強敵と成果
カシアが立ち尽くすのも無理は無い。
自分は、ただ書かれていた文字を読み、魔法を展開し、打っただけだ。
それがたまたま、城一つ吹き飛ばせる程の威力だったのだ。でもカシアは
「で、でも!大体の魔法も使ってみたり色々調べたりしたし!だいじょぶだ!うん!」
と、ポジティブに捉えることにしたのだった。
この1ヶ月、カシアは魔法の練習と研究に没頭していた。
まずは、攻撃魔法で主軸として使う魔法を決める事にした。一通りの魔法を試してみたが、やはり一番最初に使った『ファイアバレット』が使いやすかった。
使った事があるので応用をしやすいし、使い勝手がいいから、とカシアが思ったからだ。
さらに、『ファイアバレット』を無詠唱で打てるようになった。他の魔法もこれからやっていくつもりだ。なので、彼女の『ファイアバレット』は、擬似的にマシンガンのような物になっていた。
「よーし、今日は新記録を目指すぞー!」
と、手を前に出すと、カシアの後ろには複数の
『ファイアバレット』が円形に展開されていた。深呼吸をして、集中力を高めた。そして、
「ふぅ…よし。……はぁっ!」
声を出すと同時に、カシアの後ろに展開された
『ファイアバレット』が発動した。
頭上で打たれた『ファイアバレット』は、打ち終わると時計回りにずれた。更に、ずれた所には既に展開してあった『ファイアバレット』が回って来て、頭上で発動された。また時計回りにずれ、打ち終わり、ずれ、打ち終わる。これを繰り返していた。読者側の世界で言うガトリングガンのような物だ。
「くぅっ…!あと、ちょっと…!」
カシアは既に、一分間程打ち続けていた。
そして、ついには、
「…っ!」
体力切れを起こし、魔法が途切れてしまった。だが、
「…っはぁっ…よーし!時間的には新記録!」
カシアは上機嫌だった。
このスピードは、一秒に二発程の速度で打っている。つまり、弱い魔物なら一撃で倒せるような魔法を一秒に二発の速度で打てる。これなら、敵があまりにも強い時以外負けはしない。
「次はなんの魔法を練習しようかなー。」
「あ、そうだ。忘れてた。」
そうすると、カシアは何も無い空間に手を伸ばし、
「『空間魔法』」
と言った。
すると伸ばした手の先には、空間の歪みが出来ていた。そして、カシアはその中に手を入れ込んだ。
「えぇと…あ、あった。」
カシアは、空間の中に三日程前にしまっておいた草を取り出した。
この草は、抜いてから約二日程で枯れてしまう事はわかっていた。カシアがその草を取り出すと、その草はまだ緑色だった。
「あれ、枯れてない…この草はある程度で枯れるはず…と、言う事は、この『空間魔法』の中って、時間の流れが無い?」
時間の流れは絶対の真理であり、この世の中に時間から逃れられる物は恐らく私の『クロノシリア』を除いて存在しないはずだ。
「…この空間の中って、この世界とは違う空間なのかな。」
考えているうちに、何かに気が付いたように木に手を伸ばした。いつものように、空間を指定した。そうして、木に向かって『空間魔法』を展開した。
発動と同時に、木の指定した部分が消えた。
そして、『空間魔法』の中には、木の消えた部分が入っていた。
「おぉ…これは結構使えるかもしれない…」
と、カシアは一人満足していた。
一旦『空間魔法』から物を全て出し、畑の肥料にしたところで家に帰る。ふと、丘の上のドアに目が行く。
「そろそろ外に出てみてもいい頃だよね。」
そう思い、軽く軽食を済ませて眠りに着いた。
そして、夜が明けた。
「今回は、『空間魔法』があるから持っていくものは何も無いよね。」
「よし、今回の目標は、魔獣・魔物の討伐。頑張るぞ!」
と、頬を叩き、喝を入れた。
「うわぁ、久しぶりに来たけど、前よりは緊張感が無いなぁ」
一度来ているので、緊張感は無かった。
特訓の効果もあるのだろう。カシアには自信があった。
「えっと、まずは魔獣を見つけないと。」
「『サーチ』」
