第三十二話『紫水は見た!』

第33話

「うるせぇな」


――空井君?


口の中がカラカラする。会話から経緯を推測した結果、すぅという女の子がわざわざ空井君の好みの見た目になって告白したけど、空井君はにべもななくフッたということが分かった。


――付き添いの2人は追いかける役と本人に物申す役に分かれ、今この状況ってことか。


金髪の子と同じ制服を着たボブの女の子はそれはもう、凄い剣幕で怒っていた。友達を泣かせる奴は許さない!と怒りに燃える気持ちも分かるし、満を持して告白した友達を泣かせるような態度を取った空井君も非があるとは思う。私は空井君に告白した子の見た目を思い出す。


――私と全然違った・・・。


サラサラの金髪をハイポニーテールに結び、色白で化粧もしてた。スカート丈も短い。要するに、空井君の好きな女性のタイプは・・・パーリーピーポーな白ギャルということか。


――どうりで、私は『勉強仲間』なわけだ。


最初から、私は異性として見られてなかった。熱くなる眼がしらをグッと抑え、零れないように上を向く。


バシッ!


「お前・・・いい加減にしろ」


私がショックを受けている間、事態はとんでもない方に進んでいた。


目を擦り、壁から顔を覗かせると、空井君がボブの子の腕を掴んでいる。


文句を言っても動じない空井君に痺れを切らしたのか、彼に制裁の平手打ちをくらわそうとしたらしい。あっさり防がれたみたいだけど。


「離してっ!」


ボブの子が掴まれた右手はそのままに足を上げる。空井君は足を踏まれる前に手を放して距離を取った。


――た、戦い慣れしてる・・・ってぼーっと見てる場合じゃない!


私は意を決して、さも今通るかのように2人の前に対峙する。


「・・・」


「・・・」


「何?」


「あっ、すいません」


私はボブの子の気迫に恐れをいなし、そそくさと2人の横を通り過ぎた。


――いや無理無理無理。喧嘩?の仲裁とかやったことないし!


厄介ごとは親か先生か風蘭ちゃんに頼りっきりだった私が何かを言えるはずもなく。


――ごめん空井君。他人のフリする私をどうかお許しください・・・。


心の中で合掌していると、後ろから誰かがやって来た。


「政川!」


「うぇっ」


空井君を見た瞬間反射的に逃げ出そうとしたけど、一瞬で距離を詰められてしまった。


「・・・何で逃げんだよ」


「ごめんなさい・・・力になれなくて」


空井君は「そっちか・・・」と頭をかき、胡乱な目で私を見る。


「どこまで見た」


「えーボブの子が空井君に説教してるところから?」


「・・・そうか」


「空井君が災難だったって思うなら、もう少し相手に寄り添った答えを・・・って、全容を知らないのに勝手言っちゃ駄目だよね」


「・・・」


「溜め込んでいることがあったら、聞くよ?私も、空井君が背中押してくれたお陰で、風蘭ちゃんと話せたし」


「そんなこと言って、政川が聞きたいだけだろ」


「んん。それもある。だって途中から目撃したんだよ?このままじゃ勉強に集中できないー!」


――正直色々と中途半端で、気になってしょうがない。


地上へと続く階段を上りきると、赤と緑色のお店が見えた。


「そうだ!空井君、MCWAYマクウェイ行こう!」


「今日は東屋でやるんじゃなかったのか」


空井君の言うとおり、今日の勉強場所は駅前公園にある東屋の予定だった。


「今日も大変だったでしょ?それに私は明日からテストだし、こう・・・美味しいもの食べてモチベーションを上げよう!的な」


「『占い』はいーのかよ」


「大丈夫!『今日は小春日和。勉強は景色を感じつつ、風通しの良い場所でするのが〇』」だから、MCWAYの2階席も該当するよ。窓際座ればバッチリ!」


「フッ。クク・・・」


「わ」


――わ、笑った!


不意打ちで彼の純粋な笑顔を見てしまった私は、あまりの破壊力に膝から崩れ落ちそうになる。


――一撃で心臓をわしづかみされた。これが、ギャップ萌え・・・!微笑だけでこの眩しさなら全開だとどうなっちゃうの。


「分かった。行くか」


「うん!」


――美味しいもの食べたら、ちょっとは嫌なこと忘れられるかな。


「やっぱ似てんな・・・」


「私アプリ入れてるから、クーポンあるよ・・・ってごめん、今何か言った?」


「なんでもねーよ」

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