第十五話『求めてないんだから!』

第16話

――ま、まぁこれくらいなら別に怒ることでも・・・って違う!


「折角誘ってくれたのにック。ごめんなさい。それでも、こんな私を誘ってくれてありがとう」


「・・・」


呪いは関係なしに、侯爵家の使用人という仕事は非常に魅力的だった。人生で1度は経験してみたい・・・女性にとって憧れの職業だから。


「ま、精々インターン先で泣かないように頑張ったら?」


1人になった空き教室で、残りのサンドイッチを頬張る。私の瞳は――決意という燃料を投下され轟々と燃えていた。


――これでいいんだ。こっちの方がディセルにとってもいいよね。卒業までに必ずアンタを呪ってやるんだから!覚悟しなさいよ!


ディセルを呪うという任務を遂行するのは秋学期が始まってから。私は目標を先延ばしにして、目の前のインターンに集中することになった。




がしかし。


「な・・・」


目を大きく見開き、唇をワナワナと震わせる。憎き相手を前に、指を突きつけたいという想いを拳を握って抑えた。


「何でアンタがいるの!?」


「えー?」


驚くのも無理はない。インターンに呪いの標的もといディセルがいたのだ。彼は口角を吊り上げてニヤニヤ笑う。思わずキスよりも先に1発殴りたい衝動に駆られた。


「ほら僕って自惚れ無しで超優秀じゃん?その気になれば特務機関のインターン程度、いつでも行けるよ」


「・・・」


彼の鼻をここまで伸ばしてしまった罪は重い。学園の生徒たちを敵に回しかねない発言も、彼が言えば当然の評価となる。現に参加者である高等部生の方たちはディセルのことを『学園きっての天才』と憧憬の目でもてはやしていた。


「それに2番目の兄がここの第一部隊だし」


――コネ参加かよ!いや、コネクションも運のうちか・・・。


頬を叩いて気持ちを切り替える――が、担当の職員さんを見た瞬間別のスイッチが入った。


「メタトロン魔法学園の皆さん、初めましての方は初めまして。今回のインターンを担当します。魔法特務機関第一部隊所属のアストン・ウォリックです」


――あの時のイケメンさんだーー!


担当者・・・アストンさんは私がデイザスターを倒した時、真っ先に話しかけてくれたあの人だった。


――凄い!運命みたい!副隊長とか・・・偉い階級の人とかじゃなくて良かった!だからこそアストンさんは今ここに立っているもの!


『大丈夫!?怪我はないか?』


彼との邂逅シーンを思い出し、脳内の私が俄かに色めき立つ。2、3倍美化されている気がしなくもないが、私の心はお構いなしに高鳴っていた。


――アストンさん・・・やっぱりイケメン!爽やかな見た目に生き生きとした目・・・人好きするオーラに私以外の女子も釘付けになってるわ!


「えー今回、中等部よりエステラ・ヒカップさんとディセル・ヴァーサタイル君が参加します。2人共13歳という若さで素晴らしい潜在能力を秘めている。勿論この2人だけじゃない。インターン中、推薦者の君達は魔法特務機関の詠唱魔法士として扱われる。期間中、危険な任務に参加することもあるかもしれない。だがそこでこそ、各々の実力を見ていきたいと考えている。当然、私達も君達が存分にその力を発揮できるよう努めるのでどうぞよろしく」


極力しゃっくりを抑えてアストンさんの話を聞き、彼が会釈したタイミングで控えめに拍手を送る。


「・・・」


私は目の前のアストンさんに夢中で全く気づかなかった。隣に座るディセルが今にも舌打ちしそうな顔つきで私を睨んでいたことを。


「僕達みたいな子供のお世話役を任されるなんて・・・アストンも大変だね」


「!?」


――ちょっ!?何てこと言うのこの青二才!


「そうでもないぞ?俺は子供が好きだからな。特に・・・減らず口を叩く生意気な餓鬼が最高に好みだ。その舐めきった顔を絶望に塗り替えていくのが堪らない」


アストンさんは途中で声色を変え、瞳孔を開いた。同時に彼の手から『バチバチッ・・・』と電流が流れる。


――あ、あれ?ちょい熱血系爽やかイケメンは・・・?

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