第十四話『エステラ・ヒカップは決意する』

第15話

昼休み。私はランチボックスを持ってぼっちプレイスへと歩いていた。私には友達がいない。移動教室も昼休みも基本1人だ。


――この呪いが解けたら、私もあんな風に・・・。


テラス席で昼食を食べている女子生徒グループを遠くからこっそりと眺め、小さくしゃっくりをする。私は彼女達に気づかれる前に、速足で旧校舎の空き教室へと避難した。お昼ご飯を食べている間ずっと、インターンの推薦について考えていた。


――先生、私に推薦状を渡してくれた時、『何でお前が・・・』って顔してたな・・・当然か。


近所に住む人や授賞式で私の顔を見た人は、平たく言えばめっちゃ感謝して褒めてくれた。でもそれは彼らが私エステラ・ヒカップのことを『よくしゃっくりをするメタトロン魔法学園に通う生徒』程度の情報しか持っていないからだ。悪く言えばその人たちは私のことを深く知らない。だからこそ・・・『魔法学園の落ちこぼれ』という生徒及び先生の評価が私の心に深く突き刺さった。


未知の魔獣を倒したんだ。正直・・・もっと周りがチヤホヤしてくれるもんだと思っていた。一躍クラスの人気者になれる・・・?と思いあがっていた。


――これも全部、魔法特務機関の職員さん達に褒めちぎられた所為だ。


という思考を首を振って打ち消す。責任転換も甚だしい。恥を知りなさいエステラ!


優秀な詠唱魔法士が集う魔法特務機関。ここの門はメタトロン魔法学園以上に狭い。インターンだって本来なら高等部の成績優秀者しか行けないはずだ。


――断るなんて、有り得ない・・・。


13歳でインターンの推薦状がもらえるなんて・・・またとない機会だ。ひょっとしたら前代未聞かもしれない。大きな期待がかかっているというプレッシャーは感じるけど・・・それでも、私にとって良い経験になるのは間違いない。しかしインターンを選ぶと、夏季休暇中はディセルに会えない。


――頑張れば会えるかもしれないけど・・・駄目ね。誘い方が分からないわ。


呪いをうつして人生を変えるか、研鑽を積んで他の生徒より1歩先を行くか。どちらも魅力的で、究極の選択。でも――後者の誘いは、夏季休暇中にしか出来ないことだ。


――私、本当にインターンに行ってもいいのかな・・・。


不安は残る。きっと、いや絶対。インターン開始日が近づくにつれ後ろ向きな気持ちは肥大していくだろう。まぁそれは魔法学園に入学する前も同じだったけど。


「どうしよう・・・ンクッ」


「何が?」


「ヒェクッ!」


感情がしゃっくりと共に零れると、それに答える誰かの声が真後ろから聞こえた。怖々とした態度で振り返ると、ディセルが腕を組んで仁王立ちしていた。


「もー探したんだけど。ヒックちゃんって本当に1人になるのがお上手だね」


「ヒック」


「聞いたよ。ヒックちゃん魔法特務機関から、インターンの推薦状貰ったんだって?」


「え!?」


――もう噂が流れているの!?


予想より情報の流れが速く、素で驚いてしまった。これじゃあ・・・。


「夏季休暇中にインターン行くなら、ヴァーサタイル家の使用人として働けないね」


ディセルがしかめっ面のまま近くから椅子を引っ張ってきて、私の近くに座った。居座らないでという想いは一旦置いといて、私は昼食用に持ってきたサンドイッチを食べる手を止める。


――そうね・・・答えは最初から決まってた。


「ごめんなさい・・・ック。私、インターンに行く」


悪態を吐かれるのが怖くて、俯いたままディセルの誘いを蹴る。すると私より一回り大きな手が、食べていない方のサンドイッチを掴んだ。


「・・・勝手にすれば」


――勝手にされた・・・食べられた・・・。


顔を上げると、ディセルは眉間に縦シワを刻んだまま私のお昼ご飯を食べていた。泥棒に対して湧き出てきた怒りは、彼の「えっ美味っ。これヒックちゃんの手作り?普通に美味しくてビックリした」という言葉で霧散した。

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