第22話 魔法隊
「あなたが、魔導士シャルルね」
「そうだけど?」
俺が城内をフラフラしていると、20歳くらいの女子がやって来た。
高い位置で結んだ、長い黒髪のポニーテール。
黒い瞳がクールな彼女は腕を組み、仁王立ちで俺の前に立つ。
「私はプラチナ。誉ある魔法隊の隊長よ」
……そういえば、騎士団には魔法戦を得意とする魔法使いたちがいたんだっけか。
すっかり忘れてた。
「実は魔物討伐に向かうための仲間を探しているの。そこで聖女様救出や邪教のけん制に一役買ったあなたに、白羽の矢が立ったというわけ」
プラチナはそう言って、俺を指さした。
「魔導士シャルル、あなたに一緒に来てもらうわ!」
「行けたら行くわ」
「それ絶対来ないやつじゃない! お願いだから、そんなこと言わないでよ!」
プラチナは急に、すがりついてきた。
魔物の討伐なんて怖い仕事、したくないんだが。
「これ以上アテナに差を付けられたくないの! 魔法隊はドンドン隅に追いやられてるし、なんとかして立場を維持したいのよ! お願いだから話だけでも聞いて!」
「……分かったよ」
俺はどうも、頼まれるとノーって言えないんだよな。
仕方ない、話だけでも聞いてみるか。
「これまで騎士団における魔法隊は、ある種エリート部隊的な感じで扱われていたの。でもアテナが台頭し始めてからはそれも一変。完全に騎士団の一部署みたいな扱いになってしまったわ。それだけじゃなく、幼馴染であるアテナは一気に役職を駆け上がって今や騎士団長。負けてられないのよ!」
隊長ことプラチナは、悔しそうに唇を噛む。
なるほど。
幼馴染が急速な成長で騎士団長になったことで、魔法隊の立場が弱くなって悔しいってことか。
「でもそこにチャンスが舞い込んできたの。騎士団は森に現れたトレントに苦戦してるみたい。だから私たちで倒して名を上げたいのよ!」
そう言えば、そんな話をアテナから聞いた気がする。
トレントは居場所を変えるし、森の中に木の魔物がいるっていうのは発見が難しくて、苦戦してるって。
「でも、話題になるってことはそれだけ強い敵なんだろ? 勝手の分からない森の中で、二人で戦うのは難しくないか?」
「その点なら問題ないわ! さっそく魔法隊の仲間を紹介するわね!」
そう言ってプラチナが手を振ると、一人の少女がやってきた。
金色の巻き髪に、気の強そうな深紅の目。
モデルのように長い脚を開き、大きな胸を組んだ腕に乗せるような姿勢で、俺の前に立つ。
「ガーネットですわ。以後お見知りおきを」
すげー……。
この高圧的な感じ、ガチガチの令嬢キャラじゃねえか。
「そしてもう一人、この子は魔法隊の副長をしてるわ!」
プラチナが振り返る。
すると柱の後ろから、何やらこちらをのぞいている子がいた。
背の低い少女はフワフワの長い白髪に、気の弱そうな緑の目をしている。
「……副長は、何をやってんの?」
「あの子、極度の人見知りなの」
「人見知りに副長をさせるなよ」
「こっちに来て、シャルルに挨拶をして」
プラチナがそう言うと、人見知り少女は意を決したようにタタタと走り出し、俺の前でもじもじ。
俺の目を見て、ビクリと身体を跳ねさせた。
「シャルル、あまり威嚇しないで」
「これが普通の顔なんだよ」
俺がそう言うと、副長は覚悟を決めるように息を吸った。
「あ、あの…………です」
「はい?」
「…………です」
「はい?」
「ッ!!」
俺が二度聞き返すと、白髪少女は絶望の表情をした後、猫に追い詰められたネズミのような顔をして――。
渾身の叫び声をあげる。
「…………です……っ!」
いや全然聞こえねえ!
流れ的には突然大ボリュームで叫んで、「いや音量調整ぶっこわれてんのか!」みたいなことになるかと思ったのに、それでも聞こえなかった。
肩で息をする、白髪少女。
俺は、静かに口を開く。
「……はい?」
「ッ!?」
副長は俺の問いかけに再び絶望して、柱の背後にすごすごと戻っていった。
いや結局、あの子の名前は何なんだ……。
「私たちは本気で、剣士たちの上に立ちたいと思っているの……かつてのように!」
「その通りですわ。このような情けない立場、わたくしのプライドが許しません!」
「……こくこく!」
でも、その意気だけは本物らしい。
プラチナとガーネットはすごく真剣な目で、俺を見つめてきた。
柱の副長も、必死にうなずいている。
「シャルル、お願いだから力を貸して!」
戦闘とか、正直言って面倒だ。
でもこういう風に頼まれちゃうとなぁ……断れなくなっちゃうんだよなぁ……。
三人がかり本気で頼まれると、いよいよ「ノー」と言えない俺が発動する。
「……分かったよ。じゃあ行くか」
「やった!」
プラチナは、跳び上がって喜ぶ。
まあ、騎士団が困ってるのなら良いアピールにもなるだろう。
「目的地は森林地帯の中央付近だろ? それならまずは、真っすぐ正面から突っ切って――」
「嫌ですわ」
「……なんで?」
「先日の雨で水がたまっているので――――服が汚れます」
「それなら着替えを別に用意して行けばいいだろ」
「嫌ですわ」
「なんでだよ」
「荷物持ちなど、名家の次期当主たるわたくしのするところではありません」
「騎士団なんかやめちまえ!」
プライドの高さを見せる令嬢ガーネットに、思わずツッコミを入れてしまう。
するとプラチナが、ため息をついた。
「こんな感じだから、若干不安だったのよね」
「……若干?」
極度の人見知りと、荷物も持たないご令嬢の二人が仲間で、若干しか不安を感じていない隊長。
これは思ったより、大変かもしれないぞ……。
引き受けるべきじゃなかったかも。
早くも後悔の念が押し寄せる中、俺は不安だけを抱えて、トレントが住む森へと向かうことにした。
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