第五話『こんな私に出来ることなんてありません』
第6話
脳内でママに合掌し、今後の立ち振る舞いをあれこれ考えている間――王子様系イケメン(故)の姿が消えていた。
「え?さっきまでそこにいた人は・・・ック」
「転移魔法で送りました。貴女は――エステラ・ヒカップさんですか?」
「はいっ!あ、えっ。何で私の名前・・・ンクッ」
「驚かせてしまいましたよね。僕は『紡ぎ手』と呼ばれている者です。貴女の――ヒカップ家の力を借りに来ました」
――紡ぎ手・・・?私の力?
「ヒクッ・・・すみません。私生まれつきしゃっくりが止まらなくて」
すぐに口を押えると、右手に大きな髑髏がついた傘を持ったイケメンもとい紡ぎ手さんがやんわりと制した。
「大丈夫ですよ。『ヒカップ家の呪い』を承知の上で、貴女に協力してもらいたいことがあるんです。危険な目には合わせませんし、報酬も弾みます。話だけでも・・・聞いていただくことは可能でしょうか」
明らかに年下の私を前に、ここまで丁寧な物言いする人は初めてだった。それにこの呪いを知った上で私に頼みごとをしてくるなんて・・・どう考えても怪しい。
――怪しいけど・・・悪い人じゃなさそう。仮面のデザインが少し悪趣味ではあるけど。
そして現金な私は、恥を忍んでお金に関する質問をした。
「ほ、報酬は・・・如何ほどでしょうか」
「大体何でも。ヒカップさんのお願い事を1つだけ叶えます。貴女が必要な分だけではありますが・・・それだけのお金を用意することもできますし、貴女が困っている事情の解決を図ることも可能です」
――オーマイガー。紡ぎ手さん太っ腹・・・というか何者!?
「協力してもらいたいことって・・・?」
「ある魔物の討伐です。近い未来、この国を強大な魔物が襲います。僕はその、『綴られるであろう歴史』を
「ヒック」
しゃっくりで声が出そうになるのを抑えつつ、紡ぎ手さんの話を聞く。つまり・・・どういうこと?
「この近くで封印されていた魔物が近日復活予定なので、事前に阻止しておきたいんです。僕と、貴女の2人で」
「ヒック・・・はあ。でも、どクッ、どうして私の力が?見ての通りッ。まともに魔法が使えたためしがンクッ。ないんです」
――他の人・・・それこそディセルや、魔法特務機関の人達に協力を仰いだ方がいいと思うけど・・・。
「それでも・・・この国を最も安全に救えるのは、ヒカップさんしかいないんです」
紡ぎ手さんは私の疑問を全て分かっているかのように微笑んだ。
「魔物・・・後に『デイザスター』と呼ばれる生物は、この国で言う5つの属性魔法及び物理攻撃が効きません」
「はぁ!?」
――何その魔物!ディセル並みにチートじゃん!
「よってデイザスターを倒すには無属性魔法を使うしかなく・・・どうやらこの国では無属性魔法より、属性魔法が重視される傾向にあるようですね」
「確かに。ック。無属性魔法使いで有名な人は聞いたことなクッ。かも・・・皆使える魔法ですし」
紡ぎ手さんはここに来てすぐ、魔法特務機関に所属する人達の魔力及び属性について調べたらしい。
魔法特務機関とは、詠唱魔法のスペシャリストが集まる機関のこと。そこの職員になるだけでこの国の秩序を支える重要人物の一員となり、憧れの存在として憧憬の目で見られることになる。メタトロン魔法学校の生徒は皆、魔法特務機関への就職を夢見てる・・・私含めてね。
「正直、魔法特務機関の全部隊が立ち向かっても・・・デイザスターに勝つことは難しい。そのくらい、無属性魔法での戦闘を得意とする人間がこの国にはいません」
「そんな・・・」
――嘘でしょ?
恐怖に身震いする私を見て、紡ぎ手さんは励ますように明るい声で言う。
「ですが、メタトロン魔法帝国には貴女がいます。僕がデイザスターを瀕死まで追い込むので・・・貴女が無属性魔法でとどめを刺してください」
確かに、私は自身の属性である『水』より無属性魔法の方が得意だ。ヒカップ家の殆どがそうであったようで・・・実家の書斎には無属性魔法に関する本が大量にあった。ディセルから逃げるために使用した転移魔法も、去年独学で取得したものだ。
「ヒック。貴方が強い詠唱魔法士であることは見れば分かります。なのにどうして私なんかを・・・」
「僕は・・・訳あって目立つ行いが出来ません。なので言い方がアレなんですけど・・・身代わりが必要なんです。デイザスターを倒せるほどの魔力量を秘めた、優秀な詠唱魔法士の存在が」
紡ぎ手さんは言葉を切り、棒立ちしている私の前に跪いた。
「貴女の魔法――無属性の力が必須なんです。ヒカップさんの力を見込んで頼みがあります。どうか私・・・僕に協力してくれないでしょうか」
――でも、私は呪い持ちで、当たり前だけど戦闘経験なんて皆無で・・・。
「ヒカップさんにしか、できないことなんです・・・お願いします」
紡ぎ手さんは仮面越しに私の目を見て、芯のある声で懇願する。ここまで真剣な姿勢で協力を要請されたことがなかった私は――
「・・・分かりました。私で力になれるのなら・・・協力します」
――ついお手伝い感覚で頷いてしまったのだった。
この選択が、私の物語に大きな転機を生むことになるとも知らずに。
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