第三十四話『貴方を変えてくれる人』

第35話

「中2の時、俺は保健委員だった。占・・・『sou』がそこに入れって言ったからな。だからぶっちゃけ、委員会の仕事に興味なんてなかった。部活の時間削れるし」


「部活?」


聞くと、空井君は中学時代、野球部に所属していたんだそう。また1歩、空井君が私の運命の相手に近づいたと歓喜したいが、空気を読んで自重する。


――野球部時代の話はまた後で聞こう。坊主頭の空井君超見たい・・・!


「で、そん時の保健委員長がすげぇ真面目な人でさ。たまたま2人で仕事する機会があって、黙ってやんのも気まずいから、先輩のこと適当に褒めたんだよな。あんまよく覚えてねーけど、いつも頑張ってて凄いっすね的なこと言ったんだと思う。したら――」


――全―然!私、生徒会に入りたかったけど『タロット』がこっちのが良いっていうから入っただけ。


――なら、委員長になったのも『タロット』が?


――違うよ。じゃんけんで負けたの。あれは運が悪かったなー。でも、やり始めたら案外楽しいよ。っぱ『占い』って私達より、私達のことよく知ってるよね!


――そんなもんすか。


――だから空本君も、野球する時みたいな感じでこの仕事やってみたら?きっと意識変わるよ。


――何で俺が野球部って・・・あぁ。髪型か。


――それもあるけど、テニスコートの外からたまに見てるよ。いつも真剣というか怖い顔して走り込みしてるじゃん。私にとってこの仕事は、空本君がいつもやってる練習のそれと同じ。保健委員にとって大事なのは、怪我人を介抱することじゃなくて、予防の意識を持ってもらうよう働きかけることだから。


「――先輩も俺と同じ、入りたくて入ったわけじゃなかった。それなのに、望まない役職背負って、誰よりも懸命にやってる姿勢はシンプルにかっけーって思った。他の奴らは俺と同じ感じなのに」


「入ったからそれでいいや。みたいな?」


空井君は頷く。


「『sou』に『最も適した仕事は保健委員。あなたを変えてくれる人との出会いが待っています』って言われたら、そうするしかなかった。で、先輩と話してる時、俺を変えてくれる人はこの人かって――」


――沼山先輩、俺、空井っす。


――あれ!?ごめん!


「――名前間違えられたけど、確信したんだよな」


「そっか、そっか・・・一応確認なんだけど、沼山先輩は女性ということで・・・」


「合ってる」


はぐぁ。と喉から潰れたような音が出る。


「そっかそっか確認しただけだからごめんね話途中で遮っちゃって続きどうぞ!」


空井君は急にどうした?と言わんばかりの顔をしているが、私は笑顔でスルーする。


――これ、今から空井君と先輩のエピソードが始まっちゃう流れだよね!?叫ばずに聞けるかな。


「沼山先輩とは委員会通じて、よく話すようになった。あの人、政川並みに小せぇのに、よく動くし、表情もコロコロ変わって面白いし、しっかりしてるように見えて実は抜けてるところとか――」


空井君は私を見ると話すのをやめ、手で口を押えた。


――や、やっぱり。


「もしかして、空井君」


「は!?違ぇ」「沼山先輩のこと好きだったんだ・・!?」


数秒の沈黙が訪れる。空井君は赤い顔を隠すようにそっぽを向いた。


「・・・あぁ。そうだな。あん時は女子の中で1番沼山先輩がいいなって思ってた」


「そっかーあぁぁぁ」


――なら、沼山先輩はさっきのすぅって子みたいな感じだったのかな。


私は脳内で金髪ハイポニーテールの沼山先輩(仮)を思い浮かべる。


「先輩が富潟中受けるっつーから応援したし、俺もそこに行こうってそん時決めた。悪いな。動機が不純で」


「そんなことないよ!なら、2人は今付き合って、るの・・・?」


「告白はした。で、OKももらえた」


私は痛いくらいお腹を押さえる。もし人間がショックを受けた時吐血する仕組みになっていたら、私は絶対に店の床を赤褐色に染めていたと思う。


「でもな、先輩は高校に入ってすぐ、16歳の誕生日を迎えた。勿論おめでとうChat送ったんだが――その日以降、先輩から返信が来ることはなかった」

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