第三十八話『占いの存在意義』
第39話
小さな空き缶に私の涙が落ちる。空井君の苦しみはあまり共感できるものじゃない。仕方がないと割り切るのが普通だ。私も前までは沼山先輩と同じ考えだった。
「言いえて妙だな。つかこんなボコボコになってたのか。気づかなかった」
空井君は2人分の空き缶を回収してリサイクルBOXに捨てる。
――何で、悲しいんだろう。私の恋もそうなるかもしれないって思ってるから・・・?
「だから、『占い』が嫌になったの?」
「それが9割くらいだな。とどめがちゃんと別に用意されてた」
――空井!
――庄本・・・。
「え!あの後庄本君来たの?」
私は濡れた目をハンカチで拭いた。戻って来た彼は畳の上に寝ころび、そのまま続ける。
――寝ちゃわないかな。ちょっと心配。
「『タロット』で俺の居場所割り出して、事情を洗いざらい吐かされた」
――庄本君は相変わらず風蘭ちゃん以外の人に容赦ないな。
私の脳内に爽やかな笑みとは裏腹に、目の奥は笑っていない庄本君が出てくる。
「空井君、庄本君と友達だったの」
「3年の時同じクラスだったんだよ。修学旅行も同じ班だったしな。沼山先輩と付き合ってるのを知ってんのは、俺の周りでは庄本だけだった。周りの奴らに騒がれんのが嫌だったから、隠してたつもりだったのに・・・あいつは俺が誰にも言えない秘密を抱えていることを嗅ぎつけやがった」
空井君の声が1オクターブ低くなる。恐らく庄本君は『タロット』の結果を見せつけて、自分から話すよう促したんだろうな。聞かなくても、何となく想像できる。
「それで、空井君を『タロット』にかけて動向を見張ってたと」
言わずもがな、これは悪い『タロット』の使い方である。
「あいつは話聞くよって言って、本当にただ話を聞くだけだったが・・・それでも少しだけすっきりした。帰れるくらいメンタルが回復して、庄本と駅で別れようとしたその時、くせ毛の女が俺たちの近くに来た」
――空井君だよね。私、沼本さんの友達の平って言います。話したいことがあって。時間は、取らせませんから。
「無視して帰ってたら、俺はこんなになってなかったのかもな。でも実際は、人気のないところに移動して、庄本は帰らず離れたところで見守ってた」
――沼山先輩の友達って。
――うん。高校は、違うんですけど。って、見れば分かりますよね。私一応、沼本さんと同じクラスだったんです・・・見覚え、ありますか?
――すいません。ちょっと・・・。
――そう、ですよね。
「改めて見ても、思い出せなかった。あんな強いくせ毛、先輩の近くにいたら朧気でも印象に残っていたはずだったんだが。庄本によればその平って先輩、中1の時だけ沼山先輩と同クラだったらしい。それ以外の接点は特に無し」
「そりゃ分かんないよ!空井君入学すらしてないじゃん!」
「あの時それが分かってればな」
――気づきませんか?
――は。何・・・。
――私、なんです。空井君の運命の相手は。
――どういう事っすか。
――『占い』は・・・私の『
――は?「なんっ!」ですって!
――だから?彼氏になれって言いたいんですか。
――はい。折角なのでこのまま送ってくれませんか?私の家も、ここから近いんです。空井君のご自宅とは反対方向なので、心苦しいんですけど。
――や、無理ですけど。
――そうですよね。急すぎますよね。手はつながなくても、並んで歩くだけで、私は満足です。
――そっちじゃなくて、付き合うのが無理っす。
――どうして?『筮竹』がそう言っているんですよ。まだ一部の地域でしか使われていない『占い』ですけど、性能は空井君の『sou』と変わりません。あ、もしかして、沼山さんみたく、名前で呼ばないと素直になれないタイプですか?ふふ。可愛い。
――そんなに『占い』に書いてあることが大事っすか。俺と同じような奴なんて、ごまんといますよ。
――でも、1番近くに、私の『運命の相手』に近しい貴方がいる。それだけで十分です。沼山さんは本当の恋じゃない。きっと、いや、必ず。直治君の『占い』にも『将来結婚する相手』・・・ですか。それが私のことを指しているに決まって。
――どいつもこいつも『占い』『占い』『占い』って・・・!
「俺の中にある『占いの存在意義』を木っ端微塵にするのには十分すぎるくらいのとどめだったわ。ただえさえ既にヒビが入ってたってのに」
「そんなことが14歳?の時に・・・」
沼山先輩の心無い言葉で亀裂が入り、平先輩による身勝手な告白によって『占いの存在意義』は粉々に砕けた。空井君の中には『占い』に対する嫌悪のみが残ってしまったんだ。
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