第二十三話『いつから魔法バトル漫画に!?』

第24話

「物事には理由がある・・・僕がエステラ・ヒカップさんに解呪方法を教えたのは温情ではなく・・・」


「――ドロップ・デット!あっち行け!


「・・・必然です」


『ドオオオオンッ!』


聞き慣れた詠唱魔法が聞こえたと思ったら、辺りが粉塵に包まれる。数度瞬きし煙が晴れると――


「素晴らしい威力ですが・・・この程度では防御の杖ディフェンスワンド・・・第四の保護フォース・プロテクションは破れません」


「うっさい変質者!ヒックちゃん返せよ!」


――ディセルと紡ぎ手さんがバチバチに戦っていた。


「え・・・ヒック!」


――えええええっ!?何でディセルがここに!?というか・・・。


サラマンダーの滅殺スロータ・オブ・サラマンダー!」


――めっちゃ怒ってるんですけど!?


驚く暇もなく火の高位詠唱魔法が私と紡ぎ手さんに襲い掛かる。しかし紡ぎ手さんが発動した防御魔法?の保護膜には傷一つついていなかった。


「・・・穏やかじゃないですね。ヒックさんのご友人・・・いや。ただのクラスメイト・・・・・・・・・という言い回しの方が正しかったですね」


「っこの・・・!」


「ちょっちょっとヒック!ディセル!貴方何して・・・!」


思わず紡ぎ手さんを守るように一歩前へと出る。ディセルは全身から憤怒のオーラを漂わせ、紡ぎ手さんに向かって人差し指を突き立てた。お行儀が悪い!


「おいそこの生理も来てない女子児童に言い寄る変態。その子僕にとって大切だからさ・・・黒こげにされたくなきゃブッ!」


「変態はお前じゃーーー!」


勢いのまま紡ぎ手さんの防御魔法から抜け出し、決め台詞を言うディセルに平手打ちをかました。決して図星だったからではない。た、確かに他の女の子よりは遅いかもしれないけど・・・多分もうすぐだし!


「ヴァーサタイル君。後半で良い台詞をキメても前半の台詞にデリカシーがなさすぎです。あと僕は変質者でも変態でもないです」


紡ぎ手さんの冷静な指摘に少しだけ頭が冷えた。私は微かに溜まっていた涙を拭い、ディセルを強い目線で睨みつけた。


「急になんなの!?ヒクッ!魔法特務機関の敷地内で強力な攻撃魔法を連発するなんて・・・危うく私まで大怪我するところだったじゃない!」


「・・・」


「え」


ディセルはガシッと私の腕を掴み、しかめっ面のまま一言。


「――メタステイタス転移!」


私にとっておなじみの転移魔法をディセルが詠唱した次の瞬間、私達は空中で一時停止した。


「ヒック」「あヤバ」


私がしゃっくりを、ディセルが状況を理解したと同時に――私達は重力に従って落下した。


――じじじ自由落下してるぅ!何で転移先が空中なの!?


「うヒッ・・・きゃああああああ!」


「ごめん転移先失敗したみたい。この魔法ムズくない?」


――言ってる場合か!余裕・・・ってまさか。


魔法特務機関の屋根が見えてきて流石に焦る。私の腕を掴んだまま下を見やるディセルを見て――私はヒカップ家の家系魔法を詠唱した。


「ヒック・・・ヒックグラム!」


――はぁ・・・あ、危なかった・・・!


『ヒックグラム』――一言で言えば『足場を創生する魔法』。詠唱すれば状況に応じて最適な足場が創生される。今回は私達の落下地点である洋瓦の上に、突如巨大なマットが出現した。厚みのあるそれは落下による衝撃を難なく吸収し、私達は無傷で地上へと降り立つことができたのであった。


「はぁ・・・ヒゥクッ。魔力切れならそう言ってよね。調子に乗って行為詠唱魔法を連発するから・・・」


「・・・」


――ってそうだ。紡ぎ手さんの元へ戻らないと!


「私・・・行かないと」


「どこに」


「さっきの人・・・紡ぎ手さんは不審者じゃなくて私の・・・ヒック。私にとって大切な人なの」


「・・・は?」


しゃっくりで紡ぎ手さんのことを思い出し、話の続きをしようと中庭へ戻ろうとする。しかしディセルによって再び腕を掴まれ、建物内の資料室へと連れ込まれてしまった。その間呼びかけるも反応はナシ。ならばと力ずくで振りほどこうとすると、見たこともないディセルの獰猛な目つきに射貫かれてしまった。


――な、なんでそんなに怒ってるの・・・?


何かはよく分からないけど、その瞳が本気を物語っていて・・・怯えが心を支配し強く歯向かうことができなかった。

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