第十六話『エステラ・ヒカップはインターン中』
第17話
ディセルはアストンさんの属性『雷』を一笑に付し、競うように両の手から電流を流す。
「出たーアストンの威嚇静電気。初対面の頃から本当に変わってないよね」
「お前もなディセル。急に自分をインターンの枠にねじ込めって言ってきた時は驚いたぞ。さては・・・」
――アストンさんまさかの二面性?キャラ全然違うんだけど!あとディセルと知り合い?
情報過多に目を白黒させていた私を、アストンさんの碧眼がじっと見つめてきた。反射的に顔を赤く染めてしまった私を見て、ディセルが乱暴に立ち上がる。
「アストン!余計なこと言うな!」
「アストン
「ヒックちゃんも!コイツの腹の中は真っ黒だから!簡単に絆されたら碌な目に遭わないよ」
「ヒック」
無視をした上で終いにはアストンさんのことをコイツ呼ばわりするディセル。私は何と言えばいいのか分からず、気の抜けたしゃっくりでお茶を濁した。こういう時呪いって便利ね。
それから数日後、私は魔法特務機関の中にある『魔法鑑識部隊』に配属された。ここでの業務内容は主に魔力の分析や、魔獣の調査を行う。デイザスター襲来の件で例えるなら・・・デイザスターを戦闘不能にするのが攻撃魔法に特化した『第一部隊』『第二部隊』『第三部隊』。対して鑑識部隊はデイザスターが魔法を使って荒らした現場の調査や、デイザスターの毛や爪痕、魔力の残滓などを採取するのが仕事となる。
――『解剖部隊』っていう・・・文字通り種族問わず解剖して調査する部隊にもお声がかかったけど・・・アストンさんが止めてくれて助かった。
フラスコの中に溜まった魔力の色、形、大きさを記入してまた次のフラスコを見る。私は今何をしているかというと・・・先日、隣町の宝飾店で発生した強盗事件の調査の補助に回っていた。昨日は現場に行って資料採取のお手伝いをし、今日はひたすら採取した魔力残滓の分類を行っている。
――地味だけど、こういうのは嫌いじゃない。それに・・・。
私は白の立体型マスクに触れそっと微笑む。このマスクは以前、花粉症に苦しんだ鑑識部隊の先輩が独学で開発した魔道具らしい。このマスクをつけている間、咳やくしゃみの音が外部に漏れない効果があるんだそう。しかも使い捨て。
『これをつけていたらエステラさんのしゃっくりが皆の集中を削ぐことはないから!』
何故これが商品化しないのかと疑問に思ったが、マスクをつけてすぐその答えが分かった。
「ヒック大丈夫ですか?私のしゃっくりック、聞こえてませんか?」
「あーごめんエステラさん。このマスクはしゃっくりどころか、装着している人の声ごと遮断しちゃうんだよね」
「!?」
先輩曰く、防音魔法の効果をマスクに付与したという単純な仕組みで・・・(それでも独学でやれるのは超凄い)あくまで実用の範囲で使うものなんだそう。
――詠唱魔法士にとって防音魔法は大敵・・・タブーに近いこの魔法を、まさか仕事の邪魔をしたくないがために利用するとは・・・。
防音魔法は自分の声か周りの声、どちらかを一方的に遮断することしかできない。おまけに膨大な魔力を使う上、発動までに数分の時間を要する。ちなみに公的の場で使用した者には重い罰が下るので、半端な卑怯者でも防音魔法に手を付けることはない。
――しゃっくりだけを防音する魔法を編み出そうとしたご先祖様もいたらしいんだけど・・・結局成し遂げることなくその生涯に幕を閉じたって、ママが言ってたっけ・・・。
「――あれ、もうお昼じゃん。エステラさんお昼休憩行ってきな」
「はぁック!はい!って、声届いてなかったんだった・・・」
私はコクコクと首を縦に振り、会釈して仕事場から出ようとしたその時。
「わっ!」
「!!」
たまたま荷物を運んでいた鑑識部隊の班長とぶつかってしまった。それだけならまだいい。私は――
「うわーーっ!エステラさん!?ごめん大丈夫!?」
――別の任務で押収したとされる違法ポーションを頭からかぶってしまったのだった。
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