第一話『しゃっくりが止まらない』

第2話

『ヒカップ家の呪い』――それは、先祖代々継承される一種の身体的障害。


私が住まう国――『メタトロン魔法帝国』では、全国民が詠唱魔法を用いて生活しております。これは呼吸と同じくらい当たり前の感覚で、私達は魔法がないと生きていくことが出来ません。


「ヒクッ・・・ヒック」


そう。この国の主流は『詠唱魔法』。近年から魔法陣や魔道具を使用した『次世代魔法』についての研究が進んでいると小耳に挟むことがありますが・・・まだまだこの国は詠唱魔法から抜け出せそうにありません。


再三申し上げますが、この国では魔法を使うのに詠唱は必須。それなのに・・・この忌まわしき呪いが私の存在理由を潰している。


「ヒック・・・うえぇ・・・っ、ヒック!」


私エステラ・ヒカップは、しゃっくりをしながら号泣するという器用なことをしていた。


――皆皆皆・・・酷いよ・・・!


建物の陰に隠れ、時々えずきながら涙を流す。泣いても泣いても・・・頭の中にこびりついた映像は消えなかった。


『ヒック嬢が魔法使うぞ!皆離れろ!』


『おいヒック女と選択授業同じかよー最悪』『それな。マジ授業妨害』


「んっく、っふ、うううぅぁぁぁ・・・」


ここは帝国一秀才が集うといわれる超難関校『メタトロン魔法学園』。私はそこにやっとの思いで合格し、憧れのエリート詠唱魔法士ライフを・・・憧れに見たのは3か月前の話だった。


「もう嫌っヒック。学校・・・行きたくないな・・・」


中等部1年生となり早3か月。私は自身の呪いを解くため、この国でトップクラスの才覚者達が集う貴校に入学した。それなのに・・・当初の目的を果たす前に、私の心は今日の実践授業で倒したイグドラの樹(修復済み)のように――ベッキベキに折れていた。


「ぐすっ・・・はぁ。ヒック」


この国には勿論、しゃっくりという概念は存在する。しかし、民間魔法を使えばすぐに治ってしまう扱いだった。私の場合はそうはいかず・・・魔法も薬もおばあちゃんの知恵袋も異国の民間療法も、試せるものは片っ端から試したが効かなかった。


――トイレで顔洗ってこよ・・・。


ようやく一息つき、私はゆっくりと立ち上がった。誰ともすれ違わないように注意してトイレに向かう。学園内での魔法の使用は許可されているので、隠密魔法を使えば楽ではある。


――またしゃっくりで詠唱失敗すると怖いし・・・ゆっくり行こう。


今日の実践授業は『イグドラの樹の苗』を、魔法を使用して大木に成長させるといった内容だった。クラスメイトが次々と育て上げていく中――私が放った詠唱魔法が失敗したことによって、既に成長を遂げた大木が全てドミノのように倒れてしまった。当然授業は中断となり、非難の目が私に集中。放課後まで針の筵だった。


「はぁ・・・」


その時の様子がフラッシュバックし、再び目に涙が溜まる。この呪いも、肝心なところで失敗してしまう私自身にも嫌気がさしていたそんな時。


「――ヒックちゃん見ーっけ」


「ひ・・・」


咄嗟にしゃっくりを飲み込む。反動で肩が跳ね、私はその場で硬直した。顔を見なくても分かる。この声は――


「またこんなとこで泣いてるの」


「・・・っ」


――私に『ヒック』とあだ名を全生徒に周知させた張本人・・・同じクラスのディセル・ヴァーサタイルだった。

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