第2話 宿敵の騎士団長

 帝国騎士団長アテナ。

 揺れる長い金髪と、澄んだ青色の瞳。

 その美しい容貌から放たれる華麗な剣技は、フィナーレファンタジー6の『華』

 魔導士シャルルの悪行から帝国を守るために抗い続けるが、最後は破れ、斃れる。

 そんな誇り高き剣士。

 今の俺にとっては完全なる――――宿敵だ。


「答えろ魔導士! 貴様、陛下に何をした!」


 その凛々しい目で、アテナは俺をにらみつける。

 こ、これはヤバいぞ……!

 皇帝に【魔眼】を使ったことを、気づかれた可能性が高い。

 そんなのが表ざたになったら良くて追放、最悪死刑だ!


「な、何もしてないけど……?」

「そんなわけがあるか! 見ろ、陛下の目が煌々と光っているではないか!」


 見れば確かに、皇帝の目はピカーと強烈な輝きを放っている。


「これは元からだよ。そうですよね? 陛下」

「ソノトオリデス」

「ほ、ほら」

「どう見ても言わされているではないか! これは貴様たちエンデラ族の【魔眼】に相違ない!」

「違いますよね、陛下?」

「マガンチガウ、マガンチガウ」

「ほら」

「ほらではない! どこからどう見ても言わされているだろう! そうか! 先ほどの商人と何か企んでいたのだな。ならば今すぐあの者に話を聞いて――!」


 げっ、それはヤバい!

 さっきの商人を連れてこられたら、態度の急変がバレちまう!


「あれは帝国内に新しい建物を造りたいから、魔法石は買わないでくれって話をしただけだ! そうですよね? 陛下!」

「ソノトオリデス」

「言わされてるなぁ!」

「……へ、陛下の言葉を、疑うのか?」

「くっ、貴様……! 陛下、答えてください! 本当にこれは【魔眼】によるものではないのですか!?」


 真剣な面持ちで、問いかける。

 すると皇帝は、真っすぐにアテナと向かい合った。


「――――マガンチガウ」

「明らかに言わされている――っ!!」


 目をピカピカさせてるとはいえ、あくまでそれは皇帝の言葉。

 無為にできないアテナは、悔しそうに俺をにらむ。


「魔族ともつながり、世界中で厄災を起こしてきたエンデラ族の末裔。だから貴様は信用できないと思っていたんだ! 必ず、必ず尻尾をつかんでやる!」


 そう言い残すと、悔しそうに踵を返した。


「あ、あぶなかったぁ……」


 いきなり訪れた危機からの一応の脱却に、安堵の息をつく。


「魔導士殿」

「ん?」


 するとアテナと入れ替わる形で、人相の悪い男たちがやって来た。


「例の話、まとまりました」

「詳しい話は、地下水路にて」


 そしてそのまま、短く話を済ませて去っていく。


「ええ……何だよあいつら……」


 見るからにガラの悪い男たちが、薄暗い地下水路なんかで何の話をしようっていうんだ……?

