第23話 魔法隊の実態

 騎士団内で、立場を失いつつあるという魔法隊。

 その栄誉を取り戻すため、アテナが苦戦しているトレントを先んじて倒したい。

 燃える魔法隊の三人と一緒に、俺は帝国北部の森林地帯へ踏み込んだ。


「よし、このまま真っ直ぐ行こう」

「嫌ですわ」

「なんで」

「こんな大きな水たまり、ブーツの革がダメになってしまいますもの」


 相も変わらずのご令嬢ぶりを発揮するガーネットに、ため息をつきながら水たまりを迂回する。


「騎士団は、この辺りでトレントの足取りを見失ったんだよな?」


 俺が問いかけると、副長はビクッと身体を震わせたあと――。


「…………です」

「全然聞こえねえ……」

「ここからさらに、北部へ下がって行ったらしいわ」


 相も変わらず人見知りと小声を炸裂させる副長は、一度隊長のプラチナを介することで、情報の共有に成功。


「アテナには、負けられないわ……!」


 プラチナも、幼馴染へのライバル心で気合が入りまくっている。

 早くも来たことに後悔し始めている俺は、ため息をつきながら森の奥へ。


「っ!?」


 先日の雨で濡れた草の上を進んでいると、何かを『擦る』ような音が聞こえてきた。


「シャルル! きたわ!」


 視線を向ければ、風もないのに大きく動く枝。

 どうやらトレントは、縄張りに踏み込んだ俺たちを補足していたようだ。


「【フレイムバレット】!」


 先行したのはプラチナ。

 炎弾の五連射で、敵をけん制。


「【グランフレア】!」


 生まれた隙に続く俺の魔法は、トレントの一角を燃え上がらせた。


「さすがの火力ね!」

「でも、思ったほどのダメージになってないな」


 しかし意外と防御力が高いのか、枝葉の一部が焦げ落ちたくらいにとどまった。


「反撃、くるわよ!」


 対してトレントの攻撃は、大きくしならせた枝による薙ぎ払い。


「うおおっ!?」


 俺はプラチナと共に伏せて、頭上を通り越していく攻撃に息を飲む。

 するとトレントはさらに、伸びる枝で刺突にきた。


「あっぶな!」


 地面に深々と刺さった枝を見て、ゾッとする。

 こんなの喰らったら大ケガだぞ!


「もう一回! 【フレイムストライク】!」

「【グランフレア】!」


 早いプラチナの反撃に、俺はすぐさま便乗する。

 二人がかりで放った魔法は交じり合い、大きな炎となった。

 燃え上がる烈火はトレントの枝葉の一部を消し飛ばし、幹を焦げさせる。


「チャンスだ! 行けガーネット!」


 この隙を逃す術はない。

 プラチナとの連携で作り出した好機に、俺は追撃を依頼する。


「嫌ですわ」

「なんでだよ!」

「こんな汚い水たまり、走りたくありません! 服が汚れてしまいますわごふっ!」

「ガーネットォォォォ――ッ!!」


 俺たちがモタモタしていたことで、体勢を立て直したトレントの枝振り回しが炸裂。

 ガーネットが弾き飛ばされた。


「特注の騎士鎧が……!」


 結局水たまりをゴロゴロと転がったガーネットは、立ち上がるや否や、汚れた革鎧を見てその眼を鋭くする。


「巨匠に頼んで製作したこの鎧が、どれだけぐふっ!」

「ガーネットォォォォ――ッ!!」


 往復ビンタの要領で、戻り際の枝に叩かれまた転がる。

 さらにトレントは無数に広がる根を伸ばし、その身体を拘束。

 ガーネットを、はりつけ状態にしてみせた。


「くっ! 放しなさい! このわたくしを誰だと思って……っ!」


 あげる怒りの声。

 トレントは伸ばした根を、両足に絡ませていく。

 そしてそのまま、ガーネットの足を大きく開いた。


「きゃああああああああ――――っ!!」


 見事な『御開帳』

 仕立ての良い厚手のスカートも、この体勢では意味なし。

 黒地に真紅の飾り付きパンツを、『さあ御覧なさい!』とばかりに見せつけてくる。


「こ、こ、このわたくしに、このような生き恥を――――っ!」


 思わぬ痴態を取らされたガーネットは、怒りと羞恥で顔を真っ赤にする。

 だが、トレントの攻勢は終わらない。

 必死に脚を閉じようとするガーネットの脚を、閉じたり開いたりの繰り返し。


「きゃあああああああああ――――っ!!」

「ガーネットォォォォ――ッ!!」


 し、しかも胸がデカいから、なんか根の食い込みも大変なことになってるんだけど……!!


「ていうかこれ、どうやって助けたらいいんだ?」

「……あ、あの」

「攻撃魔法を当てちゃうと、ガーネットも巻き込んじまうよな」

「……あ、あのっ」

「何かいい打開策は……ん?」


 裾を引かれる感覚に振り返ると、そこには怯える小動物のような目をした副長。


「あ、あの…………ます」

「はい?」


 俺は思い切って、耳を副長の方に限界まで寄せる。


「……雨の後なので火はあまり。水を多く含んだトレントには、雷や氷の方が効果的になります」

「言うのが遅いよ!」

「ッ!!」


 思わず叫ぶと、副長はビクッと身体を震わせて逃走。


「シャルル!」

「なんだ!?」

「褒めてあげて!」

「ああ、よくやったなぁ! 次からはもう少し早いと、なお良しだよ! 【ブリザード】!」


 俺はすぐさま、ガーネットを拘束している根の『元の部分』に氷結魔法を使用。

 地を駆ける冷気が、雨でたまっていた水分を一気に凍結させていく。

 するとトレントの根は大慌てでガーネットを放り出し、後退していった。


「【フレイムストライク】!」


 その隙を突き、プラチナが本体を攻撃。

 生い茂る枝葉の一部を焼き飛ばした。しかし。


「おいおい、再生もすんのかよ……っ!」


 トレントはここまでに失った枝葉を、あっという間に再生させていく。


「仕方ない、ここは一度退こう!」

「嫌ですわ!!」

「なんでだ!?」

「わ、わたくしにこのような恥をかかせた魔物に、背を見せて逃げるなど許せません!!」

「うるさい! いいから来い!」


 俺は目に涙をためてキレるガーネットの手を強引に引いて、トレントの攻撃範囲を離脱。

 そのまま森の出入り口付近まで、退避した。


「……これ、どうする?」


 完全なる敗走。

 トレントは、騎士団が倒せずにいるのも納得の強敵だ。

 その上ガーネットはこだわりが強く、副長はかなりの人見知り。

 魔法隊の立場がなくなるのも、無理ないだろこれ……。

 今回はもう、騎士団に任せよう。

 俺がそんな気持ちで振り返ると――。


「もちろん、リベンジよ」


 プラチナは何のためらいもなく、そう言い切った。


「わたくしにあのような痴態を……ゆ、許せませんわ!」


 ガーネットも怒りに燃え、副長もこくこくとうなずく。


「一度帰って、再戦の準備に入りましょう!」


 三人はさっそく作戦を語り合いながら、帰路につく。


「やる気だけはあるんだよなぁ……」


 どうやら、魔法隊の今後を考える気持ちだけは本物らしい。

 俺も、準備だけはしておくか……。

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