第13話 侵入ミッション!
怪盗と手を組んだ俺は、若き悪女レシール・ダズマン邸を望む木の上へ。
念のため、どこかに引っかけたりしないようローブを脱いでおく。
「何て規模だ……」
美術館レベルの広さを誇る豪奢な住居は、大物貴族の名に恥じない。
各所で炎のように輝く『灯の宝珠』が、まるで伏魔殿のような迫力を醸し出している。
帝国崩壊を引き起こす悪人や、魔族の流入。
その仲介役となるダズマンに、先んじてお灸をすえておくのが俺の目的だ。
「【浮遊】の魔法って、便利だなぁ」
本編でもシャルルはフワフワしてたけど、いざ使ってみるとその便利さに驚く。
とはいえ速い飛行ができるわけではないから、いざという時は走らにゃならんのだけど。
「狙いは【紅の宝玉】だ。それ一つで、多くの民の生活を救うことができる」
あくどいやり方で稼いだ金は、盗まれる。
さらに怪盗に狙われていると知れば、ダズマンも悪事に手を出しにくくなるだろう。
やるしかない、俺の平穏な帝国ライフのために。
「左方、勝手口の上にある窓より侵入する」
そう言って怪盗は、華麗な連続跳躍で目的地へ。
俺も【浮遊】で、フワフワと後に続く。
高い壁による囲いも、俺たちには関係なし。
余裕でたどり着いた、勝手口。
上部に付けられた窓には、当然カギがかかっている。
「【アンロック】」
しかし怪盗は、窓のカギをあっさりと開錠。
俺たちはそのまま、ダズマン邸内部に侵入した。
「すげえ……」
そこは王城のホールに劣らぬ優美さ。
大理石の床に、彫刻の施された柱。
並ぶ絵画の豪華さだけで、レシールの大物ぶりが分かる。
「やっぱり、こういうステルスミッションはドキドキするな……」
「問題ない。すぐに終わる」
そう言って、音もなく歩き出す怪盗。
後に続くと、突然足を止めて俺の歩みを制した。
「っ!?」
すると、今まさに俺が踏み出そうとした先に炸裂する魔力の矢。
怪盗は間髪入れずに、短剣を投擲。
天井の角に埋め込まれた二つの宝珠に突き刺し、機能を停止させた。
「あれは、攻撃型の魔法珠」
「あ、危ねえなぁ……マジでRPGのダンジョンを思わせる罠じゃねえか」
「飛べ!」
「今度は何だ!?」
怪盗は突然そう言い残して、前方へ跳躍。
俺が言われるまま【浮遊】を発動すると、直後に床が崩れて落ちた。
こんな落とし穴、本当に存在するのか……!
いきなりの連続罠を回避して、安堵の息をつく俺。
「「っ!!」」
続けざまに聞こえた足音に、思わず総毛立つ。
異変を聞きつけたのか、角から飛び出してきたのは、武装した一人の私兵。
「何者だ!」
俺たちを見つけると剣を抜き、駆けつけてくる。
すると怪盗は前に出て対峙、私兵の剣を難なくかわす。
そこから短剣の柄を鳩尾に叩き込み、無力化に成功した。
なんて優秀なやつなんだ……。
「おい、どうした!?」
しかし見張りは、もう一人いた。
様子を確認しにきたのだろう私兵の手には、緊急事態を伝えるための鐘。
あれを鳴らされれば、間違いなくダズマン邸は『警戒態勢』に入るはずだ!
