第二十六話『かのかのかのかの』
第27話
「か・・・」息が詰まる。
「声でけーよ」「マジ?」「嘘じゃなかったのか」「他校生捕まえるとかアイツやるなー」
――って、フリーズしてる場合じゃない。訂正しなきゃ!
「あの、私空井君のきゃ、彼女じゃないんです」
「え?でも政川さん直治のこと好きでしょ」
「すっ!」再度息が詰まる。
――こんな人が多いところでなんてこと言うんだ!
「顔真っ赤じゃん」
「あんまからかってやんな」
「あ・・・っす、好きかどうかは置いといて、私と空井君は友・・・じゃなくて、勉強仲間なんです」
少し強めの口調で言うも、5人は悪辣な笑みを崩さない。
「そっかそっか、俺の勘違いかー。直治が正影さん以外の女子とまともに話してんの見たことなかったからさ」
「あいついつも独りじゃね」
「正影も健気だよなー」
――そうなんだ。
ちょっとだけ嬉しいと思う自分がいる。
「・・・で、いつから空井のこと好きなの?」
話が元に戻ってしまった。
――って、この人確か昼休憩の時空井君を置いて行っちゃった人じゃ・・・。名前知らないけど、この人には言いたくないな。
んんと唸るも、誤魔化せそうにない。私が『sou』を見ようとスマホに手を伸ばしたその時。
「風蘭ちゃん」
「え」
「やっと見つけた・・・!良かった無事で」
風蘭ちゃんが腕を後ろに組んでいるのを見て、体に緊張が走る。風蘭ちゃんは苛ついている時と、怒っている時、必ずこのポーズをとるから。
それを知らない5人は、三者三様ならぬ五者五様の反応をし、極めつけは細倉君の「てかこのメンバーで
「ごめんね。今日はこの子が私に相談したいことがあるみたいで。ハンバーガーはまた今度、私1人でよければだけど」
「いや、んなことしたら俺ら庄本に殺――」
風蘭ちゃんは相手が言い切る前に、私の手を引いて歩き出した。
「風蘭ちゃんありがとう」
「・・・」
ぱっと掴まれていた手が離れた。そのまま地下の改札口に繋がる階段を降りようとしていたので、慌てて真中祭の時からずっと我慢していたことを打ち明ける。
「その格好とキャラ、最初見た時はビックリしたけど、そっちの風蘭ちゃんも可愛いね」
「チッ!」
風蘭ちゃんは立ち止まり、大きく舌打ちした。
「ごごごごめん!嫌味で言ったんじゃなくて!ほんとにギャップ萌えっていうか、私はどっちの風蘭ちゃんも好きで!」
「はーーー。もういい」
「んん・・・た、助けてくれてありがとう。またね」
「・・・何で?帰んないの」
私がこのまま別れようとしたのが風蘭ちゃんにとって予想外だったのか、驚いた表情で振り返る。
「実は今日空井君と約束があって・・・」
「はぁ!?」
待ち合わせ場所に着くと、既に空井君が座っていた。テーブルの上には勉強道具と、後ろのカップ式自販機で購入したであろうコーヒーが置かれている。
「ごめん遅れて!」
「いや・・・それよりも政川、クソがくっついてる。早く流してこい」
「女子にクソとかサイッテー!このクソ野郎!」
「あ゛?」
「あ゛あ゛?」
「ふふふ風蘭ちゃん!そのコーヒーおこっか!空井君もシャーペン持つ手おかしいよ!」
――ここスーパーだし、ただえさえ富潟中生は目立つのに!
間に入って必死に仲裁する。私の顔を立ててくれたのか、2人は一旦矛を収めてくれた。
「帰れよ」
「『sou』に外で勉強するななんて言われてないし。アタシの勝手でしょ」
空井君が睨むも、風蘭ちゃんは別のテーブルから椅子を持ってくる。
「空井君、風蘭ちゃんは人の勉強邪魔する子じゃないよ。それに勉強は個人プレーだし」
「そーよそーよ」
「いるだけでウゼェんだけど」
「空気悪くしてんのはアンタでしょ?」
――休戦期間短すぎない!?
再び火花が散りだした。私は2人を引き合わせたことを後悔するも、時すでに遅し。今日の勉強会はお開きにしようと提案しかけようと手を挙げる。
「えと」「ならこうするのはどう?」
「ぁ・・・はい、どうぞ風蘭ちゃん」
「アタシと勝負して、直治が勝ったら退散してあげる」
腕を組んで不敵に笑うその姿は、これまで何度も見てきたそれだった。そして風蘭ちゃんがこの態度を向けた相手に負けたことは――私の知る限り、1度もない。
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