死霊の村
クオ・ヴァディスとルドルフがスケレトゥスに見つからないように村を見て回ったところ、村の四方と中心部の五箇所に二人組のスケレトゥスが立ち、その付近に各五人の増援がいる、計三十五人の骸骨兵が村を守備している状態だ。そのうち中心部にはスケレトゥス達に守られるようにローブ姿の何者かがいる。
「おそらく、あれがこのスケレトゥス達を操っている魔術師だろう。拠点に人間が一人もいなかったら拠点として機能しないからな」
クオ・ヴァディスの分析に耳を傾けながら、ルドルフはあのローブ姿が自分の見た魔術師ではないことにモヤモヤとした気持ちを抱いていた。
「あいつはアニキを捕まえた魔術師じゃなかった。魔術師は他にもいるんだ」
このスケレトゥス達を生み出したのはここにいる魔術師だろう。となればあの魔術師に捕まった兄は不死者にはされていないかもしれない。そんな曖昧な状況に直面して、怒りや悲しみをどこにどうぶつけていいのか分からず混乱しているのだ。そんなルドルフの混乱を察したクオ・ヴァディスは、彼の肩に手を置いて言う。
「まずはこの村にいるモンスターを片付けよう。考えるのは後からでいい」
考えなくていい。そうだ、モンスターが村を闊歩しているのだから、残らず退治しておくのが最優先だと納得したルドルフは、自分でも不思議なほど一気に気持ちが落ち着いていくのを感じた。これが人生経験というものか、と感心すると共に戦斧を握りしめて目で早くやろうと促す。クオ・ヴァディスは軽く頷くと、まず村の四方にいる集団を一つずつ掃除していくため、東の入り口へと移動をはじめた。
「おっさーん、不死者って倒せるのかー?」
ルドルフの口から間延びした言葉が出る。そういえばテルミノ村に来た時はこんな喋り方だったと思い返し、極度のストレス状態から解放されたのだろうと安堵するクオ・ヴァディスだった。
「話に聞くところでは、バラバラになっても元に戻るから骨自体を粉々に砕いてやるといいらしい。動きを止めるなら腰の一番でかい骨を狙うのが良さそうだ。復活できない状態になると数秒後に魔力が抜けてただの骨に戻る」
「腰かー、よしやるぞ!」
二人が飛び出すと、警戒の二名が合図をして他の五名を呼び寄せる。思っていた通りの動きだと内心で満足したクオ・ヴァディスはそのまま立っていた二名の骨盤を水平に斬り飛ばした。ルドルフは駆け寄ってくるスケレトゥス達を頭上から戦斧で叩き潰していく。全ての骨を粉々にしてやればいい、と単純明快な答えを得たルドルフは次々と戦斧を振るってスケレトゥスを砕いていった。
「よし、次に行くぞ」
あっけなく一団を全滅させた二人は、他の集団を退治しに向かった。そうやって四方の集団を全滅させた二人はまた村の中心部へと向かう。魔術師は一般的に接近戦に弱い。強力な魔法を使うので先手を取られると恐ろしいが、近づいてしまえば相手が魔法を使うより先に斬り伏せることができる。見つからないように慎重に歩みを進める。
『来タカ……愚カナ人間ヨ』
「!?」
まだだいぶ距離がある地点で、ローブが不気味な声を発した。発言内容からしても人間ではない。しかもこちらの居場所を特定できている。これは不味い、と思う間もなくローブが杖のようなものを頭上に掲げる。一拍おいて杖から激しい雷が放たれ、クオ・ヴァディスはルドルフを抱えて大きく横に飛んだ。すぐに二人が立っていた場所に目を向けると、地面が黒く焦げうっすらと煙が生まれている。
「あいつ、杖を持つ手が白骨だった。あれも不死者だ」
ルドルフに耳打ちするとすぐに立って剣を構える。予想外だった。拠点は部隊と連絡を取り合う必要があるから人間がいると思い込んでいたが、言うことを聞いて意思の疎通が図れるなら別にモンスターでも構わないということだ。こちらに身体を向けたローブのフード部分からは、骸骨の顔が覗いた。
『素早イナ、コレデドウダ?』
また杖を掲げる。クオ・ヴァディスは敵の魔法が発動する前に全力疾走で距離をつめる。が、敵の杖から放たれたのは今度は雷ではなく、突風だった。猛烈な風に襲われ回避のしようもなく吹き飛ばされる。戦斧を地面に突き刺して風を耐えたルドルフが、代わりに駆け出す。
『フン、行ケ』
ローブの不死者が指示を出すと、集まってきていたスケレトゥス達が一斉にルドルフへと襲い掛かる。
「こんにゃろ!」
戦斧を振り回し、スケレトゥス達を蹴散らすルドルフに向けてローブの不死者から巨大な火球が飛んできた。完全に避けられないタイミングでの攻撃だ。だがそれが着弾する直前、間一髪でクオ・ヴァディスが接近し、火球を剣で斬り払った。
「そういえば王都の魔術師から聞いたことがある。
すぐにルドルフと二人でスケレトゥス達を全滅させ、ローブの不死者に剣を向けるクオ・ヴァディスだが、まだ距離がある。
『ナカナカノ知識、褒メテヤロウ』
死霊はクオ・ヴァディスの言葉を肯定すると、また杖を掲げる。今度はまた雷が放たれ、二人はそれぞれ逆の方向に横っ飛びでかわした。正体が分かっても厄介さは何も変わらない。こいつは幾つもの魔法を使い分けて攻撃してくる。発動までの時間も短く、動作から使用される魔法を見極めることもできない。
「おっさん!」
ルドルフがクオ・ヴァディスに声をかけ、目が合うと小さく頷いた。ルドルフの頭にどのような戦術が浮かんでいるのかは分からないが、クオ・ヴァディスはこれで死霊を攻略する策を決めた。
二人が同時に反対方向へ走り、すぐに方向転換して死霊へと向かっていく。二方向からの接近だ。すると死霊は嘲笑うような声を出し、杖を掲げる。
『フン、下ラナイ』
その杖から、突風が放たれた。全方向へ吹き出す風が、二人を同時に押し戻そうとする。
「そう来ると思ったよ!」
複数方向からの攻撃に一度に対応する場合、狙いを定めて放つ技は使えない。今まで死霊が使った三つの魔法でこの状況に対応できるものは突風の魔法だけだ。他にもまだ使っていない魔法がある可能性はあったが、ここは賭けに出た。
風そのものに殺傷力はない。ただ猛烈なエネルギーで押し返すだけだ。だから、クオ・ヴァディスはその風を利用して進むことにした。マントを広げて風向きに対して斜めに張ると、突風を受けた身体は後ろではなく前に押し出される。ちょうど帆船が風を受けて前に進むように、クオ・ヴァディスは風の中をジグザクに進んで死霊に肉薄した。
「おしまいだ」
死霊の身体を縦に両断し、半分を蹴り飛ばした。斬られたモンスターは声を上げることも出来ず、ただカラカラと音を立てて地面に散らばるのだった。
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