「くっ……!」
慌てて駆けつける怪盗だが、タイミングはギリギリ。
「【サンダーボルト】!」
「うあああああっ!」
俺はとにかく速い、雷系の魔法でフォロー。
鐘持ちの見張りを、気絶させることに成功した。
「助かった。やはり魔導士と組む戦略は正解だった」
そう言って、深くうなずく怪盗。
「いやー、マジでドキドキするなこれ……」
罠もそうだけど、見張りに見つかった瞬間の緊張感は半端ない。
高鳴る鼓動に妙な興奮を覚えながら、俺たちは私兵がやって来た方へと進む。
「行き止まりかよ」
しかしその先は白亜の石壁が続くだけで、道はなし。
「……だが、単なる行き止まりにしては罠の密度が高かった。見張りを二人巡回させるのも不可解。おそらくこの辺りに……」
怪盗はそう言って、行き止まりの石壁に触れる。
すると何もなさそうな石壁が開き、地下へと進む階段が現れた。
「さすが怪盗だな。こんな隠し扉にまで気づくなんて」
俺たちはさっそく、暗い地下通路を進む。
その先にあったのは、大きな鍵の付けられた金属扉。
「【アンロック】」
そんなもの、関係なし。
怪盗は容赦なくカギを開いて中へ。
そこには美しくカットされた真紅の宝石が、ガラスケースに安置されていた。
この美しい輝き。
間違いない、これは相当高額だぞ。
「問題は、並んだ罠だな」
部屋の中には、埋め込み型の電球のような形式で設置された、いくつもの宝珠。
これは所定の対応をしないと、魔法を放ってくるはずだ。
さて、どうしたものか……。
ぶつかった最後の難問に、俺が頭を悩ませていると――。
「【スティール】」
「マジかよ……」
なんと怪盗はガラスケースに触れずに、【紅の宝玉】だけを奪取した。
やっぱり、怪盗の能力は本物だ。
「思ったよりあっさり成功したな。よし、さっさと脱出しようぜ」
俺はダズマン邸からの、早い撤退を提案。
しかし怪盗は、静かに首を振った。
「実はまだ、狙うべき宝がある」
「なるほど、それも持って行こうってことだな」
何せ相手は大物貴族。
必要以上の財産は、手ゴマとなる悪人の雇用にも使われる。
それならこの機会に、勢力を少しでも削いでおくのが正解だろう。
俺の安穏たる、帝国生活のためにも。
「ダズマンは、この隠し部屋へと続く秘密の通路をもう一本作っているようだ。おそらく、二階からでもすぐに駆けつけられるように」
怪盗が隠し部屋の天井に触れると、天板の一枚が外れて穴が開いた。
「よく見つけるなぁ、こんなの」
俺たちは通気口を通るような体勢で、二階へと上がる。
やがてたどり着いた、行き止まり。
持ち上げた天板は、二階の床板になっていたようだ。
たどり着いた部屋は、この屋敷にしては小さく八畳ほど。
そこにはクローゼットと、天井まで届く木製の引き出しが何台も置かれていた。
「ここは……衣裳部屋か何かか?」
なるほど、普段使いの宝石をまとめて持って行こうって魂胆だな。
怪盗は引き出しを、次々に開いて中身を確認。
そして目的のものを見つけたのか、勢いよく手を突っ込んだ。
「これだ……!」
掲げた手。
豪快に取り出したのは、一枚の真っ赤なパンツ。
「これだじゃねえよ! パンツじゃねえか!」
お宝でも何でもねえ!
「下着泥棒の方は一人でやれよ! 余計な証拠とかを残すと、そこから足がつくかもしれないだろ!」
怪盗は振り返り、首を振る。
「これは……下着泥棒ではなく作戦。探しているのはあくまで宝石類」
「作戦って、どういうことだよ?」
「宝と一緒に下着を盗むと、こちらの狙いが宝なのか下着なのか分からなくなり、悪徳貴族を混乱させることができる」
そう言って怪盗は、手にした際どい女性物のパンツをポケットへ押し込んだ。
「これこそ我が奥義――――ミスディレクション・スティール」
「馬鹿なの? それとも変態なの?」
「違う、義賊」
怪盗は再び、引き出しをあさり始めた。
そして何十枚もの下着を頂戴して、一緒に宝石類も手にすると、意気揚々とレシールの衣裳部屋を後にする。
「ダズマンのお宝は、確かに頂いた」
うなずくその顔は、すごく満足げだ。
「これもう義賊は副業で、下着泥棒が本業だろ」
「ちょっと何を言っているのか分からない」
白々しくそう言いながら衣裳部屋のドアを開け、廊下に出た怪盗は――。
「っ!」
部屋の前に仕掛けられていた、床罠を踏んだ。
「ほら見ろぉぉぉぉ!! お前の方が下着泥棒の成功で、罠が見えなくなってんじゃねえかぁぁぁぁっ!!」
鳴り響く警報。
ダズマン邸の気配が、一変した。
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