第19話 邪教との戦い
邪教徒たちは、帝国の古い市街に立つ廃教会を拠点としている。
その大きさは、現在聖女が住んでいる教会ほどではないが、なかなかの規模を誇る。
建物の前に集まったのは、十数名ほどの騎士団員。
気取られないため人数を絞り、フード付きマントで顔を隠した状態で作戦の開始を待っている。
アテナは頃合いを見て先頭に立ち、語り始めた。
「聖霊祭では、我らの露店よりわずかに安い価格で出店したり、サクラを雇って食中毒のフリをさせたりと、度重なる嫌がらせをしてきた邪教徒たち」
なんだ、そのしょうもない嫌がらせは。
「いよいよその活動を過激化させ、女神像の破壊や、催事の妨害などを行うようになった。それだけではない。最近では甘い言葉や洗剤の配布などで帝国民につけ込み、聖教への反感をあおっているようだ」
「それは許せないな」
俺はすぐに、アテナの言葉に乗っかっていく。
「その中で布施も募っているようだが、中には生活を切り詰めてまで寄付を行っている者もいるようだ」
「そんなことをさせるのはロクでなしだ! クズだ!」
邪教が『悪』であると知っている俺は、声をあげ続ける。
やる気を見せておくことで、今の魔導士シャルルは「悪人ではない」っていうアピールになるはずだ。
「布教はすでに貴族にまで及んでいると聞く。最近では騎士団への度重なる襲撃もあった。もはや放置しておくわけにはいかない」
「その通り!」
「よってここで邪教徒を摘発し、騎士団の威厳を見せつけるんだ!」
「この魔導士シャルルが相手だ! 悪しき邪教め!」
「……やりづらいんだが」
おっと、少し盛り上がり過ぎたか。
でも、これだけ気合を見せておけば印象も変わってくるだろう。
あとはちょくちょく後方から魔法でも撃ってれば、問題ないはずだ。
「ゆくぞ!」
アテナは、力強い言葉と共に歩き出した。
「突撃!」
その足を、大きく後方へ振り上げる。
そして足を強く地面に突くと、廃教会の扉をやや強めに両手で開け放った。
いや、蹴破るんじゃないのかよ。
こんなところで育ちの良さを露呈させてどうする。
「き、騎士団だ! 騎士団が攻めてきやがった!」
「怯むな! 戦え!」
勢いよく、突入を開始する騎士団。
気付いた邪教徒たちは、慌てながらも臨戦態勢に入る。
「【ブリザード】!」
まずは氷嵐の魔法で、こちらの足を止めにきた。
「「「【フリーズボルト】!」」」
勢いを削いだところで、いまだ残る白煙の向こう側から、氷弾による一斉攻撃を開始する。
「くっ!」
すぐさま防御態勢を取り、氷弾をやり過ごす騎士団員たち。すると。
今度は邪教徒たちが、何かを放ってきた。
「これはっ!? 下がれええええ――っ!!」
アテナは、すぐさま叫ぶ。
投擲されたのは、謎の液体を含んだビン。
「【ファイアボルト】!」
割れて飛び散った液体に、邪教徒が炎弾を放つ。
「「「うおおおおおお――――っ!?」」」
すると液体に引火して、大きく燃え上がった。
「魔法と魔法薬を組み合わせた戦法、まさかここまで手慣れているとは……っ!」
個人の戦闘能力こそ高いわけではないだろうが、思わぬ戦いぶりにアテナも驚きの声を上げる。
「ここは俺が! 【テンペスト】!」
俺は風の魔法を使い、迫る炎の波を烈風でかき消した。
「ちっ、退くぞ!」
すると邪教徒たちは無理をせず、後退を開始。
「いいぞ! よし、ここからは二手に分かれて攻勢をかける!」
勢いを取り戻した騎士団は二つのチームに分かれると、廃教会の奥へと走り出す。
「って、ちょっと待ってくれよ……!」
騎士団員たちは自慢の健脚で階段を上がり、マラソン選手のような速度で廊下を駆けていく。
その走りは速く、そして一糸の乱れもない。
「はあはあ……こんなの、ついて行けるはずがねえ……」
一方体力の続かない俺は、階段の途中で足を止め、呼吸を整える。
するとあっという間に、騎士団員たちは見えなくなってしまった。
「まいったな……いや、待てよ」
取り残された俺に、ひらめき走る。
「後はもう、騎士団に任せてもいいんじゃないか?」
俺のやる気は充分に見せたし、ちょっとだけど役にも立った。
もうアテナの近くで、これ見よがしにがんばる必要はないだろう。
それに俺がいなければアテナは、別チームの方にいると思うはずだ。
「それなら、真面目に後を追って戦う必要もないよな」
いくら魔法が使えるといっても、別に戦うのが得意なわけでもない。
「戦いが一段落するのを期待しながら、のんびり後を追いかけよう」
邪魔なフードを外し、俺は騒がしくなってきた廃教会の中を適当に進む。
できることなら、戦いが一段落ついたところにちょうどの形で合流したい。
「ええと、こっちかな?」
趣のある廃教会。
進んで、作りの良いドアを適当に開けてみる。
「……えっ?」
「「「なっ!?」」」
一歩踏み込んだところで、息が止まる。
そこには居並ぶ、二十人ほどの邪教徒の姿。
いくつものベンチを倒してバリケードに変え、その陰で武器を手に身を低くする姿は、臨戦態勢で間違いない。
どうやらここが、邪教徒たちの集合場所のような部屋だったらしい。
……ヤ、ヤバい。
これ、めちゃくちゃヤバいぞ!
まさかの危機に、硬直する身体。
一方邪教徒たちは俺の姿を確認すると、一斉に立ち上がった。
全員武器を持ったまま、勢いよく一直線にこっちに駆けてくる。
「ああーっ! すみませんでしたー! 抵抗はしないので許してくださいィィィィ――ッ!!」
そして降参のポーズをとるため、俺が両手を上げようとしたところで――。
「「「大司教様――――っ!!」」」
邪教徒たちは突然、目の前にヒザを突いた。
「…………はい?」
なにこれ?
なんで邪教徒たちが、並んでひざまずいてるの?
意味が分からない。
俺が困惑していると、一人の邪教徒が感涙しながら顔を上げた。
「お帰りだ……! 大司教様の、お帰りだああああああ――っ!」
「大司教様! よくぞお戻りくださいました!」
「「「うおおおおおおおお――――っ!! 大司教様ああああ――――っ!!」」」」
「お……俺ええええええええええ――――っ!?」
歓喜の声を上げる、邪教徒たち。
どうやら魔導士シャルルは、邪教の大司教だったらしい。
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