運命に進展を

強敵を倒し、家に帰った。ここまでは良い。

だがしかし。


「魔獣の皮って、どうやって切り取るの…?」


という、新たな問題が発生していた。

帰ってくる途中、気が付いてしまったのだ。

捌き方を知らない、と。


「ま、まぁ、これまでも成り行きでどうにかなったし!どうにかなる!うんそうだ!きっとそうだ!」


そうして、カシアの苦悩が始まった。


丸一日が過ぎて、


「…はぁ〜、よ、ようやく終わった…」


額の汗を腕で拭き、目の前の皮に目をやる。

そこには、端の方に少しギザギザがあるものの、内側は綺麗に切り取られていた。


「そう言えば…」


カシアは『空間魔法』の亜空間から、石の様な物を取り出した。


「これ、魔獣から出てきたけど、なんだろう…」


「まぁ、後々使えそうだし取っておこう。」


カシアはその石の様な物を木製の箱に入れ、亜空間にしまった。


「よーし、後は…」


前から作ってあったベッドの骨組みを運んできて、皮をその上に被せて魔法陣の真ん中に置いた。ついでに、鳥さんから羽も大量に頂いた。貰っただけで殺してはいない。つまり私悪くない。


「そうじゃなくって…」


つい羽をちぎった…もとい頂いた時の鳥さんが頭に浮かぶ。あの時のことは多分忘れない。


「えっと、詠唱は…なんだっけ…」

「あ、そうだ。『我の理想 我が世界へ今に映し出さん』」


そして、光が部屋を包みこんだ。

光が無くなってきて、魔法陣の中央を見ると、そこには少し薄いが、柔らかそうな皮がベッドの形通りに置かれていた。


「ベッドだぁー!」


と、とても嬉しそうに飛び込んだカシア。

何せこのベッドには、沢山の苦労がかかったからだ。その分、感動も大きい。


「あぁ〜、ふかふか…までは行かないけど、気持ちいぃ…」


そして、気がついたら眠っていた。





「………はっ」


ヨダレを垂らしながら寝ていたカシアは、目を覚ました。体感半日は寝ていただろうか。と思う程に熟睡していた。なぜなら、この場所に来てからは、草の上で寝ていたからだ。熟睡も出来なければ、地面は固いので体が痛かった。

だが、


「ベッドだと、体が痛くない!素晴らしい!」


とても上機嫌だった。


そこからは、至って普通の生活を送っていた。

朝起きて、朝食。

魔法の研究をして、実際に使ってみる。

お昼を挟み、外に出て、夜、明日の朝の分の食材調達。木材等の採取に魔獣の討伐。

帰ってきたら魔獣を捌き、木材を家の外に置いておき、夜飯の調理。夕飯を食べ、魔法の研究を少ししてから睡眠。


こんなルーティーンを繰り返していた。


カシアは、捨てられた10歳の頃より遥かに成長した。年で言えばもう20歳を超えているのだ。

だが、体は20歳の所で止めている。『クロノシリア』の応用だ。


もう捨てられてから10年も経つのか…

と内心驚きつつも、外へ向かう。


「さぁて、今日も平和な一日になりそうだ。」


朝食を食べ、魔法の研究や実際に使う特訓も終えた。後は食材調達だ。


「最近は肉と野菜だけだからなぁ。少し変わり種が欲しいなぁ。」


と、内なる希望を膨らませ、ヨダレを垂らしながら外の世界へ向かう。


「外に行くのも慣れたもんだねぇ。」


そう呟き、外に出る。


「ここは、何も変わらないなぁ。来た時も。」

「初めて外に出た時だってこの景色だ。すごいや。」


いつもの様に、歩き始めた。




微かに、人の悲鳴が聞こえた気がする。

カシアは身体強化を耳に付与し、耳を澄ます。


「…あっちか。」


カシアは、身体強化にプラスして、重力魔法で

自分にかかる重力を軽減させ、身軽にする。この速度は、音を超える程の速度だ。

なぜ、カシアがここまでするのか。

なぜならこの森で人の声がするのは、自分以来ないからだ。


「…やっぱり。」


カシアが見た光景は、想像した通りだ。

狼型の魔獣に追いかけられている少女が居た。

それも、自分が捨てられた時と殆ど同じ年齢の子が。


助けるべきか。見逃すべきか。その選択に時間はかけなかった。迷いなく、少女を救う選択をした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「あ、あれ?ここ…どこ?」


見慣れない風景に、私は困惑した。

寝る前まで、ベッドの上だったはずだ。

お父さんもお母さんも、隣で寝ていた。


「おとーさーん!」

「おかーさーん!!」

「どこにいるのー!!!」


だが、返事は無い。聞こえるのは、自分の響いた声だけ。


すると、近くの草陰からガサッと言う音が聞こえた。


「お父さん!?」


淡い希望に縋るようにそちらを向いた。だが、

そこに居たのは、数匹の魔獣だった。


「…えっ」


驚く暇も与えず、魔獣達は襲いかかってきた。


「い、いやぁぁ!」


必死に逃げようとするも、運動があまり得意ではなく、すぐに追いつかれそうになってしまう。


「あぁ、もう、足が…」


諦めていた。もう終わってしまうと。短かい人生だったな、と。でもどうしてだろう。何故かわからないが、反射的に助けを求める。これも人間の生存本能だろう。


「だ…だれかぁ!!助けてぇ!!!」


息が切れながら発声したので声もカスカスになっていて、お世辞にも大きい声とはいえなかった。本当に終わったと思った。


そんな時だった。


「よく、頑張ったね。」


そんな声が、聞こえたのだった。

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