第十五話『知り合いから友達に変わった瞬間』
第16話
3人が昼休憩に行った後、空井君が手招きしてテントの中に入れてくれた。
「え、え。行っちゃった」
「昼だしいいだろ」
「良くないよ!?空井君だけなんて」
「慣れてる。それに正午にカステラ買う客なんていねーよ」
昨日もそうだったし。と空井君は三角巾を外してアイスを食べる。
「食う?」とカップごと差し出されたが、首を振って断った。もし今日私がいなかったら、昨日と同じ孤独を味わっていたの――?
――これいじめでは・・・。
悲しい気持ちになるが、今の彼にそんな感情を向けてはいけない気がした。
「・・・早く戻ってくるといいね」
「昨日は1時間戻って来なかったけどな」
「んんん」
――いじめじゃん!嘘でしょ。
「・・・泣くなよ」
空井君が指摘してやっと、私は今泣きそうな顔をしているのだと自覚した。涙が今にも目から零れ落ちそう。空井君が気丈に振る舞ってるから余計に、色々予想してしまった。
「俺がいつもこんな態度取ってるからってのもあるから。あんま気にすんな」
「・・・そっか」
持ってきたハンカチで目を覆う。ここで号泣するのは流石にまずい。
――空井君は独りが好きなタイプのように見えるけど、高1でこれじゃあ、あまりにも悲惨すぎる。
「それにこっちのが気楽でいい。細倉や正影はウゼェけど、政川は・・・一緒にいて、楽でいい」
息が詰まる。
――そ、それは!私と一緒にいると落ち着くってこと!?気を許してくれてるの!?まだ会って4回目なのに!
「わ、私も・・・」
「無害そうだし」
「褒めてる?」
「褒めてる褒めてる。政川が富潟中で、同じクラスだったらちょっとは・・・」
「え?」「すみません」
私の声とお客さんの声が重なる。空井君が接客中、私は胸の鼓動を抑えるのに必死だった。
――本当に、友達としての好きで我慢できるかな。
「直治!さっきエリ達に会って、屋台にあんた一人だけって聞い・・・」
「風蘭ちゃん・・・」
「し、すい・・・?」
全く想定していなかったタイミングで、風蘭ちゃんとエンカウントしてしまった。お互い酷く混乱状態だったものの、最初に我に返ったのは私の方だった。
「久しぶり・・・」
「なんで。『sou』はあんたが来るなんて書いてなかったってかどうして屋台に」
「素出てっけどいいのか。あぁ・・・政川は素しか知らなかったんだっけ?」
空井君が接客を終えて会話に混ざって来た――凶悪な笑みを隠さずに。
――空井君顔!笑ってるけど悪人みたい!風蘭ちゃんは顔真っ青だし!
「っ!」
「わわっ!」
風蘭ちゃんが私の腕を掴んで駆けだした。振り返ると、空井君は無表情で手を振っている。
――急展開すぎだけど、今日はこのために来たんだ。
15歳の誕生日に風蘭ちゃんから贈られたハンカチを握りしめた。
――『sou』では、まだ私達の関係は修復不可能って表示されてるけど、でも・・・!今は『占い』の結果を鵜呑みにしたくない。
人気のない校舎裏まで来た私達は軽く息を整える。
「風蘭ちゃ」「直治が呼んだの」
風蘭ちゃんは確信を持った目で私を睨む。
「・・・うん。空井君がチケットくれた」
「好きなんでしょ」
「んんっ!?」
急に指摘されて赤面する。風蘭ちゃんはしたり顔で壁に背を預けた。
「何年の付き合いだと思ってんの。紫水のタイプくらいお見通し」
「うん・・・一目惚れなんだ」
「やめなよ。あんな奴」
「それは、空井君が『占い』を信じてないから?」
「そう。絶対早死にするよ。あいつ」
――忘れてた。風蘭ちゃん、『占い』至上主義なんだった。
風蘭ちゃんのご両親は『sou』に携わった仕事をしているらしい。そのため正影家はどの家庭よりも『占い』に従った生活を徹底している。それが一番、平和で幸福な生き方に繋がることだから。
「今日は、風蘭ちゃんと話したくて来たの」
「アタシは特にないけど。どーせ、『sou』がアタシと会えって言ったから来たんでしょ」
「違うよ」
「・・・」
「私が、風蘭ちゃんに会いたいから来たの。『sou』は関係ない」
「嘘でしょ・・・直治の影響?」
「うーん。そうかも」
あの野郎・・・と風蘭ちゃんは動揺を隠すように腕を組む。
「空井君が言ってくれたんだ。『会いたいなら会いに行けばいい』って」
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