第十九話『正影風蘭の独白。空井直治は毒を吐く』
第20話
――思えばあの頃までが1番楽しかった。
「中2の冬・・・初めて紫水がアタシより上の順位を取った時、目線が僅かに下になってることに気づいた。直治にとってはたかが身長と成績抜かされたくらいでって呆れるんだろうけど、アタシは死んでも嫌だったの」
「ならお前にとって、政川が志望校変えたのはラッキー」「うるさい!」
図星を突かれ、風蘭は人差し指の爪を噛む。
「うるさい・・・紫水がいてくれたから、私は成績が伸びて、県で1番の高校に入れた!アタシの親が実の娘より紫水を褒めたって、誇らしかった!だって紫水の成績が伸びたのはアタシと一緒に勉強したおかげでもあるから!簡単にラッキーなんて言うな!」
「正影も、本当は分かってんじゃねーのか」
直治は食べ終わった容器を袋の中に入れ、口を縛る。
「『占い』が政川を富潟中に行かせなかったのは成績の所為じゃない。正影から政川を引き離すために、『占い』は政川を環里へ行かせた。その方が、政川にとって幸せだったから」
「・・・」
風蘭は黙って肯定の意を示す。
「もし政川が富潟中生になっても、正影の劣等感が膨らむばかりで最終的に・・・」
「紫水を傷つけることになったと思う・・・『占い』はいつも正しいの」
風蘭は直治が座っている石に寄りかかった。
「だからって、シカトし続けんのは無しじゃね」
「・・・自分が許せなかった。紫水が環里に進むって泣きながら謝ってくれた時、アタシは・・・良かった。って思った。喜んっ、じゃったの」
風蘭は嗚咽交じりに続ける。
「紫水に嫉妬して・・・憎むなんて自分勝手すぎる。それに、アタシが、アタシがいたから、紫水の進路が歪んだ。ほんと、っ、なら、富潟中に行けてたっ、ふうっ、のに。文字通りっ、っく、会わせる顔がながった。それに、アタシの気持ちが、紫水にバレるのが怖くてぇっ」
「柄にもなく、ずっと避けてたってわけか。くだんねー」
「うるさい・・・黙って泣かせなさいよおおおおおお」
――本当、何で紫水はこんな奴に恋してんの!?ガチで有り得ないんだけど!
風蘭が暫くの間号泣していると、コン、と何かが石の上に置かれた。
「・・・飲めば」
「・・・ありがと」
両手で取ると、缶の熱が手に広がる。風蘭は涙のシミで汚れた眼鏡を外し、ステイオンタブを引いた。
「!?あっつ!?ってこれ・・・」
茶色のラベルから、ミルクティーかココアだと推測したが、一口飲んだだけでそのどちらにもない塩味と出汁の風味が味覚と嗅覚を刺激した。
目を凝らすと、缶には『あっつ~い豚汁』のラベルが印刷されていた。
「最低!」
――ガチ泣きしてる女に差し出すもんじゃなくない!?
「なんでだよ。もう10月だぞ。もうそろ半袖は寒くね?」
「アンタのチョイス狂いすぎ!そりゃあボッチにもなるわ!」
「泣くか怒るかどっちかにしろよ」
「紫水に同じことしたらぶっ殺す!ってかアンタの寄越しなさいよ!」
風蘭が目を凝らすと、恐らく直治は緑茶のようなものを飲んでいた。
「そんだけ怒れるなら平気そうだな」
「あ、空井!と、風蘭・・・?なんで泣いてるの」
2人が声のした方を見ると、ハーフリムの眼鏡をかけた男子生徒が駆け寄ってきた。
――こ、この声は・・・「ソウタ・・・」
「やっと来た」
「超急いだんだが?僕をここに呼ぶための嘘かと思ってたけど、空井はそんなしょーもない嘘つかないもんな。いや冗談の方が良かったけど。風蘭。ハンカチ冷やしてくるからちょっと待ってて」
ソウタと呼ばれた男子はポケットからハンカチを出し、近くの水場まで走っていった。
「チクりやがって・・・!」
キッと濡れた目で直治を睨むが、彼は一笑に付した
「普通こういうのは
「だからって・・・」
「お待たせ。うわ、顔ぐしょぐしょじゃん。こんなに泣いたの政本さんと――待て空井」
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