第十一話『エステラ・ヒカップと紡ぎ手さん』
第12話
「すみません。突然現れてビックリしましたよね」
「ヒック」
「デイザスターを倒してから数日が経過したので、そろそろヒカップさんの周りも落ち着いただろうと踏んで会いに来たんですが・・・お疲れならまた後日にしましょうか?」
――や、優しい!何て紳士なの!?
「いっいえ!ンクッ、あ、あ、狭い部屋ですが、よければ上がっていってください。お気に入りのハーブティック!ハーブティーがあるんです」
「確かに。話の内容が内容なので・・・ですがお構いなく」
この時ほど綺麗好きで良かったと思ったことはない。掃除魔法の成功率低めだからね。
――どうしようどうしようママ私の家にイケメンで年上の男性が!!
震える手でハーブティーを淹れ、対面にちょこんと座る。サラツヤの黒髪、ティーカップを持つ繊細な指、上下する喉仏、ミステリアスな仮面・・・どのパーツを取っても、紡ぎ手さんには見る人を引き付けるような不思議な魅力があるように思えた。
「美味しいです。ヒカップさんはまだお若いのに給仕がお上手ですね」
「ンクッ。あ、いえ・・・魔法が使えない分、自分でやれることは自分でやってるだけです」
照れを隠すように俯き、私も昨日摘んだばかりのハーブで作ったお茶を飲む。うん美味しい。
「か、仮面はック、外さないんですか?」
「あっ私・・・僕としたことが。そういえばそうですね。」
言ってから直球すぎたかと後悔するも、紡ぎ手さんは忘れてたと言わんばかりの調子で仮面を外した。
「ヒ、ッ」
――キャアアアアアアーー!イケメンーーーー!何かキラキラした背景と効果音が見える!聞こえる!
これまたこの国では少ない茶色の瞳はばっちりと開いていて・・・更に男性的魅力が増した紡ぎ手さんは柔和な笑みを浮かべた。
「当分デイザスター級の魔獣はこの国に現れないので、どうかご安心を。ですが慢心は禁物です。これを機に魔法特務機関は無属性魔法の重要性を今一度顧みた方がいい」
「ヒック」
「願い事は決まりましたか?一応わ・・・僕もヒカップさんが今望んでそうなことをいくつか考えてきたんです」
――そうだ!そういえばそんな話してた!
「そうですね・・・あ、別に無理して一人称を変えなくてもだいじょクッ!大丈夫ですよ?」
「え・・・」
強制的にイケメンから本題に頭を切り替えるが――紡ぎ手さんの照れた顔をまともに見てしまい、危うく鼻血としゃっくりが出るところだった。
「バレましたか。普段の一人称は『私』なんですが・・・『僕』と言った方が、少しでもヒカップさんに男として見られるかなと」
「ヒック」
――そんなこと言われたら勘違いしちゃう!ただえさえイケメン男子の耐性が激低いのに!
咄嗟に鼻を抑える。しゃっくりは出てもいいから鼻血だけは!イケメンの前で鼻血なんて出したら間違いなく変態痴女扱いよエステラ!
「話がずれてしまいましたね。今後の未来を加味した結果、個人的にお勧めしたい願い事があるんですけど・・・ヒカップさんの方で、何か叶えたいことはありますか?」
「ええと・・・」
時計の秒針と合わせてしゃっくりが出る。私は顎に手を当て、ディセルの会話を思い出していた。
――もしも夏季休暇中、ヴァーサタイル家の使用人として働けるのなら・・・当分お小遣いには困らない。いや。やっぱりここは諸悪の根源を・・・。
「紡ぎ手さん」
「はい」
「もし私がヒック!家の呪いを解いて欲しい言ったら・・・?」
「ヒカップさんなら、そう言うに違いないと思っていましたよ。私が貴女でも真っ先にそう願う」
紡ぎ手さんはハーブティーを飲み干し、真っ直ぐに私を見つめた。
「この世界の『紡ぎ手』である私なら可能です。対価は・・・『ヒカップ家の呪いを解く方法』で如何でしょうか」
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