第二十五話『ファーストキスはしゃっくりの味』

第26話

「ん・・・んーーー!?」


――どうしてどうしてどうしてどうしてぇ!?


ディセルの唇が僅かに離れたと同時に後ろに飛ぶと、音が出る勢いで扉にぶつかった。


「ぇ・・・え!?」


――え、え、なっ、なに、何で・・・何で!?


「・・・チッ」


顔をこれでもかという程茹で上がらせ、震える指で唇をなぞると――ディセルに顎を掴まれ、再びキスされた。


「ヒキュッ!?」


――なんっで2回目!?


「・・・ック・・・」


しゃっくりの反動で軽く肩が跳ねると、それを合図にディセルとのキスが終わった。


「っえ・・・!?」


「はーーー可愛い・・・」


しかしディセルは私から離れようとせず、逆に痛いほど密着してきた。く、苦しい・・・!


「――少しは僕の気持ち分かった?」


「うぅ・・・」


ようやく痛苦しいハグが終わったのも束の間・・・両肩をしっかりと掴まれ、耳元で囁かれてしまう。もうとっくに私のキャパシティは0なんですけど!?


「聞いてる?」


「え、ぇと・・・ちょっとまだ状況が」


よく分かってなくて。と言い切る前に、耳元に熱い息がかかった。


「ならもうこの際ハッキリ言葉にするけど」


「・・・っ!」


ディセルは一拍置き、真剣味を帯びた声で――


「僕がヒックちゃんのこと好ヒック!」


――しゃっくりをした。


「・・・は?」「あ・・・」


呆然とした声が重なり、全身から血の気が引く。ここでようやく、私は先程のキスでしゃっくりをうつしてしまったということを思い出した。それは即ち――『ヒカップ家の呪い』の解呪に成功したということ。


「ック・・・ンクッ!な、何で急に!?」


――ディセルに『ヒカップ家の呪い』がうつった・・・!?


「嘘・・・嘘!」


「ん!?」


衝動のままに今度は自分からディセルにキスをし、しゃっくりが出るまで離れまいと彼の首に腕を回す。


――早く・・・早く出して!


呼吸を止めるのにも限界が訪れ、一旦唇を離そうとした瞬間、彼の口から耐え切れずしゃっくりが出た。すかさずそれを飲み込む動作をして様子を見る。


「っぷは・・・はぁ・・・」


――ど、どうなった・・・!?


「ヒック・・・『ザ・ラクーンドック・フェル!』」


ディセルが堪らないといった様子で一般的に使用されている『しゃっくりを止める魔法』を唱えても、しゃっくりは止まなくて・・・駄目元で私が詠唱しても結果は同じだった。


「何で魔法が効かない・・・!?まさかこれ・・・!」


「っ!」


とうとうディセルが状況を把握してしまったと思い、私は力なくその場に崩れ落ちた。


「ご、ごめんなさい・・・ごめんなさい!わた、私の・・・『ヒカップ家の呪い』が・・・ディセルにうつっちゃった・・・!」


「・・・みたいだねック!」



『詳しく説明して』と有無を言わさない表情に気圧され、私はこれまでの経緯を洗いざらい話した――何故かディセルに後ろ抱っこされている状態で。


「――なるほどね。さっきヒックちゃんがキンック・・・キスの最中にしゃっくりをしたから解呪の条件が満たされたのか」


「はい。あの・・・これで全部話したので、そろそろ離してもらえると・・・」


「駄ぁ目」


すり。とわき腹を撫でられ、驚きとくすぐったさにビクッと肩が跳ねる。ディセルはそんな反応を楽しむかのように手の往復を繰り返した。


「僕をこんなカラダにしやがって・・・誰が逃がすかよ」


「・・・」


「ヒック!あーもう最悪・・・全然締まらないじゃん!」


ディセルはしゃっくりをする自分を見られまいとしているのだろうが、私も今・・・とてもじゃないが彼の顔を見ることが出来なかった。手が震え、喉がカラカラに干上がってゆく――私はディセルに『恐怖』していた。


――呪いをうつしたいほど嫌っていたのに・・・どうして?どうして私は・・・いつからディセルのことを『呪ったあとでも好かれたい』と思うようになってしまったの?

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