 自由な生活を手に入れるには、悪人との関りは絶対にやめるべき。

 とはいえ、放置して問題が起きたりするのも困るよなぁ……。


「……あのさ、ちょっといい?」


 だから俺は、近くの兵士に声をかけることにした。


「はっ、いかがされましたか?」

「ええと、腕利きの兵士を十人ほど貸してもらってもいいかな?」



   ◆



「街は本当に賑わってるんだなぁ」


 レガリア帝国は、世界トップクラスの規模を誇る国家だ。

 俺は指定された地下水路に向かうため、街の通りを進む。

 並んだ商店はどこも活気に満ちていて、楽しそうだ。

 この感じを見るに、やはりタイミング的には本編ストーリーが始まる前なんだろう。

 勝手知ったる街並み。

 俺は本編知識をもとに、人気のない地区から地下水路へと踏み込んでいく。


「魔導士殿、こちらです」


 壁に並んだ松明に照らされ、妖しい雰囲気が漂う通路。

 そこにいたのは、四人の悪そうな男たち。


「例の話、ついに準備が完了しやした」

「例の話?」

「相手は放蕩貴族。良い商売になりそうですぜ」


 なるほど、貴族相手にぼったくってやろうみたいな事か。

 帝国にはタチの悪い貴族もいるし、そういうの相手ならありかもな。


「儲けを想像すると、笑いが止まらねえよ」

「まったくだ」


 景気の良さそうな話。

 笑い出す男たちに、俺は疑問をぶつけてみる。


「で、商品は?」


 たずねると、男は一つの『鍵』を渡してきた。


「しっかり集まってますぜ。まともな身寄りのねえ――――帝国のガキどもが」

「……はい?」

「仕事なんかを探してフラフラしてるガキをさらって、荷馬車に詰め込む。あとはそのまま放蕩貴族のもとに向かい、売って稼ぐ。本当においしい商売だよなぁ」

「まったく、真面目に働く気がなくなるぜ」

「何言ってやがる、お前はもともと詐欺師だろうが」

「「「ハハハハハハハハッ!!」」」


 笑い出す、悪人面の男たち。


「いやいやいや! それはやり過ぎだろ!」

「「「……は?」」」


 俺の言葉に、笑い声が止まる。

 いや、放蕩貴族からぼったくるくらいならいいよ。

 でもこれは違う。

 身寄りのない子供を売り渡すとか、そんなのもうドン引きなんだけど!


「そこまでの悪事はさすがにダメだって! いくらなんでも邪悪過ぎる! 誰だよ、こんな非道な商売を企てた極悪人はっ!!」


 俺が顔を引きつらせながらそう言うと、男たちは全員で指差した…………俺を。


「俺ええええええええええ――――っ!?」

「何言ってんだ、アンタが始めた商売だろ」

「ていうか首謀者だろ」

「みんなアンタの言う通りに準備してきたんだぞ」


 う、嘘だろ……!?

 この凶悪商売、魔導士シャルルが首謀なのかよ!

 そりゃアテナにも疑われるし、恐い目でにらまれるわ!

 裏でこんな非道にまで手を伸ばしてるって、悪人にもほどがあるだろ!


「――――話は聞かせてもらったぞ」

「「「「ッ!?」」」」

「なんだテメエは!」

「どこから入って来やがった!」


 聞こえた声に、ならず者たちがいきり立つ。

 俺は嫌な予感に、そーっと振り返る。

 そこにいたのは案の定、帝国騎士団長アテナ。


「怪しい動きをしていたのが見えていたからな、後をつけさせてもらった」


 アテナは、俺の手にある『鍵』を見据えながら剣を抜く。


「決定的だな。最後に何か、言い残すことはあるか?」


 ヤ、ヤバぁぁぁぁぁぁ――っ!!

 確かにこれは決定的だ!

 悪人たちと密談し、その手には罪のない子供たちを詰め込んだ荷馬車の鍵。

 どう言い訳したって、逃げられるはずがない!


「どうした? 何か言ってみろ! 魔導士ィィィィ――――ッ!!」


 アテナはその凛々しい目で俺をにらみ、剣の切っ先を向けてきた。

 まさかの危機に、噴き出す冷や汗。

 見れば男たちも剣を引き抜き、一触即発の状態だ。

 どうする? どうすればいい!?

 こんな絶体絶命の状況に、俺は――――。


「……た」

「……た?」

「逮捕だああああああああ――――っ!!」

「「「はああああああああ――――っ!?」」」


 起死回生の一手を打つ!

 ならず者たちの驚声が響く中、あらかじめ地下水路にひそませていた護衛の腕利き兵士たちが、一斉に突入。

 見事な剣さばきと的確な攻勢で、あっという間に男たちを制圧した。

 そうだよ! 相手はもともと悪人なんだ、裏切っても問題ない!

 俺は、自由気ままな生活を守り抜くっ!


「魔導士、まさか最初からこのつもりで……?」


 すると予想外の展開を目の当たりにしたアテナは、驚きの表情を見せた。


「……当然だろ?」


 やった……。

 最大の危機を、乗り越えたぞぉぉぉぉぉぉ――っ!!

 ならず者たちを兵士に任せた俺は、歓喜に叫び出したい気持ちを抑えながら、地上へ戻る。

 そしてそのまま、子供たちを詰め込んでいるという荷馬車のもとへ。すると。


「――――待っていたぞ」

「「ッ!?」」


 荷馬車の上に腰かけたそいつの姿に、俺とアテナは驚きの声をあげた。

 そこにいたのはなんと、一体の魔族。

 中性的で青白い顔に、貴族のような服装。

 そして、肩までの美しい黒髪の間から生えた二本の長い角。

 現れた人型の悪魔は、俺を見てニヤリと笑う。


「ガキを集めさせていた小悪党どもは、用済みになったところで即処分。手にしたガキは魔族に売り渡す……か。すべて狙い通り。まったくお前は、人間にしておくのがもったいないくらいの悪人だよ」

「魔導士ィィィ! 貴様ぁぁぁぁぁぁ――ッ!!」


 すぐさま、怒りをあらわにするアテナ。


「う、嘘だろ……?」


 現れた魔族のまさかの言葉に、俺は白目をむいた。

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