第10話
店が燃えていると最初に気付いたのが、マギー・キャンベルだった。慌てて家族を叩き起こすと、モニカにソフィーを任せ、腰の悪い夫を連れて外へと避難した。
「クロエがいない!! クロエどこ!?」
モニカと共に家から飛び出してきたソフィーが騒いでいる声が聞こえた。一緒に寝ていたはずの人形が見当たらないらしい。ベッドから忽然と消えている奇妙な点は、火事の混乱もあるのか不審に感じる余裕はなさそうだ。
クロエはというと明け方、いつの間にか部屋に戻っているのをソフィー自身が見つけたが、疑問に思う様子はなく人形が無事だったことで素直に安堵していた。
結局、店を蹂躙した火は隣の石塀に焦げ跡を残すまでに留まった。家屋部分に燃え移らなかったことだけが、せめてもの幸いといえる。
モニカは半焼して変わり果てた店を見て、魂が抜けたように茫然とするばかりだった。それまでの努力が泡沫に帰したのだから、無理もない。
「何で……どうして……私が何をしたの……?」
その呟きを、何者も拾うことはなかった。
「ねぇ、いったいどういうことなのかな?」
普段の穏やかな仮面をかなぐり捨てて、サムウェルは憤りも露わにチンピラの男を糾弾する。
キャンベル家の飲食店が放火され、昨日の今日で呼び出したのだ。彼にとっても寝耳に水だ。そんな依頼までした覚えはない。
「もし延焼して、僕の大事な娘に何かあったらどうしてくれるの? 聞いてる? 答えてくれる?」
サムウェルは冷静さを失いかけていた。下手をすれば、この場でチンピラを殺しかねない。
「お、おれは知らねぇよ……! 噂を真に受けたゼメキスの誰かが、暴走して……!」
チンピラは必死に弁解する。
「勝手にやったって? なるほどねぇ……別に信じてあげてもいいけどね。僕の依頼を受けてくれるならね」
「依頼……?」
「そう、依頼。君には放火犯を捜し出してほしいんだよね。見つけて、始末してほしい。報酬は弾むからさ」
「い、いやさすがに殺しまでは……まだ犯人も街にいるか分からねぇし……」
「受けてもらわないと困るんだよね。僕の怒りが収まらないし……それともこの怒り、君が代わりに受け止めてくれるのかな?」
目を細めるサムウェルに、チンピラは表情を引き攣らせ、
「わ、分かった……や、やりゃいいんだろ?」
「うんうん、ありがとう。よろしくね」
打って変わり、サムウェルは笑顔でチンピラを見送る。
(ふぅ……いけないいけない。あの子のことになると、僕もつい感情的になってしまうね。深呼吸、深呼吸)
自らの言動を顧みて反省しながら、サムウェルは宿へと引き返した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ストックが無くなりました・・・次話以降は不定期更新になります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます