挑戦

カシアが迷宮のドアを開いてから10年の月日が流れた。

その頃のカシアは…



「ふぁ…よく寝たぁ…朝ごはん食べないと。」


そう言うと、ゆっくり芝生から体を起こす。


「今日は何を作ろうかな。このパンとジャムはいつも食べてるしなぁ。ちょっと飽きてきたし。」


「そうだ!今日はサラダを作ろうそうしよう!」


と、元気に朝ご飯を準備していた。



時は10年前。

この不思議な場所にたどり着いた翌日。


まだ幼かったカシアは、知らない土地であるが故に、少し不安であった。


「まずは、偵察からかな。」


とりあえず家で夜を越したカシアは、周りを見て回る事にした。本を読むのも、周りの状況を確認してから読もうと決めていた。


まずはこの空間の幅だ。

カシアは、少し丘になっている所に立ち、辺りを見渡した。


「やっぱり、すっごく広いんだなぁ。ここ。」


そう思うのも無理は無い。

高さは本物の空と同じくらい高いのではないかと思うくらいに高く、空間の端から端までは5キロ程の距離がある。1つの家しか無い土地なのに、とても広い。



………土地が沢山残っている。

そこでカシアはある事を考えた。


「これ、自分で土地を使えるよね。という事は、まさか畑とかも作れちゃうって事!?」


やる気が湧き出してきたカシアは、早速道具を作ろうとした。しかし。


「あれ…木材、ないじゃん。」


道具を作ろうにも、材料が無いと作れない。

森のような自然とは言ったが、ここの木はできる限り残しておきたい。となれば。


「ドアの、外…捨てられたあの森の木…か。」


そう呟き、家に入り、作戦を練った。


「まずは木を切る為の物が必要なんだけど…」


この家にはそういった物は見当たらない。

それと同時に、ある事を思い出した。


「ん?…今の私、魔法使えるのでは?」


本に目を移した。そしてなにか使えそうな魔法を調べた。


「えぇと…まずは…えっ…時間停止魔法?

