第三十一話『この恋の行方は何の味?』
第32話
「はぁ!?」
風蘭ちゃんは口をあんぐり開ける。私は笑って帰ろうと促した。
「実はね、ほぼ同じこと、この前千ちゃんとかんちゃんに言われたの。私空井君のことしか見てなくて、全然気づかなかったよ」
遡ること数日前、昼休みに千ちゃんが『タロット』で占った結果を見せられた時から、私のやることは決まっていた。
「私、空井君に告白する」
「ぶフッ」
「・・・・・・なんて?」
「この中間テストが終わったら、空井君に告白する」
「っていう冗談」「じゃなくて」
「っていう死亡フラグ」
「玉砕覚悟じゃないもん!」
2人から告白に対して否定的な気持ちがありありと伝わってくる。
「私は、このままの関係でもいいって思ってる。もう少し空井君のこと知って、仲良くなってからバレンタインにチョコ渡して告白!って流れを妄想してたけど」
私は食後のデザートに持ってきたわちゃアニビスケット(チョコ味)の包みを開ける。
「ベタベタね。チョコだけに」
「クリスマスの方が良かったかな・・・」
私はビスケットの裏面、チョコで覆われている部分が上になっているものを全部引っ繰り返した。ビスケットを部分にはアニマルズの顔や模様がプリントされており、皆の顔が見れてほっこりとした気持ちになる。
「その日に誘えたらそれはもはや両想いだよ・・・って違うだろ」
千ちゃんはシマウマとゴリラのビスケットを同時に食べる。
「やめとけ。どうなるか占えないぞ。冗談抜きで死ぬかもしれない」
「決死の覚悟だよ!」
「私達の寝覚めが悪いんだけど」
「それは、分かってるけど、無視なんてできないよ」
かんちゃんがビスケットを食べずに、チョコの部分が上になるよう引っ繰り返し始めた。私も負けじと直していく。
「菓子で遊ぶな!ってか食わねーのにベタベタ触ってんじゃねー!」
そう叫んだ千ちゃんは袋ごと奪い、残っていたビスケットを一気に口の中に入れた。
「あー」
かんちゃんがウエットティッシュをくれたので、チョコがついた指を拭う。
「はぎゃー君が甘い言葉を吐いてたのは紫水の体が目当てだったからで、とうとうそういう雰囲気になったけど梅干し食べたみたいな顔で『しょっぱい体だな。興ざめしたわ』って辛口評価下されて苦い思いするかもしれない」
「うま味は!?うま味がまだ残ってるよ!」
「それは今この状況。紫水によると彼、大分距離近いよね。紫水にとっては飯ウマなシチュエーションかもしれないけど、第三者からすると不安以外の何物でもない。もてあそばれてるだけじゃないのって」
「んん」
「もし紫水が逆の立場だったら、阻止しようとするだろ」
千ちゃんがビスケットを食べ終え、口の周りをウエットティッシュで拭いていると昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
「分かった。今すぐ告るわけじゃないし・・・ちょっとよく考えてみる」
2人共ありがとうと言って席を立った。
「
かんちゃんの呟きを背に受けながら、私は次の授業の準備を始めた。
今日は勉強会の日。私は歩きながらスマホを鏡代わりにして、自分の顔や髪をチェックしていた。環里高校は明日が中間テスト開始日。富潟中は明後日らしい。
――風蘭ちゃんからも『勝手にすれば』ってお許しもらったし、千ちゃんとかんちゃんも『何かあったらすぐに引き離す』って諦めてくれた。この恋がどんな味になろうと、私は飲み込んでみせる。まぁ、まずは試験が最優先だけど。
何やかんや私の意志を尊重してくれた友人達に感謝だ。終わったら何か奢ろう。そういったことを考えながら歩いていたら、目の前を知らない女の子が猛スピードで走り去る。その後を、もう1人の女の子が「すぅ!待って!」と言って追いかけていった。
「え・・・」
――あの子、泣いてた?
後ろ姿から、多分朝日岡女子の制服を着ていたことが分かる。
――あの角、曲がるの怖いなぁ。
はっきり聞こえないけど、恐らく現在進行形で女の子が誰かを怒っている。壁にくっつき、向こうの様子を覗こうとしたその時、聞き慣れた声が聞こえた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます