第21話 vs邪教徒

「さあ来い、邪教徒ども」


 背後には騎士団、目の前には邪教徒。


「お前たちに、正義の鉄槌を叩き込んでやる」


 騎士団員で大司教。

 まさかの二重スパイ状態だった俺は、杖を構えて宣言した。

 すると邪教徒たちは、覚悟を決めるように息を吸う。


「や、やるんだ! やらなきゃ俺たちはここまでだ! 【ブリザード】!」


 邪教徒の放つ氷嵐魔法が、部屋に白煙を巻き上げる。


「【フリーズボルト】!」


 そこへすぐさま放たれる、氷弾の魔法。

 出所の見えない魔法攻撃は、なかなかにやっかいだ。


「【テンペスト】!」


 だが俺は暴風を吹かせることで、氷弾をまとめて弾き飛ばす。

 吹き付ける風は氷嵐をも晴らし、邪教徒たちの姿があらわになった。


「【ウィンドボルト】!」


 放つ魔法は、強烈な風弾。


「うああああああ――――っ!」


 これを喰らった邪教徒は転がり、そのまま壁に激突して倒れ込んだ。


「やれ! 火炎ビン攻撃だ!」


 複数人が同時に取り出した、魔法薬入りのビン。

 ここに【ファイアボルト】をぶつければ、一気に炎が巻き上がって戦況が一変する。

 近接攻撃を中心とする騎士団員には、とても効果的だ。


「気を付けろ、シャルル!」


 聞こえてくるアテナの声。

 このままではまた、邪教徒たちの狙い通りの状況になってしまう。しかし。


「問題ない【テンペスト】!」


 杖を向け、巻き起こす烈風。

 俺を起点にして駆け抜ける風が、投じられた火炎ビンを吹き飛ばす。

 あさっての方向に飛ばされたビンにはもう、火をつけることもかなわない。


「【ウィンドボルト】【ウィンドボルト】【ウィンドボルト】!」


 ここから一気に、攻勢をかける。

 怒涛の連射で放つ風弾が次々に邪教徒たちを吹き飛ばし、転がす。

 雌雄は、あっという間に決してしまった。しかし。


「ならば、これでどうだ! 【バーンフレイム】!」

「っ!?」

「シャルル!」


 再び聞こえた、アテナの叫び声。

 最後の邪教徒から放たれた炎の魔法は、これまでのものとはレベルが違う。

 紅蓮の輝きを放つ、高火力の大炎弾だ。


「【グランフレア】ァァァァァァ――――ッ!!」


 俺は突き出した左手で魔法を放つ。

 一直線に飛んだ炎弾は、大炎弾を打ち破った。

 それだけでは終わらない。

 俺の放った一撃は、そのまま駆け抜けて炸裂。

 その余波が、最後の邪教徒を吹き飛ばす。


「ぐっ! ああああああ――っ!!」

「すごい……」

「たった一人で、これだけの邪教徒たちを……」


 舞い散る火の粉の中、戦いを傍観していた騎士団員たちが感嘆をもらした。

 これで一段落だ。

 息をつくと、倒れ伏していた邪教徒が静かに起き上がる。


「俺は一体……何をしていたんだ?」

「……やっぱりな」

「やっぱり? シャルル、それはどういう意味だ?」

「どうやら、魔法薬による洗脳が行われていたみたいだ」

「魔法薬による、洗脳だと?」

「こうして罪もない市民を矢面に立たせて、背後で操る者がいるってことだ」

「チッ!」


 俺がそう告げた次の瞬間、倒れていた邪教徒の一人が窓を破って外へと逃げ出した。


「あいつだ! あいつが魔法薬を使って、この戦いを操っていた邪教徒だ!」


 逃げて行く男を指さすと、アテナはすぐさま指示を出す。


「追え! 今すぐに追うんだ!」


 その言葉に、走り出す騎士団員たち。


「ここは俺に任せろ。魔法薬からの介抱は心得てる」

「聖女様を見つけて助けたのも魔導士シャルル……そして今回も。まさかこの男、本当に帝国を守る英雄なのか……?」


 そう言い残してアテナも、すぐに後を追って行った。

 こうして騒がしかった廃教会に、静寂が戻ってくる。


「……よし、もういいぞ」


 騎士団員たちが去ったのを確認して、声をかける。

 すると倒れ伏していた邪教徒たちが、次々に起き上がっていく。


「これで騎士団は、過激派の鎮圧に成功したと思ってるはずだ」

「さすがです!」

「さすが大司教さま!」

「本当に、大司教様が戻って来てくれてよかった……!」


 もちろん最後に逃げ出していった邪教徒は、『廃教会を知り尽くした、逃げ足の速さに自身のある者』だ。

 一人なら、騎士団から逃げ延びることくらい余裕だろう。


「最後は必殺の魔法で派手に締めましたが、いかがでしたか?」

「いかがでしたかじゃねえよ! 最後の魔法めちゃくちゃビビったんだからな! 本気でやるやつがあるか!」


 うまいこと対応できたから良かったけど、あんなの喰らったら大惨事だぞ!

 向けられた炎弾の火力を思い出して、俺は思わず身震いする。


「あ、あの、大司教様」


 そんな中、一人の邪教徒がおずおずと声を上げた。


「どうして大司教様が……騎士団員たちと一緒だったのでしょうか?」

「それは私も気になっていました。それにここ最近、どうされていたのですか?」


 ああ、そうか。

 こっちはこっちで、俺が普段城に住んでることを知らないのか。

 ここは、しっかり言葉を選んだ方がよさそうだ。

 後々面倒なことにならないように。


「実はここ最近来られなかったのは、王城内で情報を集めていたんだ」

「王城で!?」

「もしや、それは……!」

「ああ、王城にお抱え魔導士として潜り込むことに成功した」

「おおっ!」

「ここ数日はスパイ活動に余念がなかったんだ。今回はギリギリのところで、邪教襲撃の報を知って駆けつけたってわけだ」

「これで今後は騎士団員たちの動きに、いち早く対応できるというわけですね!」

「さすがです! 大司教様!」


 ……どうやら、納得してくれたみたいだ。

 これで俺が騎士団と一緒にいるところを見られても、問題にはならないだろう。


「だが騎士団め、急に攻めてくるなんて卑怯な。覚えておけよ……!」

「今回は十分な人数が集まっていませんでした。次は総力を持って騎士団に特攻を仕掛けましょう!」

「……と、当分はいいんじゃない? おとなしくなったと思わせておこうよ。そうだ、これからは貴族に霊験あらたかな水を売るっていうのはどうだ? 水はただみたいなものだからな。利益率も高いだろ」

「その稼ぎで、武器を買って特攻するんですね!」

「特攻から離れろって!」

「そうだ! 大司教様が潜り込んでいるのなら、城内への突入も可能になるはず! 今度は騎士団たちの拠点に、自爆特攻を仕掛けましょう!」

「「「それはいい!」」」

「やめろ! なんでお前たちはそんなに凶暴なんだ!」


 俺が大司教だと知る邪教徒たち。

 何とかこいつらを操っていかないと、俺の気ままな帝国生活は終わってしまうぞ……!


「さあ次の指示を! 大司教様!」

「突撃ですか!? 破壊活動ですか!?」

「騎士団に、目に物見せてやりましょう!」

「やめろやめろ! 頼むからしばらく大人しくしといてくれええええ――っ!!」


 こうして突然訪れたまさかの危機は、どうにか乗り越えることができた。

 しかし新たな火種を抱えた俺は、ため息を吐くしかないのだった。

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