第三話『一服盛られた!?』
第4話
「え・・・」
――好きな人?そんなの・・・。
ディセルの言葉を反芻し、私は――しゃっくりが出るのも構わず、震える口を開いた。
「いません。こんな・・・ヒック!友達もできない。クラスの皆から嫌われてる、私なんて・・・」
――ここにいるだけで、私の存在意義を見失いかけているっていうのに。
「え?でも僕を見ると胸が締めつけられたり、脈が早くなったりしない?」
何そのおぞましい状態異常。
私は不敬を承知で、ディセルに白けた態度を取った。
「しません。確かにさっきック。ディセル様から貰ったチョコレートの所為で変な気分になりましたが・・・んクッ。私に状態異常は効きません」
「はぁ!?」
ディセルが驚くのにも無理はない。この呪いの唯一の利点。それは『状態異常の上書き』。私には既に『ヒカップ家の呪い』という状態異常が付与されているので、毒や催眠といった状態異常は呪いによって即座に上書きされてしまう。ちなみに、2種類の状態異常が並行して発動することはない。どんなに強大な力を持つ詠唱魔法士だって、呪いを上回る状態異常の魔法をかけることは叶わなかった。
――ご先祖様の手記を読んだときは軽く絶望したっけ・・・。折角あの時は『しゃっくりが出ない催眠をかけてもらえばいいじゃん!』って思ってたのに・・・。
ディセルにも詳細を説明すると、彼の表情が悔し気に歪んだ。
「・・・なーんだ。試しに作ってみた惚れ薬入りのチョコレート。どのくらいの効き目があるのかヒックちゃんで実験しようと思ってたのに・・・あーあ1個無駄にした」
「はぁ!?」
今度は私が驚く番だった。なんてことしようとしてたんだこの野郎!
「知りませんよそんなの・・・さようなら」
――なら、さっきの謝罪も全部嘘だったんだ・・・。
「待って。まだ話は」「
少しでも絆された自分に嫌気が差す。私は涙ながらに転移魔法を発動し、力技で彼から逃げた。
「転移魔法とか・・・13歳が使える魔法じゃなくない?」
ディセル・ヴァーサタイルはついさっきまでエステラがいた場所に触れる。『数十年来の天才』『中等部に現れし金の卵』――そう呼ばれ周りからもてはやされているディセルでさえも、転移魔法は気軽に扱える代物ではなかった。
この世界には5つの属性魔法と3つの無属性魔法が存在する。
属性魔法は『火』、『水』、『草』、『風』、『雷』の5種類。メタトロン魔法帝国民は1人につき1つないし複数の属性魔法を使うことが出来る。そんな中、ディセルは5種類全ての属性魔法の使い手であった。これと同じ才能を持つ者は彼を覗いて2人しかいない。
そして無属性魔法は――『無』、『闇』、『光』の3種類。これらが属する魔法は誰にでも使用可能であり、治癒や空間転移、精神干渉など――物理的でない魔法が殆どである。おまけに使用時に甚大な魔力量を消費するので、無属性魔法に特化した詠唱魔法士は現状、この国には存在していない。
――ヒックちゃんの魔力量は呪いのお陰で平均以下・・・だからこそ、有象無象から見下されてるっていうのもあるけど。
「まさかね・・・」
ディセルは頭の片隅に出た疑問を払い、颯爽とその場を後にした。
「はぁ・・・ヒック!」
近所の裏手にある山の中。私は赤くなった目元を擦り、薬草探しに没頭していた。探知魔法を使えば楽に採取できるのだけど・・・他の方達のように詠唱魔法に頼りきりというわけにはいかず、こうやって地道に目を凝らしているというわけだ。
――あ・・・あった。
交換すればお金に変わる薬草を見つけ、今日初めて笑うことができた。呪いを解くために使う資金は全部自分で賄っている。
――パパもママも・・・私の為に高い学費を払って、一人暮らし用に仕送りまでしてくれてる。それにもうすぐ夏季休暇だし・・・もうちょっと頑張れば、ディセル含め嫌な人達とも顔を合わせずに済む。
そう自分に言い聞かせ、慣れた足取りで更に奥へと進む。すると――通り道に細身の男性が横たわっていた。
――え?え?寝てる?いや倒れてる?
「え?ヒック。あの、もしもし・・・?」
恐る恐る近づき、顔色を窺う。そしてあまりの衝撃にしゃっくりが出た。
――こ、この人・・・!
「っイケメン!!!ヒック!」
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