第12話
サムウェルとはもう会わないように、と母から何度言われても、ソフィーは納得したようには見えなかった。
大人同士の事情で子供には話せない内容が含まれるといっても、寂しい時間を共に過ごしてくれた相手だ。ただ「ダメだ」と言われて素直に頷けというのも、ソフィーの心情からして無理な話だ。
モニカの反応から、やはりサムウェルは彼女の元夫でありソフィーの実の父親なのだろう。髪と瞳の色から推測はしていたが、ほぼ間違いないと言っていいはずだ。
「なんでダメなの!? 分かんないよ!! サムお兄さん良い人なのに!」
部屋に戻ったソフィーは、憤懣やるかたないといった様子だ。
「クロエもそう思うでしょ!? ママがおかしいよね!?」
ソフィーは共感してもらいたそうだが、
(……ごめん、ソフィー)
クロエとしても、あの男との接触禁止については賛成だった。
それにしてもサムウェルが言っていた《提案》とは何なのか、クロエは気になっている。モニカの反応から、どうもろくでもないことのようだが。
『娘のことを優先に』というモニカへの発言と、彼の《提案》とやらも関係がありそうだ。
放火を含める店の災難は、サムウェルが現れてから起きるようになった。偶然ではないだろう。加えて人目を忍ぶようにチンピラらしい男に、何かの依頼に対する報酬を渡していた。
あくまで憶測ではあるが、以上のことからサムウェルの狙いはソフィーにあると考えられる。彼女と距離を縮める行動も、そうだ。
(俺が、この子を守らないとな)
もし何かあったときすぐ助けられるのは、常に一緒にいる自分だろう。そんな事態にならないよう祈るが、サムウェルが何を考えているか不明である以上、気を緩めることはできない。
痛みや疲れはないにしても、他に転生者らしい特別な能力もなく、八歳時相応でしかない。その中で、自分に出来ることを見つけるしかない。
まだ怒りが収まらないらしく、愚痴をこぼし続けるソフィーを眺めながら、クロエは改めて決意を固めた。
サムウェルは、今になって後悔している。冷静さを欠いていたとはいえ、あんなチンピラに任せるべきではなかった。
すぐにでもソフィーを引き取りたいが、放火犯の始末がつくまでこの街を離れるわけにいかない。
早急に片を付けるには、チンピラ一人ではどうも心許ない。依頼を受けるのも躊躇していたし、時間がかかりそうだ。
とはいえ、あまりこの街に長居するのはよろしくない。もっと他に適任はいないだろうか? 当たってみるのもいいだろう。
依頼を滞りなくこなせるなら出自や身分、人種も問わない。要は主導権を握っていればいい。
握るのは餌となる金と、枷となる弱みだ。
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