新たな生活

「よく、頑張ったね。」


そんな声が聞こえた。幻聴かと思った。だが、

後ろを振り向けば、倒された魔獣と、一人の女性が立っていた。その女性は目を奪われる程綺麗に見えた。


だが、私は状況が飲み込めなかった。

魔獣に追いかけられて、死にそうだった。だが、助かった。いや、助けられた。この人のおかげで助かった。


でもこんな森の奥に人がいるとも思えない。悪い事をして森の奥に閉じ込められているのかも知れないし、隠れているのかもしれない。沢山の考えが頭をよぎる。でも、私はこうすべきだと思った。


「あ、あのっ!」


勇気を出し、声を振り絞った。


「あ、貴方は、誰なんですか?」


そう聞くとその女性はこちらに振り向き、にっこりとして


「私はねぇ、貴方と同じ境遇にいた人だよ。」


と、衝撃的な一言を聞かされたのだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


カシアは、魔獣を『グラディオス』で生成した剣で倒した。首をばっさりと。


だが、その少女に向かってにっこりして返事をしたら、なんとその少女は怯えてしまった!

まぁ怪しい人に見えるだろう。

そういう覚悟は出来ていたのに、いざとなると焦る。


(どどどうしようこの子凄く怯えちゃってる…)

(こ、ここは、やさーしく、丁寧に…)


「あ、あのー、君はどうしてこの森にいるのかな?」


質問をしてみた。すると少女は怯えつつも、


「あ、それが、き、気が付いたらここにいて…襲われてた所に…えぇっと…」


「あ、自己紹介がまだだったね。私はカシア。」

「訳あってこの森に捨てられた元アルム国の住人だよ。」


すると少女は驚いて、こちらを見ながら食い気味に


「え、捨てられた?元アルムの住人?……」

「ほ、本当に私と同じ境遇だった…ってことですか?」


そう言った。本当に信用されてなかった。

少しショックだ。


「あれっさっきの話信じてなかったのぉ!?」


カシアがそう言うと、


「ご、ごめんなさい…」


なんかしょんぼりさせてしまったので、


「あぁ全然気にしてないから!ほらっ元気だして!」


そして、自然な流れで話を変える。


「あ、そうだ!君の名前は?」


少女は怯える様子はなく、紳士に答える。


「私は、ユイカ。フリューレ・ユイカです。」


カシアの頭には、ハテナが浮かんだ。家名持ち。家名。貴族。貴族…?


………


恐る恐る、カシアは聞く。


「……ユイカちゃんってもしかして貴族?」


少し沈黙があって、ユイカは口を開く。


「はい…元貴族です。魔力無しのせいで捨てられましたが…」


oh…

カシアの心はこの文字でいっぱいだった。

代々、貴族は家名を持つ。

カシアのような平民は名前だけで名乗るが、

貴族は家名まで名乗るのが流儀なのだ。

まさか、貴族までもが魔力無しで子供を捨ててしまうとは…と、内心怒っていた。


だが、捨てられてしまったのなら。


「まぁ、この森に来たのなら私と同じだね!」


カシアが手を差し伸べる。


「これから仲良くやっていこう!ね、ユイカちゃん!」



ユイカは少し思考した。捨てられたのだ。

どうせ、行くあても無い。


「わかりました。よろしくお願いします。」


カシアについて行く事を決意し、握手をした。


「まずは私の家…家?拠点?に案内するよ!」


カシアが自慢げに言うと、ユイカは驚いた様子で


「家?こんな所に建てられるんですか?」


と疑問を投げかけた。

その疑問はごもっともである。


「あー、正確には借りてるんだよね…借りてる?それも怪しいかもな…」


カシアからの返事に、ますます疑問が深まった。


30分程歩いただろうか。カシアが歩みを止め、こちらを向いた。


「さぁ、ここが我が偉大なる拠点だぁ!」


手を広げて盛大に言った場所は、どう見ても石で作られた迷宮だった。


「え、えぇと…こんな所に本当に家があるんですか?」


疑いを含んだ目でカシアに視線を飛ばすが、カシアは


「ついて来なっ」


と、なんかドヤ顔しながら迷宮の奥に入ってしまったので、仕方なくついて行く。奥に入っていくにつれ、どんどん暗くなっていく。そして、奥が広くなっている事に気が付いた。


「な、なんでこんな所に本が…」


と、浮いている本に疑いの色を表すユイカ。


「この本はねー、魔力がない人だけが開ける本なの!」

「だからユイカちゃんにも開けるはずだよ!」


カシアが言ってきたので、恐る恐るその本を手に取り、開く。……開く。

………


「……あれ?」


ユイカが本を開けようと頑張る。…が。


「…この本、開けませんけど…」


………


「…え?」


カシアとユイカは困惑した。


「ちょ、ちょっとその本貸して」


催促するカシアに、素直に本を渡すユイカ。

カシアが試しに開こうとすると、やはり開ける。文字も見える。


「あれぇ?…なんでかなぁ…」


「わ、わかりませんよ、私に回答を求めないでください。」


二人で議論しようとした。が、カシアが一つ思い付く。


「…ねぇ、この世界には呪いとか、突然的な変異があるのは知ってる?」


いきなり突拍子もない事を言い始めるカシアに、


「え…えぇと、知ってはいますけど…それがどうかしたんですか?」


率直な疑問を投げかけるユイカ。

それを聞き、カシアは答える。


「この世界には、呪いや病気が数多くある。」

「例えば、魔力を封じる呪いとか。」

「魔力が多すぎるが故に、その人自身が耐えられなくなって病気になるケースや、最悪死ぬ時もある。」


と、淡々と言葉を連ねるカシア。


「もちろん、魔力無しの人間もね。これが極めて珍しいけどね。でも、認知はされていても治せなかった。」


カシアは、これを身を持って経験している。


「…いや、治す方法が無かった。どうしようもない場合、殺すか捨てるかの2択を迫られるんだよね。恐らくだけど、ユイカは何らかの影響で魔力を封じられてしまったんだと思う。それこそ、魔力が多すぎる、とかね。」


そう言った。確証はない。だが、あの本が開けないのなら、可能性はある。


「えっと…つまり、私の魔力量は誰かにとっての危険因子だった可能性がある…と言う事ですか?」


と、ユイカが尋ねる。


「確証は無いけどねぇ。」


カシアは能天気な感じで答えた。


「さぁさぁ、ここでユイカちゃんに質問ターイム!」


カシアはユイカに向かって大声でそう言った。


「…なんですか?」


困惑した表情でカシアに目線を配るユイカに、カシアは言う。


「今ここで色々やってみるか!自力で調べる旅に出るか!ユイカが選択しなさい!」


いきなりそんな事を言うカシアに、ユイカは困るとか、迷うとか言う事は、しなかった。

決意が固まっていた。この人に拾われた命だ。この人について行く、と。だから。


「私は捨てられて、本来死ぬ予定でした。でも、貴方に救われました。それに貴方について行けば今後の人生は楽しいものになる、そんな予感がしました。なので!」

「これからも、ずっと!貴方と一緒に居させてください!」


カシアに向かって自分の決意を吐き出した。


「お、おぉ…まるでプロポーズじゃないか…」


冗談混じりに言うカシアに、


「あぅ…す、すみません…熱が入ってしまって…」


と、声にならない悲鳴をあげて耳まで真っ赤にするユイカ。


「まぁ、私と一緒にいる、という事だね!」


カシアがユイカに笑顔を向ける。


「はい!よろしくお願いします!」


元気に返すユイカ。

この瞬間、二人はこれからの生活が楽しいものになるだろう。と、思った。

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