第三十三話『ずっと好き!をはさもう』

第34話

『MCWAY』はサンドイッチやハンバーガーを主力商品として、世界的に展開するファーストフード店のこと。キャッチコピーは『ずっと好き!をはさもう』安くておいしいので、年齢問わずいつも沢山の人が利用している。


窓際のテーブル席に座り、ナゲットが入った箱を開ける。


「無事座れて良かったね!」


空井君は呆れた表情で私の後ろ――大きな窓に映る景色を見る。


「季節感じられるか?」


窓の外は、ビル、人、車で埋め尽くされており、自然のしの字も無かった。


「んん。ほらあれ!秋感じるくない?」


私はポスターを指さす。それには『秋限定!お月見サンド&ムーンバーガー!』と書かれていた。


――空井君の視線が痛い!


「・・・ナゲットうまー。あ、1個食べる?」


――私は何も見てない。秋を感じるったら感じるんだい!


「政川が『占い』の言うこと聞かねーってのはよく分かった」


空井君はムーンバーガーにかぶりつく。


「信じてはいるよ。勿論。まだ16年しか生きてないけど、『占い』に書いてあることは絶対だって分かってる。けど」


私はそこで区切って、苺シェークを飲む。


「『占い』や誰かにやめた方がいいって言われてもやっちゃって、結果言われた通り残念なことになって『だからやめなって言ったのに』って誰かに言われたとしても、私はやらなかったことに後悔はしたくない」


空井君は無言でバーガーを食べ続ける。


「って、主人公みたいな考えに共感はしてたけど、実際は我慢してばかりで。高校入ってからかな。少しずつ、自分がしたいと思ったことをしようって思い始めたのは」


「変わろうとしてんだな。お前も」


「うん。まぁ、私はただでさえ人より運勢が良くないから、やることなすこと全部裏目に出ちゃうんだけど」


空井君はあっという間に食べ終わり、私のナゲットをつまむ。


「俺はまだ無理だわ」


「そんなに、『占い』の通りに生活する自分は嫌?」



「・・・そうだな。それに、この世界から消えて欲しいって思うくらい、大嫌いだ」


私は、この時の空井君の顔――怒りと悲しみ、苦しみがないまぜになったようなその表情を、一生忘れられそうにないなと思った。




私達は注文した品を完食し、ごみを片付けて机を拭いた。


「・・・俺が何でこうなった占いが嫌いになったかって話、してやってもいいけど」


「いいの!?」


どういう風の吹き回しで話してくれる気になったのかは分からないけど、私はこのチャンスを逃すわけにはいかない。


「その代わり、早解きゲームの再戦だ。本気出せよ?」


「分かった!科目は?」


――絶対勝つ!


私と空井君は唯一使用しているワークが同じ、現代社会のページを開いた。




「できた!」


「早くね!?」


得意科目を指定されたのは僥倖だった。結果は空井君の採点を見なくても分かる。


「そんなに知りてーのかよ」


「私だって、風蘭ちゃんのことあまり話したくなかったんだよ。悲しい気持ちになるから」


フンと鼻を鳴らす。無理やり聞き出した自覚があったのか、空井君の眉間のシワが深くなった。


「・・・面白くねー話だけど、ちゃんと最後まで聞けよ」


そう言って、空井君は話し始めた。


それは『占い』によって壊された――1つの恋の物語だった。

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