第三十話『それぞれの答え』
第31話
18時37分
紫水と風蘭は駅を出て、家までの道を並んで歩いた。その間も、互いの情報を擦り合わせていく。全ての始まりは、紫水が『占い』を無視したことだった。やむを得ない事情があったとしても、たった1度の選択が、『占い』に縛られずに生きる少年との邂逅を実現させてしまった。更に恋という追撃が入ったことで、2人関係が進展する度、『占い』は必要最低限のことしか占えなくなってしまった。
途中近所にある公園に寄り、風蘭はブランコを漕ぎだした。紫水も習って隣のブランコに乗る。日中は子供たちで賑わいを見せるこの場所も今は夕飯時だからか、辺りには2人以外誰もいなかった。
「真中祭の日、アタシの『sou』には紫水が来るなんて結果は出なかった。それは直治が『占い』に書いてないことをしたからだった・・・そして紫水はそれに乗った。まだアタシと仲直りできないから行っても無駄だと忠告されていたにも関わらず」
「・・・無駄じゃなかったよ。傷ついたし、風蘭ちゃんのことも傷つけちゃったけど、後悔はしてない」
紫水は足を地面につけたまま、膝を曲げて、伸ばす。
「『占い』は信じてる。特に私みたく優柔不断でリスクを負うことが怖いタイプはこれからも、この『sou』を使って生活するのがベストなんだと思う。だからかな・・・『sou』の所為で苦しい重いをしたばっかっていうのがあったからかも。後悔や不安があったとしても、自分の意志で生きてる空井君のこと、羨ましいって思っちゃった」
「それは、アタシの所為よ。『sou』は間違ってない」
風蘭は足で無理やりブランコを止めた。ザザッと靴底と砂利がすれる音がする。風蘭はうつむいたまま真中祭の日、直治に話した内容を全て話した。
「――だから早く絶交したかったの。紫水がアタシに負い目を感じたままにさせてたのは申し訳なかったけど、関係を切るいいタイミングだったわ」
新涼の風が2人の前髪をさらう。
「・・・は、話してくれて、ありがとう」
紫水の表情が暗いのは、日が落ちているからではないだろう。風蘭はブランコから離れ、傍に置いていた鞄を回収する。
紫水は昔から自分のことよりも先に他人を慮りがちだ。風蘭はそれが自分にはない、紫水の良いところだと分かっている。だが風蘭は時に、彼女のその気遣いが憎らしくて仕方がなかった。
「アタシが言いたいのは、突然状況が一変することもあるってこと。紫水が変わらないで欲しいって思っていることでも、紫水の幸せを決めるのは『sou』だから」
「だからって・・・」
「『たかが占いの結果1つで、私達の友情は変わらないわ!』ってクサいセリフが言えたらよかった・・・でも、それはもう昔の話。今の『占い』は違う」
風蘭は紫水の目を見据える。紫水は眼鏡越しでも分かる程、強い意志が込められた瞳に釘付けになった。
「相談相手はもう終わり。アタシと直治のことは忘れて『sou』が指示する生活に戻ろう。直治のことを可哀想だと思ってんなら、紫水の代わりにアタシが直治の味方になる。責任もって、卒業まで」
「・・・」
ブランコチェーンを握る手が震える。紫水は両手を話しそのまま、自分の頬を叩いた。
「『占い』に書かれていないことが起こるのはビックリするし、怖いよね」
――早いとこ下りる場所を決めないと、皆に迷惑がかかる。
紫水は負けじと感情を目に乗せる。長い付き合いである風蘭になら、自分がこの恋に対してどれだけの熱量で挑んでいるのかがきっと伝わるだろうと信じて。
「――私、空井君に告白する」
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