それに、即死魔法に呪術魔法……」


これは確かに禁忌と言われてしまうかもなぁ。

と内心思いながら、ページを進めた。


「あっ。生活用魔法もある。」


少し明るい気分になった気がするカシアは、使えそうな魔法を書き出していった。


今回使用しようとしている魔法は、


『時間停止魔法』


『ウォーターカッター』


『ファイアバレット』


の3つだ。なぜこの3つなのかは、


「まず、『時間停止魔法』。木を切っている間は無防備。だから時間を止める。あまり長い時間は止められないらいしから、切る時だけ。」


「続いて、『ウォーターカッター』。腕に刃を纏える。だから木を切る時に切りやすい。」


「最後に、『ファイアバレット』。これは護身用かな。もし魔獣が襲ってきたら、片手でも発動できるファイアバレットは使いやすそう。」


「よし!頑張ろう!」


そしてカシアは、ドアの外へ踏み出した。


「ここに来るのも2日ぶりかぁ。」


カシアはなんだか感動していた。これがどれ程の奇跡なのだろうか。と。


だが、今は先を急がなければ。いつ魔獣が来るかも分からないのだ。

とりあえず、ある程度小さい木を見つけた。

そして、時間停止魔法を使うための準備をした。


「えっと、確か…『クロノシリア』」


カシアは指を弾いた。いい音が響いた。瞬間、音が消えた。

自分以外が止まった影響だ。


「いまの内にっ…『ウォーターカッター』」


と、カシアは魔法を使用し、

水でできたナイフを作り出した。試し斬りをしたが、切れ味は申し分ない。

カシアは小さい木を根元から切り倒してどんどん小分けにしていった。


「これなら、バックに入りきりそう!」


因みにこのバックは、草を編み込んで作ったかごの様なものだ。一般的には竹などで作られるが、草でも代用出来ないことはない。


持ってきたバックをいっぱいに出来た所で、時間が動いている事に気が付く。


さっきまで無かった風の音、草が擦れる音がよく聞こえる。


やっぱり魔法を使えるとはいえ注意はしないとな、と反省しながら歩いていた時だった。


なにかを感じた。そして、その方向に自分の腕を向けた。いつでも迎撃出来るようにするためだ。


そして、それは姿を現した。


「あ、あの一昨日の魔獣…」

「けど……1匹だけか。」


そしてその魔獣は襲いかかろうとしてきた。

だが、カシアが先に動いた。


「『ファイアバレット』!」と叫んだ。


カシアの指に炎が集まり、やがて弾丸となって発射された。

その弾は魔獣をいとも簡単に貫いた。

それどころか、地面の奥深くまで貫いていた。


「…これって、もしかしなくても…」


「禁忌魔法って、威力も段違いだったりするのかなぁ…」


嬉しい半面、気をつけなければならないと思った。だが、当初の目的は達成している。後は帰るだけだ。


帰りは、あの魔獣以外こなかった。

なので何事もなく帰ってこられた。


「うわぁぁ、なんだか、疲れた気がするぅ…」


と、達成感と安堵で気が抜けたカシアは、家の前で一息ついていた。なぜ家の前なのか。

それは、カシアにとって、とても大事な事が

これからあるからだ。その事とは、正に、

女の子にとって大事な、いや、人間にとって大事な物。


「これから、ベッドを作るっ!!」


との事だった。


カシアはこの家に来て気が付いた事がある。


この家には机や椅子、ベッド等が何一つ無い。


「もうっ!ここに住んでたあの人はどうやって生活していたの!?」


家の前の芝の上でごろんごろん転がって怒りと呆れを発散した。


「……まぁ、怒ってもしょうが無いか。」


そして、カシアは決心した。


「私が、1から作る!まだ木も余ってる!」


畑を耕す為に取ってきた木にもまだ余りがある。この禁忌魔法には、生活用魔法があると言ったが、それには運搬魔法や、洗浄魔法等が当てはまる。


その中に、創成魔法というものがあった。

魔法陣を描き、材料を置けば理想の物が作られる魔法だ。


「よし、木は置いた。魔法陣も描けた!あとは…」


「『我の理想 我が世界へ今に映し出さん』」


そう唱えると、魔法陣が光り始めた。

そして数秒後が経った。

魔法陣の真ん中には、机と椅子が置いてあった。


「おぉ!私の理想通り!すごいや創成魔法!」

「これに続けて…!」


カシアはベッドを想像した。そして、また唱えた。


…だが。


「…あれぇ?」


カシアは疑問を持った。ベッドは出来ていた。ただ、土台だけが置いてあった。


「………あっ。もしかして…」


確かにベッドは、土台は木でできているかもしれない。だが、あの柔らかい部分は、木ではできない。


「…な、なにか、柔らかい物…」

「草?…いや、すぐにダメになっちゃうし…」


カシアは悩んだ。そして、一つの本を思い出した。


「…魔獣の毛皮って、布として使う事が出来た…気がする。」


昔、本で読んだ。魔獣は冒険者たち等によって討伐された後、肉は食用へ、毛皮は洋服や布として使われる。


「魔獣かぁ。討伐はしたけど……。」


前は運が良かった。群れで行動するはずの魔獣が、単独だったのだから。今回も上手くいく保証は無い。


「少し、魔法の特訓するかぁ。」

「これから外で生活するかも知れないしね。」


カシアは決めた。魔法を特訓すると。



そこから、約1ヶ月が経った。


どのように過ごしていたかというと、

カシアは、ひたすらに魔法を練習していた。


まずは禁忌魔法が載っている本を、隅々まで読んだ。本当に沢山の魔法について書かれていた。


今回は、森に出て魔獣を討伐するので、使いやすい魔法を使いたい思った。なので、とりあえず全ての魔法を使ってみる事にした。


まずは、魔法を打ち込む場所だ。家から3キロ程離れた所に


「『大地魔法 土壁!』」と唱えた。


カシアの前には、10メートル程の大きな土の壁が出来ていた。

更に、


「『魔法吸収結界!』」


と唱え、結界を張った。


この結界は、あらゆる魔法を吸収し、霧散させる能力があるらしい。試しに、


「『ファイアバレット!』」


と1発放った。放たれた炎の弾は、物凄いスピードで土のかべに向かって飛んで行った。が、壁に当たる瞬間、炎の弾は結界に飲み込まれたと思ったら、無くなっていた。


魔法の練習を始める時に思いついた、魔法を打ち込む為の物だが、以外に上手くいっている。


「やっぱりこれ、凄いね。」

「いくら魔法を打っても大丈夫な気がする!」


カシアは少し上機嫌になっていた。


「ちょっと気になってたんだよね!この魔法!」


と、好奇心からいつもの練習の前に試してみる事にした。そして、土の壁から距離をとって、詠唱を始めた。


「『彼の地を開きし地獄の炎』」

「『炎は昇り神をも穿つ』」

「『世の理も穿ちし我が炎』」

「『今に全てを灼き尽くさん 』」


「『ヘルバーニングスピア』」



唱えた。その瞬間、とてつも無く大きい炎の槍が頭上に現れた。


「えっ…えっ?」


困惑しているうちに、土壁の方へも向かった。

結界に当たった。と思ったその時。





ドガァァァァァァァン!!!!





凄まじい音がなった。頭が割れるかと思う程だ。それに、1キロも離れているのに、途轍も無い風が吹いた。


「うわわわっ」


カシアは風に煽られ、バランスを崩して転んだ。起き上がったカシアは、衝撃の光景を目の当たりにした。


「なっ………なにこれ…」


土壁には結界が張ってあったので、視認できた。しかし、その周りの半径500メートル程が抉れていた。草は消え、茶色い地面が煙を上げていた。


結界が衝撃を押さえ込めきれずに、エネルギーが一気に発散された証拠だ。


「こ、これは…すごい所の話じゃ、ないよ…」


カシアは1人、立ち尽くしていた。

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