第二十三話『鼻かみはしまっきー』

第24話

私は今、人生最高の絶頂期だと思っている。朝から花粉に悩まされても、電車で座れなくても気分上々でいられたのは『空井君』のお陰だ。


――勿論、そうなることを事前に教えてくれた『sou』にも十分感謝だけど。


富潟駅で降り、ずっとつけていたマスクをホームに設置されているごみ箱に捨てた。


深呼吸して鼻の具合を確かめる。悪化する前に薬を飲んだ甲斐あって、予定通り鼻水と目のかゆみは収まっていた。


――花粉症にはなるけど軽めのタイプでよかった。後はしっかり水分を取って寝れば完治するはず。


改札を出て、駅前ロータリーに向かう。今日の腹ごしらえ場所はここらしい。ロックオンしたベンチに荷物を置き、座ってお茶を飲んだ。今回は無事ご飯を食べれそうだと安心する。空井君に会えないけど、『占い』の助言は聞かなきゃいけない。


空井君といえば――私は今日の千ちゃんとかんちゃんの奇天烈な行動をふと思い出す


――真中祭の日、私服が汚れそうなもの食べちゃいけなかったんだよね。


――よく行ったな!


――流石紫水、持ってる。


――なのに先輩から強烈なはしまきアピール受けて、勢いに負けて買っちゃったんだけど、その場で食べて欲しいって言われて。


――はしまきって何。


――話の腰を折るな。それで?


――オロオロしてたら、空井君が連れだしてくれてはぎゃーーーーなった!ッシュン!しかも、そのまま・・・。


――香音、はしまきは祭りとかの屋台料理として売っているもので、要は薄いお好み焼きだ。焼き上げた生地を箸を使って巻き上げ、最後につなぎの生地をかけて焼き、ソースとマヨと鰹節と青のりをかければ完成。地域によって名称が異なるそうだが、発祥は・・・。


――千ちゃんさっき話の腰折るなって言ってなかった!?


――うるせー鼻ブー子


――鼻かみより、はしまきの話したい。


――今日2人変じゃない?私4月にもこういうことあったけど、そのときはいつも通・・・かんちゃん何そのサイン。


――タイムアウト。バスケをプレーする上で、このサインは重要。


――へー!一時中断ってこと?Tだー!


――演劇部がどこ目線で語ってんだ。


――トイレ行ってくる。だから、T。


――うまいこと言ったからってドヤ顔すんな・・・トイレはウチも行く。


――んん。私もついでに・・・。


――香音にはしまきにの魅力を延々と語るつもりだが、紫水も聞くか?


――い、行ってらっしゃい・・・。


花粉症の私に遠慮してか、2人は一日中会話の主導権を譲ってくれなかった。


――明日こそ報告するぞ。きっと2人共、私の話を心待ちにしてただろうに。


塾のテキスト片手におにぎりを齧った。環里高校では来週からテスト週間に突入してしまう。今月、私の勉強運は悪くない。なので取れる時に良い結果を残しておきたいと思っている。


――今回の試験範囲だと、現代社会と漢文は100点狙えるかな。


隣に誰かが座るも、私はおにぎりと予習に集中していた。ちなみに、今日は数学Ⅰと数学Aの日だ。


――連立不等式はケアレスミスさえなければ解ける。三角比や二次関数は応用レベルだとつまずいちゃうから、また数学重視でやっていこうかな。


おにぎりを食べ終わり、ちらと横目でどんな人が座っているのか見ると――


「・・・よ」


「はぐっ!?」


――まさかの知っている人空井君だった。


何でここに・・・と目で訴えると、彼は有無を言わさぬ顔をした。周囲を歩く大人達より迫力がある。


「偶々見えたんだよ」


――え?そうなの?富潟中って反対の方向だよね。


「はっ・・・ぶしゅっ!」


寄り道?と聞く前にくしゃみが出た。


「風邪?」


「ううん花粉症で・・・大分引いたんだけど」


「あぁ通りで」空井君は私の目を覗き込む。


「今日は眼鏡なんだな」

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