カシアが唱えると、近くには無数の小動物。
カシアの近くに兎型の魔獣が一体、
カシアの北側に二キロ程行った場所に、熊型の魔獣が一体いる事がわかった。
「よし、行こう。」
そして、カシアは唱える。
「『クロノシリア』」
世界が止まった。彼女を除いて。
『クロノシリア』は指を弾かなくても発動できた。あの本を書いた人はかっこよくしたかったのかも。
「今のうちに行こう。…あっ、近くにもいたんだった。」
そして、動かない兎型の魔獣に近づいて、
「ごめんね。」
と、『ウォーターカッター』で作ったナイフを刺そうとした。だが、
カキィン…と、ナイフが弾かれてしまった。
「あれ…?なんで?」
カシアは疑問に思うと同時、少し焦った。
だが少し考えると、
「もしかして、『クロノシリア』展開中って、動物に影響を与える事ができない…?」
という仮説に辿り着いた。
恐らく、動物と言うのは自らが動くものという事であり、植物は当てはまらないのだろう。
なので前は木が切れたという事だ。
「これは…気付けて良かったなぁ。」
「でも、魔法は展開できる。なら、」
と、カシアは『ファイアバレット』を二つ展開し、
「『クロノシリア』解除。」
その瞬間、世界は動き出した。そして、
『ファイアバレット』が射出され、兎型の魔獣の頭と胴体を撃ち抜いた。
「うーん、時間が動き出せば直接干渉できるのかぁ。」
「まぁ使い勝手は悪くないし、問題ないか。」
と、再び目標に向けて歩き出した。
五分程歩いて、目標の熊型の魔獣を目視出来た。やはり熊型の魔獣と言うだけあって、大きい。3m以上はある。
「よし。『クロノシリア』」
カシアは時を止め、熊型の魔獣の背後に回り込んだ。そして『ファイアバレット』を展開した。
「『クロノシリア』解除。」
そして間髪を入れずに、『ファイアバレット』を射出する。
『ファイアバレット』の弾が熊型の魔獣の頭部分を貫いた。そう思っていた。が、
「…なっ、避けられた…!?」
魔獣は避ける動作のまま、鋭い爪の攻撃をカシアに向けて放つ。
「うわぁっ!」
間一髪で避けたカシアは、一旦距離をとった。
「避けられるなんて…あの魔獣、思ったよりもずっと強い…!」
まず奇襲がバレたということは、反応速度が尋常じゃない程速い。これから後方を狙うのは自殺行為だ。
しかしカシアには、焦りはなかった。
「私だって……私だって特訓したんだよ!」
と、カシアは言葉が通じないであろう魔獣に向かって叫んだ。
そして、自分が考える最善を尽くす。
「『フォレストル』!」
これは、自然を自在に操ることが出来る魔法。
この魔法で、周りの木々を使って動きを止めようとした。しかし、さっきの魔法を避けられたように、素早く動かれて避けられてしまった。
「ならっ…『土壁』!」
と、熊型の魔獣の両側に土の壁を立てた。逃げ道を無くした。
「これならっ!」
「『グラディオス』!」
瞬間、カシアの前には剣が出現した。そして、
熊型の魔獣に向かって射出された。
「グォォ…」
全てを避けきれなかった熊型の魔獣は足と腹部に剣が刺さっていた。
「これで…どうだっ!」
『ファイアバレット』を展開していたカシアは、熊型の魔獣に向けて射出した。炎の弾は身動きのとれない熊型の魔獣の頭を貫き、魔獣は倒れた。
「…はあぁ〜、疲れたぁぁ…」
初めての実践で、疲れが回ってきたのか、倒れるようにして寝っ転がるカシア。
「初めはどうなるかと思ったよぉ…」
「全部の魔法を練習してなかったら危なかったかも…」
改めて、特訓の成果を実感した。
「あ、忘れないうちに、『空間魔法』」
亜空間に熊型の魔獣をしまい込む。
内心悪いと思っている。あの魔獣も生きているだけなのだから。でも、種族が違う為に敵対し合う。まぁ今回はこちら側の利益の為だが。
「ちょっと、悲しい世界かな。」
一人呟いて、あの家に帰った。
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