第二十九話『政川紫水は変わらない』

第30話

「前から・・・風蘭ちゃんみたく、自分から劇的に変えたことはないかな」


「紫水はずっとこんな感じで、変わらないよね。外面も何もない」


「あ、でも髪は伸ばし始めてるかな。それくらい・・・?」


私は記憶を辿りながら相違点を探す。


――目は裸眼のまま、髪色も、髪形もほぼそのまま。性格は・・・風蘭ちゃんが変わってないって言ってくれたから、そうなのかな。


「ごめんなさい・・・小学生の頃からこんな感じです」


何か気に障る部分でもあったのかと不安になる。気弱な性格のまま育ってしまった自分が嫌だ。


「謝んなくていい。ただ気になっただけ。これが演技だったらヤベーなって」


「残念だけど、それはない」


「私凄すぎるでしょ・・・風蘭ちゃん、残念だけどって?」


「さ、もう一回する?」


「次は現代文な」


風蘭ちゃんは答える気がないみたいだった。2人が早解きゲームをしている中、私は『sou』で『友情運』を占う。


『政川紫水 さんの友情運は現在 52% 前回より 28% 低下 しています。あなたのことで悩んでいるかも。あなたから話を切り出すと〇』


――下がってる・・・。


すぐにスマホを目の届かないところにしまう。


――もっともっと頑張らないと。頑張らないと私は・・・変われない。


私は気持ちを好転させるべく、得意科目である漢文のワークをテーブルに並べた。




18時11分


紫水と風蘭は空井と別れ、一緒の電車に乗った。


風蘭は直治との設問早解きゲームに全勝したからか、比較的機嫌がよさそうだ。紫水も久しぶりに幼馴染と一緒に帰ることができて嬉しそうである。


「風蘭ちゃん」


最寄り駅に着くまでは世間話に花を咲かせ、2人以外誰もいないホームに降り立った時、紫水は風蘭に自分の意志を告げた。


「やっぱり私、空井君のこともっと知りたい」


風蘭は弾かれたように振り向く。その目は驚愕に見開かれていた。


「空井君は声も素敵だし、やたら距離近いし、ぶっきらぼうな割に神対応なの。だから、一緒にいると頭回んなくて胸もはぎゃーってなるけど、それは全然嫌じゃないんだよね」


「はぎゃーって・・・」


自分で言ってて恥ずかしく感じたのか、紫水は頬を赤く染めて風蘭から目を逸らす。


「それに空井君は、今めちゃめちゃ悩みを抱えてるんだと思う。多分『占い』がきっかけで。惚れた弱みっていうのもあるけど、周りの人達がこぞって空井君を否定するのなら私は、私だけでも、空井君が『占い』を拒むことを肯定してあげたい。賛成側として守りたい」


「この議題はディベート程度で収まるものじゃない。大体紫水だって否定派でしょ」


「そうだけど、あえて反対側の立場に行くこともあるじゃん」


「直治のことを大切に思っている人ほど、『占い』を信じろって言うことくらい分かるでしょ?」


風蘭は自分の言葉に熱を感じ始める。紫水はあえて息を吸い、体内温度を下げた。


「脱線しそうだったから、一旦話を戻すね。空井君との出会いは運命だって思う。『将来結婚する相手』じゃなくても、途中でフェードアウトしたくない・・・ごめんね」


「本気・・・?その恋の先にある未来が不確定なものだとしても?」


「不確定・・・」


紫水は言葉の意味が分からず繰り返す。1個確認なんだけどと言って、風蘭は両手を後ろに組んだ。


「紫水が直治と出会った日、『政川紫水さんは今日、運命の相手と出会います』的な占い結果・・・出てなかったんでしょ?」


電車の接近を知らせる警笛が鳴り響く。向かい側のホームに、急行列車が通過しようとしていた。速度を緩めずに、たったの数秒で遠くへと行ってしまう。


紫水を置いて、進んでゆく。列車名も、乗車時間も、終着点も知らないまま。『占い』はそのままでいても問題無いよう誘導してきた。


しかし、境目はとうの昔に超えてしまった。誤った分岐を選択した事実に、紫水以外の人間が気づき始める。


それを察知した紫水が、この先何人巻き込んでどのような行動を取るのか――終点先を占うことは、もうできない。

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