第十六話『親友から他人に変わった瞬間』
第17話
私は風蘭ちゃんの横に立って続ける。
「ずっと話したかった。前みたいに戻りたかった。けど『sou』の『まだその時じゃない』って結果がずっとブレーキになってて、行動に移せないでいたの」
「・・・」
「風蘭ちゃん。あの時嘘ついたまま黙ってて、ギリギリで高校の進路変えて、約束守れなくてごめん」
あの日をずっと後悔してた。『sou』が『大切な人に嘘をついてしまうかも。焦らず落ち着いて、正直に話そう!』とアドバイスしてくれたにも関わらず、私はそれを無視してしまった。
――アタシ富潟中行く。ソウタも受けるって言ってたし。
――そうなの?私は・・・行けるかな。
――紫水の学力なら余裕でしょ。あ、でも前の期末みたいに解答用紙全ずれするのも有り得る・・・念の為占ったら?
――うん。あ・・・。
――富潟中って修学旅行でハワイ行けるんだって。それに文化祭はどの学校よりも派手にやるで有名だし、最寄が富潟駅だから放課後カラオケとかカフェ行きやすいし。最高じゃん?塾だって車で送ってもらう必要なくなるし。
――うん。私も、風蘭ちゃんと一緒に富潟中行きたい。
――せいぜい凡ミスに気をつけなよ。アンタ抜けてるんだから。
――そうだね・・・もっと勉強、頑張らなきゃ。
――絶対、2人で富潟中行こう。しょーがないから、高校でもアタシが友達になったげる。約束だからね!
――うん。約束。
たった一つの隠し事が時を吸って、膨らんで、2人の絆を破壊してしまうことを知っていたら。
――今より良い状況になっていたのかな。
「『sou』が無理って言っても、私は風蘭ちゃんのことが大好きで、ずっと親友でいたかったから諦めずに勉強した。黙ってたのは、風蘭ちゃんを悲しませたくなくて、風蘭ちゃんにはずっと笑っててほしくて」
「――いうところ」
「え?」
「紫水のそういうところ、ずっと嫌い」
風蘭ちゃんは私の顔を見て、チッと舌打ちする。
「言いたいこと言えてスッキリした?じゃあもう帰れば」
「まだ、帰らない」
「・・・あっそ。ならアタシがどっか行く」
私に背を向けた風蘭ちゃんの肩と腕を掴んで引き留める。
「離せ。あと、アタシがいい子ちゃんでいることクラスの奴らに言っても無駄だから。その程度で崩れる程人望低くないし。アタシの機転、紫水は何十回も見てるでしょ」
「風蘭ちゃんの、本心は?」
「・・・は?」
「それ聞かないと、スッキリしない。私に対して言いたいことあるでしょ?風蘭ちゃんらしくない」
「・・・言いたくないことしかない!」
風蘭ちゃんは堰を切ったように叫んだ。顔は見えないけどきっと――泣きそうな顔をしている。
「なん」
バッと乱暴に私の拘束を解く。
「このままでいさせて・・・アタシと紫水はもう、友達に戻らない方がいい」
「・・・」
今度は私が無言になる番だった。驚きで出そうだった涙が引っ込む。
「会ったら何か変わると思った?そんな上手くいくわけないでしょ」
「それも『占い』が・・・?」
「・・・」
「風蘭ちゃんは?風蘭ちゃんの気持ちは?」
「っ!うっさい!アタシがいなくても、新しい友達と仲良くやってんでしょ?ならそれでいいじゃん!」
「良くない!全っ然よくぁない!」
普段大声出さなすぎて声裏返った上に噛んだけど、気にせず畳みかける。
「私とずっと一緒にいることが、風蘭ちゃんを不幸にするなら諦める。でも、仲直りはしたい!友達が駄目なら、挨拶する中だけでもいいから。このまま気まずい関係が続くの、風蘭ちゃんだってキモいでしょ!なら割り切って知り合い!元小中学校の同級生でいいから!」
「何で、そんな、そこまで・・・」
風蘭ちゃんの肩が小刻みに震えているのを見て、私は思わず後ろから抱きしめた。
「何年の付き合いだと思ってるの?風蘭ちゃんが強がってるのくらい分か・・・お見通し。だよ」
「・・・真似すんなし」
あーもう!と風蘭ちゃんは全体重を私の体に預けてきた。お陰で――。
「わ、ちょっ!あぶな」
――よろけて思いっきり尻もちをついた。
「いたたたた」
「やめる!」
「ん・・・それって」
――もしかして、『親友をやめることをやめてくれる』?
「言わない!」
「えーっ!」
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