第三十七話『恋と占いは実らない』
第38話
――理由、聞いてもいいですか。
――分かんない?私、前から言ってたじゃん『まだ16になってないけど、きっと私が将来結婚する相手は直君だね』って。16歳になった私が、今まで何の連絡もしてこなかった時点で察してよ。
――俺が、沼山先輩にとって、『将来結婚する相手』じゃなかったから・・・なら、昨日一緒にいた人が、そうなんすか・・・?
――うん。『タロット』がね、運命の相手は富潟中央高校にいるって教えてくれたの。超ラッキーじゃない!?こんなに早く出会えたなんてさ!
「ちゃんと先輩と付き合い始めたのは2週間弱。その2週間で俺に向けてくれた笑顔が、別の奴に向けられてんの見ると、マジでイラっときた」
空井君が豚汁の缶に爪を立てる。中身が空になったそれは、みるみるうちに握力に負け、歪な形に変形した。まるで、当時の空井君の心を表しているかのようで。
「それは――」「だからって、一方的に好きな人が別にできたからもう俺とは会いたくない。は無いだろと噛みついたら、先輩は悪びれもせずに」
――しょうがないじゃん『タロット』が・・・『占い』がそう言ったんだから。直君も16歳になったら分かるよ。
「何も言い返せなかった。唖然ってこういうことを言うんだなって思ったわ」
「沼本先輩ってそんな感じの人だったっけ・・・?」
――前半の話で抱いた人物像とは少し離れてるような。空井君がわざと先輩に悪意フィルターかけてる?
「俺もそう思った。したら、先輩、俺のこと可哀想な人を見る目で」
――見せてなかったけど、こっちが素なの。サバサバ系ってやつ?同性の前だと嫌われやすいから、隠した方がいいって『タロット』に言われて。あ、勿論彼にはありのままの私を見せてるよ。そっちの私を好きでいてくれてるから。
「肌に合ってない化粧も、着崩した制服も・・・会わなくなって2週間しか経ってねぇのに、先輩は俺の知る先輩じゃなくなってた」
――何で俺には見せてくれなかったんですか。俺だって、先輩のこと。
――本当に?本当にそうだって言える?直君が好きになったのは外面の私。いつも全力で委員長をやってる、ちょっと天然だけど真面目で優しい私でしょ?でもそんな子、富潟だけでも何十人といるよ。全国まで範囲広げたらごまんとね。
――沼本先輩だから好きになったんですけど。
――そっか。まだ、私のこと好きなんだ。
――当たり前っす。
――なら、もう会わないで。『占い』は私と会うなって表示出てたはずでしょ?
――それは。
――私の方は連絡とるなって出てたから、直君の方も同じに決まってる。『占い』を無視して私と会おうとするなんて論外。私のことが好きなら、私の幸せを邪魔しないで。
「・・・そ、れで、別れたんだ・・・」
衝撃の所為か、はたまた豚汁に喉の水分を吸われたのか、声が上手く出なかった。
「あぁ。あの時は頭が働かなくて、沼山先輩が『私の何が悪いの?教えてよ』って質問にも全く答えられなかったからな」
窓の外を見ると、空が白み始めていた。空井君の心中は夜のままだっていうのに。
「悲しいまま前に進めない時でも今みたく、太陽はちゃんと進むよね」
「・・・何で政川が泣くんだよ」
「ごめん。何でだろ・・・苦しい」
「俺は泣けなかった。先輩が先に帰った後も。ドラマとか漫画では、悲しいシーンの時必ず雨になるだろ。しかも周りに人はいない。そんな状況でも、涙の一滴すら出やしねぇ。本当は連絡が来なくなった日から、心のどこかで諦めていたのかもな」
「それでも、好きなのは変わらなかったんでしょ」
私は空井君の手に自分の両手を重ねた。
「沼山先輩は結構キツイ女性だけど、空井君みたいに恋が成立しないケースを私は知ってる。先輩が『私を好きでいてくれてありがとう』って言ってくれたら、少しは・・・っ」
私は空井君の手から、ひしゃげた空き缶を奪う。
「空井君の心も、こんな風にならなかったのに」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます