第七話『私って凄くない!?』
第8話
「ありがとうございます。貴女のお陰でこの国の平和は保たれました」
「ぇ・・・ヒック!」
そっと抱きしめられ、あやすように背中を叩かれる。その手は暖かくて・・・また泣きそうになってしまった。
「お疲れ様です。本当によく頑張ってくれました」
「あ・・・でも、私・・・」
「・・・ヒカップさんが大変なのはここからだと思いますけど」
「え?」
紡ぎ手さんがそう言い終えると同時に温もりが離れ――『誰かいるぞ!』『こちら第一部隊、現場に到着!』など複数人の声が聞こえた。
――あの隊服は・・・魔法特務機関の・・・。
呆けた目で空を飛ぶ魔法特務機関の人達を見つめていると、その内の1人が私の元へ降り立った。
「大丈夫!?怪我はないか!?」
「・・・!」
――こっこの人もイケメン・・・じゃなくて!
イケメンは信じられない。といった表情でデイザスターと私を交互に見る。
「この魔物は一体・・・まさか君が倒したのか?」
「ヒック、私だけじゃなくてもう1人――」
『の詠唱魔法士に協力したんです』という言葉が最後まで発せず、私は口をワナワナと震わせる。
――あれ!?紡ぎ手さんは!?
「もう1人?誰かを保護したという報告は上がっていないが・・・君以外にも誰かいたのか?」
辺りを見渡しても、さっきまですぐ傍にいたはずの紡ぎ手さんは――私が目を離した隙に姿を消していた。
「・・・あ」
――そういえばさっき『訳あって目立った行動は出来ない』って・・・。
私は紡ぎ手さんとの会話を思い出し、咄嗟に首を振った。
「いえ、っ。この魔物は、私が無属性魔法で倒しました。ンクッ・・・メタトロン魔法学園中等部1年――エステラ・ヒカップと申します」
この後、私は魔法特務機関の人から質問責めに合った。『山に薬草取りに行ったら、魔法陣から謎の魔物が出現したので倒した』と隠すべきところは隠して話すと、一旦納得してもらえた。
私が倒した魔物の正体は、紡ぎ手さんから聞いた内容とほぼ同じだった。死骸を調査した人達が興奮した様子で私を褒めてくれた光景は――多分一生忘れられない。
「あの魔物を一撃で!?信じられない!なんて才能だ!」
「君のような逸材が魔法学園にいたなんて知らなかったよ!」
「無属性魔法の申し子か・・・!?是非改めて君の実力を測りたい!」
「い、いえ。私はそんな・・・」
――もしかして私。その気になれば実力でディセルを超えることも夢じゃないんじゃない・・・!?
そう自負したのも束の間、連絡を受けた担任教師と両親に泣く程叱られることになるのだが――今の私は知る由もなかった。
紡ぎ手さんの約束通り、私はデイザスターを討伐した責任を全て担った。その結果、
「――エステラ・ヒカップ」
「はヒクッ!」
衆目の前で早速やってしまい、私は顔から火が出る思いで檀上に立った。
「こんにちは」
「は、はいっ!こんヒュクッ!」
――死にたい。
周りからクスクスと笑う声が聞こえ、今すぐこの場から逃亡したい衝動に駆られた。そして穴に埋まって召されたい。
「・・・危ない目に合うなと、君を想う両親や友人に怒られたかい?」
「ぇ・・・あ、んクッ。は、はい」
「だろうね。君が挑んだ魔物は、この僕でも五体満足で倒せるか危うい。そのくらい未知数で、危険な存在だったんだ」
すぐ賞状を渡されるものかと思いきや、魔法特務長は目を柔和に細めて私に雑談を振ってきた。
「君のような才覚と勇敢さに溢れた少女が他にいるだろうか。この結果に胸を張りなさい。本当によくやってくれた」
無礼を承知で、首を縦に降るだけに留めた。私が局長から賞状を受け取るシーンを逃すまいと、全方位から魔法映写機のフラッシュが炊かれる。ガチガチに緊張したまま席に戻り、しゃっくりを飲み込む作業に集中した。
――私、局長さんに褒められちゃった・・・。私がデイザスターを倒して・・・この私が・・・私って、凄い人間。なのかな・・・。
「・・・ヒックちゃんって本当に、僕が何もしなくても1人になっていくよね」
この時の私は気づかなかった。羨望と憧憬の眼差しの中に、嫉妬と疑念の感情が渦巻いていることを。
「ま、僕にとってはもの凄く都合いいけど」
「・・・ヒカップさんありがとう。また約束の願いごと、聞きにいくから」
それぞれ別の場所で私の様子を陰から見守っていた2人に気づくのは――もう少し先の話。
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