mはある程の炎の球が出てきて、土壁に放たれた。凄まじい速度で飛んで言ったそれは、土壁を轟音と共に抉った。
「うわぁっ!魔法が打てましたっ!」
と喜ぶユイカ。だが、
「ねぇユイカちゃん。今の魔法は何かな?」
爆風でひっくり返りながら尋ねるカシアに不思議そうな視線を送りつつも、
「なにって、本で見た事がある初級魔法の『ファイアボール』をちゃんと念じましたよ?何かおかしかったですか?」
「…うーん、間違えては無い。けど。」
思い出すようにカシアは言う。
「普通、『ファイアボール』って、30センチ無いくらいなんだよねぇ…しかも、何も教えずに出来るなんて…」
カシアは『ファイアボール』を見た事がある。
そう、近所の子供が自慢して打っていた時だ。
その時は、あんなに大きくなかった。
子供とはいえ、あいつの親は宮廷魔導師。センスはずば抜けているだろう。だが、10センチにも満たなかった。どんなに凄い大人になっても、精々1m位だろう。もしかするとユイカは、魔力だけでなく才能もずば抜けているのかもしれない。
「…え?どういう事ですか?」
カシアの思い出は知らず、ただ思い返しているカシアを見つめていた。すると、
「いやぁ、凄いねって話だよ。」
また曖昧に答えたので、
ユイカは少しだけ不機嫌になった。
そこで、カシアはユイカに向かって、自分の仮説を言った。
「これは憶測だけど、やっぱり君は誰かの手によって魔力を封じられていた気がするねぇ。」
「さらに、その魔力はとんでもないくらい多かった。普通の『ファイアボール』は、あんなに大きくないし。それに、解呪した瞬間、魔力が溢れ出したでしょ?」
なるほど、あれは魔力だったのか。と納得するユイカ。
「確かにいつもより体が軽い気もします。」
「これも、魔力の影響なのでしょうか?」
問いを投げかけられたが、
「私は魔力を持ってないからねぇ。それはわからないや。」
投げやりに答える。何せカシアは魔力を持っていない。前に自分に『ディスペリア』をかけたが、効果はなかった。
「あ…ごめんなさい…忘れてました…。」
と申し訳なさそうにするユイカ。カシアは魔力が無いことを気にしている訳では無いので、
「気にしなくていいよ。魔力を持ちたいなんて考えたことも無いしね。今となっては私を嫌う人も居ないし。」
と、答えた。周りに友達と呼べる人がいなかったので、言われるのは親くらいだった。その親に捨てられたので、本当に誰にも嫌味を言われていない。
「良かったです…あ、そう言えばあの本についての話…まだ、聞いていないですよね?聞いてもいいですか?」
ユイカは話を変えるべくしてカシアに問う。
「まぁ、そうだねぇ、話すって言ったし…」
「…でも面白くないと思うよ。」
と一応言ってみるが、
「気になります!」
ユイカにそう言われてしまったので、
「しょうがないなぁ…少し、昔話でもしよっか。」
と言い、カシアは自分の今までの生活を話した。10歳で森に捨てられた事。
魔獣に襲われ、あの迷宮を見つけた事。
そして、あの『禁忌魔法』についての本の事。
あとは…まぁ、自分の為の魔法研究とか、ベッド作りとか。
5分、10分は話しただろうか。
「こんな感じかな。退屈だったんじゃない?」
と言ってみるが、
「そんな事はありません!為になりました!」
明るく返事をしてくれるユイカ。
(なんだこの子。優しすぎないか。)
と内心思いつつ、少し恥ずかしくなった。
「私、捨てられて人生を諦めたんだと思うんです。」
何か自分語りを始めるユイカ。
「襲われた時は、本当にもう終わったって思って諦めました。でも、助けられて、この話を聞いて、やっぱり。」
一泊置いて、
「カシアさんは、凄いと思います。」
想像もしてなかった言葉が飛び出てきた。
「…ふぇっ?」
急な賞賛にカシアは変な声を出してしまった。
「捨てられた時、必死に生きたいと思ったのでしょう?逃げて逃げて、生きたいと思っていたから、諦めていなかったから、この迷宮を見つけて逃げることが出来た。」
「一人で理不尽に立ち向かえたんです。それだけで、私なんかよりも凄いです。」
急に褒められた。本当に12歳の子が言う言葉なのか疑った。けど、それ以上に、何故か心に響いた。
何十年も、一人でいた。寂しくなかったと思っていた。だが、いざ人の温かさを感じると、こうも涙脆くなる。
気が付けば、泣いていた。
自分自身が他人に認められて、嬉しかった。
本当はずっと一人で寂しかった。苦しかった。何回も諦めそうだった。でも、私も、この子に救われたのかもしれない。
「カシアさんは、偉いです。よく頑張りました。」
12歳の子が、膝の上で大人を慰めている。
外から見れば、こんな光景は無いだろうが、
カシアの精神もまた、10歳辺りの子供なのだ。
その日は、人の温かさを感じた気がした。
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