第四十話『Xデー』

第41話

――よし。


最後の設問の見直しが完了し、私は顔を上げた。解答用紙が回収されるまであと7分。この試験が終わるということは、中間考査の終わりを意味する。


今日はテスト最終日。私の目の前にあるのは、最後の科目である古文のテスト用紙だった。解答は全て埋めている。


――これが終わったら、空井君に告白・・・でも、まだ空井君が沼山先輩のこと好きだったら・・・いぃや!気持ちだけでもはっきり伝えた方が・・・でも一方的だって思われたら。やっぱもう少し時間置いた方がいいのかな。


「まっさー。テスト終わったよ。回収して」


文字通り頭を抱えていると、前の席の子に注意される。


「はっ!」


――ヤバい!私が集めなきゃじゃん!


急いでテスト用紙を回収すると、かんちゃんに大丈夫そ?と煽られた。


「全然だいじょばない」私の恋が。




数日後、無事空井君の方もテストが終わり、ついに空井君と会う日がやって来た。


「あれ。昨日じゃなかったんだっけ」


「昨日は塾があったから」


「なら今日ついに・・・するのか?」


「あ・・・うぅ」


「がんば」


「ううぅ」


「駄目だコイツ。喃語しか喋れてねぇ」


「赤ちゃんになったら告」「アーーッ!!」「・・・できないよ」


「やめろ香音!紫水は今不安定なんだよ。その言葉は禁句だ」


「・・・告」「アーーッ!」「confession」「イ゛ィーーッ!」「月が綺麗」「やめでぇぇぇ」


「うるせぇ!」


「ごめん。実は、1個懸念してることがあって」


これなんだけど。と、私は2人に『今日の運勢』を見せる。


「えー『政川紫水 さんの本日の運勢は X です』いや、バツかこれ?」


「X!?」


珍しくかんちゃんが大きな声を上げる。その言葉に反応したのか、クラスメイトが数人寄って来た。


「アルファベットのほうで合ってるよ。まぁ意味は・・・バツでも正しいかな」


「何だXって」


「え!?まっさー今日Xなの!?ヤバ近寄んないで」


「草」


「皆の反応から分かる通り、『sou』の中でXは運勢最悪を表すものなんだよねー」


「最下位。大大凶」


「全部のカードが逆位置になったようなものか。だから今日、紫水は輪をかけてトラブルに見舞われてたんだな」


皆は端末を見てすぐ、虫けらを見る目をして去っていった。皆酷い。


「今日私の運勢も悪いんだけど。諸悪の根源がここにいたんだね」


かんちゃんは弁当包みを細長くなるよう折り、両端を持った。


「香音。ランチクロスは人の首を絞めるために作られてねーぞ」


「もう十分散々な目にあったし、言ってもいいかなーって!」


「根元を絶たなきゃ・・・私もXになる」


「ままま待って待って落ち着いて千ちゃんヘルプ!」


「Xデーだから、はぎゃ男にアレするのもやめるのか?」


「んん。それなんだよね」


「はぎゃー君に関することは占えないんじゃなかったっけ」


香音ちゃんは今度こそ、弁当包みの上に弁用箱を置いて結ぶ。


『sou』の中で私はまだ『将来結婚する相手』との出会いを果たしていない。だから、『告白占い』の結果は『まだその時ではありません』のままだ。


「でも、紫水については占えるんだ。今日の紫水が超不幸体質なのは間違いない。その不幸が、アレにどの程度影響を及ぼすのかは分かんねーけど」


「なんでよりによって今日なんだろう」


大きなため息が零れた。このまま逃げてしまえたら楽なのに。と考える自分がいる。


「この前の決意はどうした。久々だわあんな驚いたの」


「そうだよ。自分で決めて、動くんでしょ。この台本ホンの主人公のように」


そう言って風蘭ちゃんは演劇部の台本を置いた。タイトルは『ダイスキースロー~60cm差の貴方とあみてゃ~』


「紫水の告白より強いの持ってくんな!興味が薄れるだろうが!」


「あははははっ!」


――2人はいつも私のことを気にかけてくれてる。優しいな・・・。


「千ちゃん、かんちゃん。ありがとう。頑張ってみるよ」


「フラれても学校は来いよ」


「目が腫れて一重になるのは気にしないけど、泣くなら家で泣いてね。」


「私の感謝を返して!あと片方はポジティブ側についてほしかったな!」


――前言撤回。2人はいつも自分のことしか考えてない!薄情だな!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る