第20話 大司教シャルル

「大司教様が戻ってきたぞぉぉぉぉぉぉ――っ!!」

「お……俺ええええええええええ――――っ!?」


 驚愕に思わず、叫んでしまう。


「大司教様! お待ちしていました!」

「この危機に、大司教様が駆けつけて来てくれるとは……っ!」


 俺の姿を見て、歓喜の声と共に駆け寄ってきた邪教徒たち。

 中には、感涙している者までいる。


「俺が、邪教の大司教……?」


 どうやら魔導士シャルルは、帝国における邪教を統括する立場だったらしい。


「我らの存在を広めるために、聖教への攻撃を欠かさず行う。大司教様の言いつけを守っております!」

「大司教様にお教えいただいた連携、そして魔法薬を使った火炎ビンの精製が活きました!」

「まさか最近の破壊活動とか襲撃も、俺の指示なの!?」

「「「はいっ!」」」


 邪教の大司教で、最近の破壊活動の先導者。

 絶対ダメだろこれ……!

 でもこれで、完全に理解した。

 妙に上手な魔法の連携や、魔法薬を使った火炎ビン攻撃は、『魔導士シャルル』の入れ知恵だったんだ……。

 本編では帝国の腐敗と共にいよいよ狂っていき、その活動をドンドン危険で過激なものへと変えていった邪教。

 そこに大司教の存在を示唆する描写はなかったけど、背後ではしっかりつながってたんだ。

 魔導士シャルル、マジで諸悪の根源じゃねえか!


「ていうかこれ……ヤバくね?」


 騎士団員たちが邪教徒たちを捕まえでもしたら、大司教(俺)のことをうっかり話しちゃうやつが出てくるよな。

 そうなったら、魔導士シャルルが背後にいるってバレてしまう。

 あとは捕まるか、帝国から逃げ出すかの二択しかない。

 それはこの気ままな帝国生活が、終わってしまうことを意味する。

 いくら魔力が高くても、見知らぬ世界で一人生きていける自信なんて俺にはないぞ!


「大司教様、どうしましょう。まさかこんなに早く、我らの拠点がバレてしまうとは」

「先手を取り、時間こそ稼ぎましたが、騎士団を相手に戦って勝てるほど我らの練度は高くありません。何卒ご指示を!」

「お願いします! このままでは、私たちの邪教が潰されてしまいます!」

「我らが邪教を、お守りください!」

「自分で邪教って言うなよ」


 懇願してくる邪教徒たち。

 まあ、間違いなく騎士団はここに攻め込んでくるだろう。

 そして俺が邪教の大司教なのはもちろん、騎士団員襲撃の計画者だとバレるのもマズい。


「騎士団が、こちらにやってきます!」


 そこに飛び込んできたのは、哨戒に回っていたのであろう一人の邪教徒。

 その言葉に、走り出す緊張。

 これは、とんでもない事になってしまったぞ……。


「……慌てるな。こっちには大司教様がいる」

「えっ?」

「騎士団員たちがいかに強くとも、大司教様のお力に不可能はない。我々はただ、ご指示の通り動けばいいだけだ!」

「そうか! そうだよな!」

「大司教様のご指示があれば、この程度の危機、問題なく乗り超えることができる!」

「やめろって! 俺を戦闘のリーダー役にするなよ!」


 このままじゃ俺が、邪教徒たちを率いて騎士団と戦うことになるじゃねえか!

 そうなったらいよいよ、帝国を追われることになっちまうぞ!


「足音が、聞こえてきた……!」


 鳴り渡る騒がしい足音に、いよいよ深まっていく緊張。

 どうやら一通り廃教会を見回った騎士団員たちが、再び集結して動き出したようだ。

 そして一直線に、こっちに向かってきている。


「大司教様! ご指示を!」

「大司教様! 我々に英知をお与えください!」

「我らが邪教を守るために! おねがいします、大司教様!」

「だからやめろって! その大司教は別人なんだよ! 俺はそいつにそっくりなだけの別人なんだ!」

「「「…………」」」


 告げられる事実に、静まり返る邪教徒たち。

 涙を流しながら、一言。


「……大司教様が、我々の緊張を解くために冗談まで言ってくださったぞ……っ!」

「さすが大司教さまだ! 俺はどこまでもついて行く!」

「大司教様!」

「大司教様ぁぁぁぁ!」

「どうしろって言うんだよ!」


 とんでもない勘違いに、思わず叫ぶ俺。

 すると隣の部屋のものであろうドアが、開け放たれる音がした。

 いよいよ騎士団は、この部屋目がけて駆けてくる。

 ……どうすんの、これ?

 騎士団と邪教に挟まれた、最悪の立場。

 こんな状況、どうやったら切り抜けられるっていうんだよ!?

 俺は何かできないかと必死に作戦を考えるが、何も思い浮かばない……っ!!


「……いや、待て」


 その瞬間、走るひらめき。

 これならどうだ……?

 こういう危機、前にも似た状況があったぞ。

 ああいうやり方だったら、この危機を切り抜けられるんじゃないか?

 悩んでる暇はない。

 俺はその閃きに、全てを賭けることにした。


「……全員、今すぐ戦闘態勢に入ってくれ」



   ◆



「ここか!」


 背後のドアが、勢いよく開かれる。


「いたぞ、邪教徒たちだ!」


 予想通り、先頭で飛び込んできたのはアテナ。

 その後ろから、騎士団員たちも一斉に踏み込んできた。


「お前は……! ここで何をしている、魔導士シャルル!」


 俺に気づいたアテナが、問いかけてきた。

 ベンチを重ねたバリケードの背後には、武器を手にした邪教徒たち。

 一方俺はドアの前に立ち、彼らと向き合っている状態だ。

 一触即発の状況。

 戦うでもなく、ただ向かい合っている俺たちを見れば、疑念が生まれるのも当然だろう。


「そんなの、決まってるだろ」


 アテナがしっかりとこの状況を把握したところで、俺は冷たく言い放つ。


「――――ここまでだ。悪しき邪教徒ども」

「「「ッ!?」」」


 唖然とする邪教徒たち。


「俺が、お前たちに正義の鉄槌を叩き込んでやる」


 そう宣言して、俺は杖を向けた。

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