第十二話『ようやく始まる私の任務』
第13話
次の日。私は登校してすぐディセルによって校舎裏へと連行された。
「――で?使用人の話、受けてくれる気になった?」
「その話なんですけど・・・」
私は息を大きく吸って高鳴る胸を沈めた。
――大丈夫。しゃっくりは出てない。このまま勢いで・・・!
「私でよければ、よろしくお願いいたします」
「やっぱり猶予なんて与えず、そのまま僕の家に連れて行って雇用契約書にサインさせれば・・・え?」
ディセルは私の言葉が信じられなかったのか、呆けた表情を浮かべる。なんて隙だらけなの?キスしてやろうかしら。
「いいの?」
「はい」
「本当に?」
「だから、さっきからそう言ってるじゃないですか」
「・・・!よっし!」
年相応にはしゃぎだすディセルを見て、少々面食らったのは内緒だ。
――凄い喜んでる・・・そんなに私をからかって遊びたかったの?でもいいわ。受けて立つ!
「ヴァーサタイル家の見習い使用人としてよろしくお願いいたします。ディセル様」
――精々その唇を洗って待っていなさい!
勝気な悪役のキャラを脳内に思い浮かべて微笑むと、ディセルはさっと目を逸らした。
「・・・ディセルでいいよ」
「えっ。でも、働くなら尚更」「命令だけど?ヴァーサタイル家の四男として命ずる。ヒックちゃんは僕と話すとき敬称と敬語使っちゃダメ」
「ええっ!」
――なんですって!
先程のキャラはどこへやら。私は狼狽し視線を彷徨わせた。確かに心の中では砕けた口調で酷い言葉を叫びまくっているけど・・・侯爵家の優等生を前に豪胆な態度が取れる訳がない。
「いや流石にそれは」「侯爵家っていっても僕四男だし。爵位継承権ないし。同い年なんだから別によくない?」
――まぁそれは私もちょっとだけ思ってた・・・って違う!
慌てて絆されかけた心を引き戻して口を開く。
「お互いが理解しても、周りがどう思うかが重要であって」「確かに僕は超天才な詠唱魔法士だから、皆が畏怖する気持ちも分かるけど・・・というかこの学園にいる全ての魔法士が僕に畏敬の念を持って然るべきだけど・・・僕だって同じメタトロン魔法帝国の民だし」
――お願いだから喋らせて!
押し問答の末、結局私が折れる羽目になった。満足気な顔で破顔するディセルに苛立ちが募るけど・・・これも
「じゃあ改めて・・・これからよろしくね。ディセル」
「!う、うん。こちらこそ・・・」
調子狂う。とぼやくディセルを置いて先に教室へと戻る。相変わらずしゃっくりの授業妨害で皆を困らせるし、魔法も満足に使えない。それでも――私の精神はこれ以上ないほど強く高揚していた。
――これも全部、紡ぎ手さんのお陰。
私は1人でお昼ご飯を食べながら、昨日の出来事を振り返った。
この忌まわしき呪いの所為で、生きるのが辛いと感じたことは何百回もある。酷い時期はしゃっくりをする度、この世から消えてしまいたいと思っていた。不幸の元となる根源を絶つことが叶うのなら、私は――
「お願いします。どんな方法でも構いません。私は・・・ッ。私だって・・・」
『エステラ・ヒカップ?エステラ・ヒックの間違いでしょ!縮めてヒックだね』
『先生!私ヒックさんとペア組みたくないです!評価下がっちゃう』
『ヒカップさん。申し訳ないんだけど・・・しゃっくりが止まるまで保健室に行ってくれる?』
脳内に映っているのは・・・実際に私が体験した過去の記憶だった。胸から何かが込み上げてくるのを感じ、拳を握りしめる。
「ンクッ、普通の詠唱魔法士にッ、なりたいんです・・・!」
――目に涙を溜め、一も二もなく頷いた。
「ヒカップさんの願い、しかとこの耳に届きました。この世界にただ1つ存在する『ヒカップ家の呪いを解く方法』は――この本に全て書いてあります」
紡ぎ手さんは1冊の本をテーブルの上に置き、カップを持って立ち上がる。
「それでは僕はこれで。カップはここに置けばいいですか?」
――なんて礼儀正しいの!?
「あっわざわヒュクッ・・・すみません」
「お茶ご馳走様でした」
――素敵!!
「あっ、あの、こちらこそ本当に・・・!」
「お礼なんていいですよ。この国の歴史が動く時にまたお会いしましょう」
「あヒクッ、ありがとうございました!」
深々と頭を下げ、顔を上げた頃には――紡ぎ手さんの姿はいなくなっていた。どこか夢見心地の頭で本の前に座り、ゆっくりと開く。絵本のように薄いページ数には、しっかりと呪いの解呪方法について書かれていた。
「ヒック!」
簡潔な1文を読んだ瞬間、驚きのしゃっくりが出た。わなわなと震え、口が開いたまま戻らない。こんな、こんな・・・!
「嘘でしょう・・・!?」
――呪いを解く方法が『人にうつすこと』なんて詐欺じゃない・・・!
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