新語・流行語全部入り小説2024
吟遊蜆
新語・流行語全部入り小説2024
令和の米騒動の影響により給食にアサイーボウルばかり出てくるようになったアザラシ幼稚園に、裏金問題により江戸幕府界隈を追われた侍タイムスリッパーが保父として採用された。時に人殺しさえ厭わない幕府の過酷な労働に比べれば、それが明らかなホワイト案件であることに間違いはなかった。
この幼稚園には教員らのあいだにソフト老害が蔓延っており、おかげで保護者たちからは「初老ジャパン」と陰口を叩かれることもあった。これはこれでカスハラと言えないこともないが、ならばソフトどころではない本物の老害を入れてしまえば良いのではないかと、園長はにわかに発想を転換させた。それが遠く江戸時代からやって来た人材となれば、それがコンプラやポリコレを重要視する現代人にとって筋金入りの老害でないはずはなかった。
ところがこの侍タイムスリッパーが園児たちから絶大な人気を集めたというのだから、世の中何が功を奏するかわからない。彼がお遊戯会で「Bling-Bang-Bang-Born」をバックに侍の剣術を組みあわせたブレイキンを舞うと、その剣呑な踊りは園児らのあいだで猫ミームレベルのトクリュウ(特別な流行)を巻き起こした。
「やばい、かっこよすぎる俺」
時代を越えて受け容れられた侍がそう思ったのも無理はなかった。
だが彼のように業の深い者はどこへ赴こうと、平和な時を長いあいだ謳歌することは許されない。やがて幼稚園近くにある地下鉄駅の8番出口から、今度は反幕府側の侍タイムスリッパーが同じく出現したのである。
彼は、ペリーからのBeRealな開国要求を「はいよろこんで」と受け入れインバウン丼で大いに儲けマイナ保険証一本化を強引に推し進める幕府勢力と対立する被団協(開国被害者団子屋協会)の一員であり、幕府側の侍タイムスリッパーを文字どおり串刺しにするためにやってきた刺客(侍と団子屋の二刀流)なのであった。
そうして幼稚園に乗り込んできた反幕府側の侍タイムスリッパーは、似たようなちょんまげ頭でいつもの侍先生と見分けがつかず「はて?」と立ち尽くしている園児を人質に取ると、おんぶして長距離を駆け抜けたのちにコンビニ富士山へたて籠もった。それは果たしてコンビニなのか富士山なのかといえば、富士山の見えるコンビニである。
反幕府側侍タイムスリッパーの要求は、幕府側タイムスリッパーの命か、さもなくば大量の新紙幣と新NISAをセットで寄越せというものであった。その際、新紙幣と新NISAの割合は50-50にしてくれとの要求にもまた謎めいたものがあったが、彼がそこまで「新」の字に強くこだわるのは、やはり彼自身が古い時代の人間だからであろうか。
警官隊がコンビニを取り囲む中、幕府側の侍タイムスリッパー、すなわち現幼稚園教諭が満を持して到着した。そして彼はまず第一声で、
「ふてほど!」
と強く叫んだが、それを「ふてえ野郎だ、ほどほどにしやがれ!」の略であると理解できたのは、それを言われた張本人であるところの反幕府側侍タイムスリッパーだけであった。
それから幕府側の侍タイムスリッパーが例の剣術ブレイキンを披露し、反幕府側もそれにノリを合わせた剣と団子の串の二刀流で応じたが、しばらく続いたこの熱戦に決着をつけたのは実のところどちらの一撃でもなく、外部からもたらされた南海トラフ地震臨時情報であった。
というのも、彼らは開国直後の1855年に甚大な被害をもたらした安政江戸地震の直後からタイムスリップしてきたのであり、なによりも地震を怖れていた侍たちは、こんな警告が日常的に発せられている恐怖の時代にはとても生きていられないと一瞬で悟り、互いに「もうええでしょう」と同じ台詞を口にしたかと思えば、二人仲良く東京まで休みなしに駆け戻ると、そのまま例の地下鉄の8番出口から江戸時代へと駆け戻ってしまったのであった。
そして江戸に帰ってきた二人の侍タイムスリッパーは、「名言が残せなかった……」と奇跡的な時間旅行に後悔の念を滲ませながらも、毎日のように団子屋で土産話に花を咲かせたという。
《新語・流行語大賞2024 候補語一覧》
1. アサイーボウル
2. アザラシ幼稚園
3. インバウン丼
4. 裏金問題
5. 界隈
6. カスハラ
7. コンビニ富士山
8. 侍タイムスリッパー
9. 初老ジャパン
10. 新紙幣
11. 新NISA
12. ソフト老害
13. トクリュウ
14. 南海トラフ地震臨時情報
15. 猫ミーム
16. はいよろこんで
17. 8番出口
18. はて?
19. BeReal
20. 被団協
21. 50-50
22. ふてほど
23. Bling-Bang-Bang-Born
24. ブレイキン
25. ホワイト案件
26. マイナ保険証一本化
27. 名言が残せなかった
28. もうええでしょう
29. やばい、かっこよすぎる俺
30. 令和の米騒動
※この小説は、新語・流行語大賞の候補語30個すべてを本文中に使用するという、きわめて不純な動機のみで書かれたフィクションです。
※本文中には、新語・流行語の意図的な誤用が含まれております。正しい用語知識に関しては、各自正しい意味をお調べになることをお勧めします。
新語・流行語全部入り小説2024 吟遊蜆 @tmykinoue
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