第二十一話『保証範囲外』
第22話
「それは・・・どうして?私『タロット』ユーザーじゃないからよく分からない」
「ウチの親に聞いたら、パッと思いつくのは3つあるって言ってた。1つ目は、『相手が故人もしくは存在しない』ケース。これは・・・紫水が空井直治なる空想の人物を作り出して、ウチらにさも実際の出来事かのように頬を染めて語っていたってことになるが」
「それはないって言いたい」
沙穂は自らがたてた解釈にドン引きしてしまう。紫水なら、現実と妄想がごっちゃになってついやってしまったと言われても納得してしまいそうだからだ。沙穂の中で紫水とはそういう人間だった。
「一先ず保留しておくとして、2つ目は『相手が偽名を使っている』ケース。実在する富潟中生だが、紫水のキモさにビビッて出鱈目な氏名を告げた・・・」
「有り得る・・・紫水の目には彼が相当イケメンに映ってたらしいし。まぁ彼にとっては言い寄ってくる他校の女子程度の印象だったら、咄嗟に嘘ついてやり過ごすっていうのも理解できる」
――なんて残念なの。周りのことをよく見てる紫水が、相手が迷惑そうにしてることに気づけないくらい、恋に盲目ってたのかな。
「最後は『占いの範疇外である』正直、ウチはこれが1番有力な説だと考えている。紫水は『sou』の指示に従わなかった先ではぎゃ男と出会ったんだろ。だから、『sou』にとっては紫水とはぎゃ男が知り合うことは、想定外の事態だった」
「ならこの先、2人は占えないの?はぎゃー君に会うと、『sou』は紫水を守れなくなるかもしれない・・・?」
香音は努めて静かに話す。ただ、『占い』で平穏が保証されたこの社会で、紫水に何らかの脅威が迫っていると確信していた。
「それはまだ何とも言えない。ケース1とケース2が正解かもしれないしな。ただ念のため今日も昨日と同じように占ったんだが、駄目だった。だから単純に『タロット』で『空井直治 の今日の運勢』を占った」
「うん」
「『結果が表示できません』って出るんだ。他の運勢でも同じ」
今スクショ送ったと言われたので、香音は沙穂の『Chat』を開く。写真が何枚か届いていた。言葉の通り、香音で占った画面と、直治で占った画面は同じ『占い』でも結果が全く違った。
「ケース1とケース2でも辻褄は合うから、そうであってほしいと思ってる。だがケース3の場合だと、はぎゃ男は普段『占い』の助言通りに行動していない可能性がある」
「そんな、そんなこと・・・あるわけない」
「紫水にとっては『将来結婚するかもしれない相手』だ。すぐにでも聞きたいけど、慎重にいったほうがいい」
だって、と沙穂が言おうとしたことを香音が引き継ぐ。
「その話をしてもいいのかは『sou』も『タロット』も教えてくれないかもしれないから・・・」
「恐らくな。悪いけど、それとなく紫水に聞いてくれ。こういう役割、香音の方が適任だろ。占わなくても分かる」
「買い被らないでよ。聞くの怖い」
――『占い』の範囲外で、何かが起ころうとしている。
通話を終えた後も、香音は残りのベビーカステラを食べれずにいた。『かんちゃん今日は本当にありがとう!』と満面の笑みで香音の好きなこしあん味を買ってきてくれた紫水の姿を思い出しては体に震えが走る。
――あの笑顔は嘘じゃない。だから、きっとはぎゃー君は偽名を・・・でも普通、嘘ついた相手をわざわざ自分の文化祭になんて誘わない。
香音は弟に早く風呂入れと急かされるまで、『sou』の画面をじっと見つめていた。
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